自由研究発表制度・政策1  斉藤 弥生

北欧諸国間の介護システム比較研究(2)
-ノルウェー現地調査からの報告(ホームヘルプに焦点をあてて)-

○ 大阪大学  斉藤 弥生 (会員番号3985)
大阪大学  石黒  暢 (会員番号2566)
キーワード: 《ノルウェー》 《ホームヘルプ》 《地域性》

1.研 究 目 的

北欧諸国の介護システムは、普遍型モデル、北欧モデルとして、同一に論じられることが多いが、近年、北欧諸国の介護サービスの比較研 究に目が向けられるようになった。グローバル化に伴い、民営化路線に拍車がかかり、介護サービスの標準化や効率化が求められる中、北欧の 社会福祉研究では、その行きすぎによる介護システムの疲弊も指摘されている。このような状況のもと、持続可能なシステムを求めて、介護サ ービスが持つ本質的な特性や、また地域性を踏まえた介護サービスの在り方を再検討しようとする動きがある。特にホームヘルプは各国の地域 性、産業構造の変化や女性の社会進出の歴史、家族観などに大きな影響を受けている。例えば、北欧4カ国のホームヘルプを比較すると、仕事の 内容、ホームヘルパーの意識など、多くの点で違いがみられている(Szabehely 2003)。
 本研究では、北欧諸国の介護システムの比較研究の一環として、ノルウェーのホームヘルプにみられる近年の動向とその特徴を明らかにしたい。ノルウェー は介護システムの進展においては、スウェーデン、デンマークに比べ、キャッチアップ型といえる。南北に長い国土という地理的な特徴、女性の社会進出が スウェーデン、デンマークに比べて後発だったこと、高齢化率も両国に比べて低いこと、また宗教、産業にみられる伝統的なクリービッジの存在などの理由が その要因と考えられている。
 本研究の主な目的は、以下の3点である。第一に、オスロ市(人口54万8000人)とベルゲン市(人口20万5000人)のホームヘルプサービスの供給システムと最 近の動向を比較し、その共通点と相違点を明らかにする。第二に、その共通点や相違点をもたらす要因を分析、検討する。第三に、ノルウェーにおける介護保 障における国と自治体の役割を整理する。オスロ市とベルゲン市はノルウェーでは首都と第二の都市であり、ノルウェーの伝統的クリービッジが存在している という点で比較対象とした。

2.研究の視点および方法

ノルウェーのホームヘルプの特徴について先行研究を整理したのち、オスロ市とベルゲン市において、下記の現地調査を実施した。
[調査(1)概要]   調査地:ベルゲン市(ノルウェー)   調査時期:2007年8月
調査内容と方法:①ホームヘルプへの同行調査、②ベルゲンコミューネ企業ホームヘルプ責任者へのインタビュー、③ベルゲン市元保健介護部長へのインタビュー
[調査(2)概要]   調査地:オスロ市(ノルウェー)     調査時期:2008年9月
調査内容と方法:①オスロ市保健介護部へのインタビュー、②オスロ市フログネル地区ホームヘルプ事務所へのインタビュー
[調査(3)概要]   調査対象:ノルウェー社会保健省   調査時期:2008年9月
調査内容と方法:ノルウェーの介護システム全般と近年の動向に関するインタビュー

3.倫理的配慮

ホームヘルプ利用者宅を訪問するときには、調査の趣旨を説明し、事前に利用者からの承諾を得ており、また利用者個人が特定できないよう、配慮している。また現地で収集した資料についても、研究発表での利用について許可を得ている。

4.研 究 結 果
[ベルゲン市・ファーナ地区のホームヘルプの状況]

ベルゲン市・ファーナ地区には7つのホームヘルプ事業者(2007年)がある。最も大きい事業者はコミューン・ホームヘルプ会社(KF: Kommunalt Foretak)であり、約9割のシェアを持つ。KFは、2005年春にベルゲン市でホームヘルプサービスの利用者選択制度が導入された2005年春に時に、100%コミューン出資のホームヘルプ会社として設立され、同時にコミューン直営のホームヘルプは廃止された。
 ベルゲン市のホームヘルプの特徴は、ホームヘルプは家事援助のみであり、身体介護は訪問看護の仕事となっている。訪問看護は所得にかかわらず無料で利用できるが、ホームヘルプは所得に応じた利用者負担があり、利用者負担は増える傾向にある。
[オスロ市・フログネル準自治体区のホームヘルプの状況]
 オスロ市は準自治体区(bydel)制をとっており、市内15区の準自治体区ではそれぞれ要介護認定、利用者負担などが異なる。オスロ市でも、ホームヘルプにおける利用者選択制度が導入されているが、フログネル準自治体区では9つのホームヘルプ事業者(2008年)のうち、自治体区直営が提供するサービスのシェアは約6割である。オスロ市の特徴は、ホームヘルプは家事援助(有料)、身体介護は訪問看護(無料)という基本的枠組みはベルゲン市と共通するが、排せつ介助、入浴介助をホームヘルプ(有料)の領域に移行させようとする動きがみられる。特に保守系政権の準自治体区ではこの傾向が強い。
[介護保障における国と自治体の関係]
 ノルウェーでは介護システムにおける国の役割は、法律による大きな枠組みづくり、スーパーバイズ、小規模自治体への財政支援に限られており、要介護認定、サービス供給システム、料金設定はすべてが自治体に任されている。都市部であるオスロ市、ベルゲン市では、介護システムにおいて国の直接的な役割はみられない。2009年9月に北部の過疎地域の調査を予定しており、その結果を踏まえて、中央地方関係を総合的に検討したい。

※本研究は「日本・ノルウェーにおける介護保障と福祉行政システムに関する国際比較研究」(平成17~19年度科学研究費補助金・基盤(B)研究代表者:斉藤弥生)、「北欧におけるホームヘルプの民間委託とサービスの質に関する研究」(平成20~22年度科学研究費補助金・基盤(C)研究代表者:石黒暢)による研究の一部である。

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