ドイツにおける介護契約とサービスの質の保証
-日本のサービス利用契約に対する示唆-
田園調布学園大学 金井 守 (会員番号6302)
キーワード: 《介護契約》 《サービスの質の保証》 《サービス利用契約》
福祉・介護サービス領域において、サービスの質をめぐる課題に対して関心が高まっている。制度面についても、社会福祉法第24条(経営の原則)において、社会福祉法人は提供する福祉サービスの質の向上を図らなければならないとして、サービスの質の向上が政策として取り上げられている。
日本の現場実践における福祉・介護サービスの質を向上させるための一つの契機として、介護保険制度におけるサービス利用契約が果たす役割と課題を明らかにすることを目的とする。そのため、ドイツ介護保険制度における介護契約が、サービスの質の保証システムの中でどのような位置づけを与えられ、役割を果たしているかを探求し、日本に与える示唆について考察する。
具体的には、ドイツ介護保険法制度における複数の契約制度の構造及び契約制度相互の関係を探る。また、ドイツにおけるサービスの質の保証システムの特徴と介護契約の位置づけや役割を確認する。そして、日本の介護保険制度におけるサービス利用契約の特徴を探り、今後のサービスの質の向上に向けた取組みを進める上でのサービス利用契約の役割を考察する。
研究の視点として、
①サービスの質の確保に関するシステムの存在とその役割、
②利用者・事業者間の契約制度の存在とその位置づけ・役割、
③契約の権利擁護機能と契約関係への利用者参加の状況、
④契約書に盛られた契約事項にみられる特徴、
を巡り、分析を加えていく。
研究の方法は、
現地ドイツの関係機関・施設を訪問しての現地スタッフへの聞き取り調査による事実確認や意見聴取及び現地ドイツの関係機関・施設訪問によって収集した公的文書の翻訳と分析並びに文献資料による諸情報・視点・理論の確認による。
現地聞き取り調査によって得られた情報に関する信憑性を高めるため、同行研究協力者への確認、裏付けとなる文献資料の確認など複数資料による確認作業を行った。現地聞き取り調査対象者からは、研究のため施設名、氏名等を公表することの了解を得ている。その他、個人情報・プライバシー等に関わる守秘事項については、秘密を厳守している。
4.研 究 結 果ドイツにおける介護契約は、消費者としてのサービス利用者の権利を擁護することに主眼が置かれている。また、このことが、ドイツにおける介護品質保証法における品質保証の一環に位置づけられている。介護品質保証法は、その中で事業所に対して介護サービスの質のマネジメントを行うことを求めており、介護契約締結を含めた事業所の自主的で継続的な取組みを求めている。
ドイツでは、介護品質保証法により、介護契約締結が義務化されている。また、サービスの質を保証するためのシステムが定められている。たとえば、介護サービスの質のマネジメントであり、介護サービスの質の検査体制がある。これらの社会的条件の整備の上に立って、介護契約が、介護サービスの質の確保・向上のために果たすべき役割の方向性が明確になっている。
介護品質保証法によるすべての事業所に対する予告なしの立ち入り検査が2008年7月から全面実施されている。現地訪問した各事業所では、契約書や付属書類は良く整備されていた。また、介護サービスの質のマネジメントにも取り組んでいることがわかった。今後、介護サービスの質の検査結果を踏まえ、介護契約が介護サービスの質の確保・向上のためにどの様な役割を果たしているかを明らかにすることが期待される。
日本に与える示唆として、
① サービスの質の問題を政策的にあるいは実践場面において正面から取り上げ、サービスの質を確保・
向上させるシステムの整備に取り組むことの今日的意義と重要性。
② サービス利用契約をサービスの質保証のシステムに位置づけることにより、サービス利用契約がサー
ビスの質の確保・向上に果たす役割を社会的に明確化することの意義。
③ 介護契約が法定化されサービスの質の保証システムに位置づけられているドイツと異なり、日本では
そのような制度的仕組みがないことを背景として、契約による合意の拡大や契約履行過程や履行結果
によるサービスの質の確保の推進など、契約に対する期待は大きい。日本におけるサービス利用契約
は、既に権利擁護やサービスの質確保の基盤としての機能を担っているが、今後は、サービスの質確
保・向上に向けた役割を担う可能性を持っている。利用者、事業者が互いにパートナーとして契約関係
を深め発展させることが望まれているのである。