高齢者就労における多様な就労形態とその役割について
-シルバー人材センターの発展と現状を中心に-
九州産業大学 萱沼 美香(会員番号5198)
キーワード: 《所得保障》 《生きがい対策》 《社会参加》
日本は世界に類をみない速度で急速に人口の高齢化が進展しており、2007年現在の高齢化率は21.5%となっている。今後、高齢化はさらに進展し、2035年には33.7%、2055年には40.5%に達し、国民の2.5人に1人が65歳以上の高齢者に、また4人に1人が75歳以上の後期高齢者となる社会の到来が推測されている。このように社会に占める高齢者の割合が高まることは、その国の経済社会において高齢者の生活行動が諸処に与える影響も多大なものとなるといえる。
人口高齢化が日本社会に及ぼす影響はマクロ的視点やミクロ的視点から様々な論議を呼んでおり、各方面より研究が進められているところである。特に、社会保障に関わる分野については、現行の社会保障システムは労働力の中核である若年層が引退期にある高齢者を支える賦課方式を用いた社会保険を中心に構築されているため、社会情勢に対応したシステムへの変革が求められているが、制度の支え手となる勤労者の動向が今後のあり方を左右することは変わらないであろう。しかし、支え手となる勤労者である労働力人口においても高齢化が進展していることから、高齢者の就業行動が今後の日本経済社会にとって重要な役割を担うといえる。また、大きなマスとなる高齢者層が活動的に生活することは社会の活性化につながり、経済発展にも貢献すると考えられる。高齢者が生きがいを持って社会参加する形態の一つに、社会の支え手ともなり得る就労による社会参加がある。
本報告では、一般雇用に依らない高齢者就労のあり方について、これまで高齢者の福祉的就労の役割も担ってきたシルバー人材センターを中心に取り上げ、その役割と意義を考察する。また、その他の一般雇用政策に依らない就労機会の創出や就労形態にもふれ、今後の多様な高齢者就労のあり方を考察することを目的とする。
本報告では、日本の高齢者雇用政策において、生きがいなどの多様な目的により仕事に就きたいというニーズに対応する就労斡旋組織として中核を担ってきたシルバー人材センターに着目し、歴史的発展を概観しながらその機能と役割について明らかにする。また、近年、高齢者就労における多様化への対応として新たな就業機会の確保が求められていることから、最近の多様な就労形態の動向についても考察を行うこととする。
3.倫理的配慮本報告に際し、対象となる団体や組織等に対し、倫理的な配慮を行う。また、適切な用語・表現が用いられているかの十分な確認及び参照する他者のデータなどの出所や表記に関する厳密性を確保する。また、本報告は原著論文であるが、内容において拙書に関連するものがある場合はその旨を配布資料に明記する。
4.研 究 結 果 高齢者雇用対策は、高齢化の進展が意識され始める1970年代から本格的な取り組みが始まる。定年制延長などによる企業内部での雇用維持対策と定年等による退職後のため再就職を要する高齢者に対し行なわれる再就職対策を軸に展開されるが、定年延長の実現は難航し、高齢者の雇用情勢も厳しい現状であり、高齢者の就業機会は限られていた。一方、高齢者においては、退職後もなんらかの形で就業を続けたいというニーズが高まっていた。そこで、高齢者の就業機会を創出・確保し、一般雇用に依らない就労を提供すべく、1975年東京都においてシルバー人材センターの前身である「高齢者事業団」が創設された。当事業団と同様の活動は労働市場になじまない高齢者の人的資本を有効に活用し、社会参加を促進するものとして全国的に広がる。その後、1980年に労働省(現・厚生労働省)の経費補助事業として国家予算措置が図られるとともに、高齢者労働能力活用事業に取り入れられる。さらに、86年には高齢者雇用安定法制定に伴いシルバー人材センターは法定化され、一般雇用に依らない高齢者就労対策の中核に位置づけられることとなる。
前身の事業団当時より、その活動目的が所得を主とするもの、生きがいを主とするものといったように多様であったが、就労形態は雇用に依らない「臨時的かつ短期的又はその他の軽易な就業」を提供する組織であった。しかし、景気動向による高齢者の雇用情勢の悪化や公的年金の支給年齢引き上げを背景に、当事業では加入者数等の実績を年々伸ばし、その役割と機能は拡張していく。当事業における、無料職業紹介事業(96年)、シニアワークプログラム事業(98年)、一般労働者派遣事業(2004年)の実施は、生きがい就労対策としての役割を持つ一方、労働市場では吸収しきれない高齢労働者の受け皿としての機能を重視し、より積極的な就労機会の創出を求めるものといえる。また、当事業では、加入者の生活圏内において地域の日常に密着した仕事を取り扱う特性から地域社会の活性化という面でもその役割が期待されており、「教育・子育て・介護・環境」といった社会的に重要な分野での活動も求められている。
現状として受注する業務は多岐にわたり、広い分野及び異なる専門性の度合いがある。さらに、先のような社会経済や高齢者自身の意識の変化による新たなニーズに対応するためには、広範にわたる現行の事業をその特性毎に組織を分割することも含め、再検討する必要がある。当事業の見直しの中で、多様な高齢者就労の形態として新たに施策として打ち出された高年齢者共同就業機会創出支援事業などについても触れている。