自由研究発表産業福祉・労働福祉  植戸 貴子

福祉援助職のメンタルヘルスの現状及び事業者によるメンタルヘルス対策(1)
-社会福祉士を対象としたストレスに関するアンケート調査から-

○ 神戸女子大学  植戸 貴子(会員番号2380)
神戸学院大学  阪田 憲二郎(会員番号5890)
キーワード: 《社会福祉士》 《メンタルヘルス》 《ストレス》

1.研 究 目 的

 福祉援助職は、他の対人援助職(医療・看護・教育等)と同様に非常にストレスの高い専門職であると言われている。特に近年は、メンタルヘルス上の問題から休職・退職する福祉援助職員が増えており、本人にとっても、職場にとっても、利用者にとっても大きな損失を与えている。このような状況においては、福祉援助職につく労働者が、健康でやりがいを感じながら質の高い利用者支援を展開していけるよう、適切な労働環境を整備し、必要な支援を提供することが緊急かつ重要な課題である。そこで本研究では、福祉援助職のメンタルヘルスの実態を明らかにし、福祉援助職のメンタルヘルスの維持・向上を図るために求められる労働環境や支援体制等のあり方について探っていくこととする。

2.研究の視点および方法

(1)研究の視点
 上記の研究目的を達成するために、社会福祉士を対象とするストレスに関するアンケート調査を実施した。これまでに介護職のストレスやバーンアウトに関する調査は数多く実施されているが、相談援助職のメンタルヘルスに関する調査はあまり見られないため、今回の調査では、対象を社会福祉士とした。調査に先立ち、メンタルヘルスの専門家、社会福祉事業者、メンタル不全を経験した社会福祉施設職員等から聞き取りを行い、福祉援助職のメンタルヘルスの現状や課題等を把握し、アンケート調査の質問項目に反映させた。
(2)研究の方法
 2008年7月1日~31日に、A県社会福祉士会の会員の中から無作為に抽出した350名を対象にアンケート調査を実施した。主な質問項目は、①属性、②仕事が原因のストレスによる欠勤・休職・受診・治療、③困難事例に出合った体験、④仕事で感じるストレスや大変さ、⑤ストレスを感じながらも仕事を続けられる要因、⑥健康で生き生きと仕事を続けるために期待する支援や環境整備とした。94名から回答を得た(回収率は26.9%)。

3.倫理的配慮

 アンケート依頼文には、個人が特定できない方法で集計し調査研究のみに使用する旨を明記した。結果はコンピューターで集計・分析し、個人が特定できないように配慮した。

4.研 究 結 果

(1)調査結果
 ①過去1年間に、仕事のストレスで欠勤/休職した人が12.8%、受診/治療した人は91.5%であった。また、これまでに困難事例に出合ったことがある人は76.6%であった。
 ②ストレス要因22項目について、その程度を5段階評価(1:全く感じない、2:たまに感じる、3:時々感じる、4:頻繁に感じる、5:いつも感じる)してもらった。ストレス度が高い項目は、「待遇面の悪さ」(平均3.76)、「将来への不安」(3.31)、「時間に追われる」(3.28)、「自分の力不足」(3.25)、「事務量が多い」(3.22)、「社会資源の不足」(2.03)等であった。ストレス度の低い項目は、「休日や夜間の対応」(2.02)、「自分の家庭との両立が難しい」(2.08)、「自分の適性」(2.35)、「利用者同士のトラブル」(2.38)等であった。
 ③ストレスを感じながらも仕事を続けられる要因7項目について、要因になっている程度を5段階評価(1:全くなっていない、2:あまりなっていない、3:どちらとも言えない、4:ややなっている、5:大いになっている)してもらった。要因として高い項目は、「利用者や家族に喜んでもらえる」(平均3.98)、「利用者や家族から学べる」(3.93)、「自分の仕事は社会的に意義がある」(3.93)であった。一方、低い項目は「上司や同僚の理解や支え」(3.31)、「趣味などの気分転換」(3.52)となっていた。
 ④健康で生き生きと仕事を続けるために期待する支援や環境整備について、11項目から5項目以内で複数回答してもらった。回答数の多かった項目は、「給料や休暇などの待遇改善」(全体の64.9%)、「業務の見直し」(53.2%)、「スーパービジョン体制」(44.7%)、「スキルアップのための研修や学習」(43.6)であった。
(2)考察
 ①本調査はA県社会福祉士会の会員を対象としており、回答数が94名と少なく、回収率も26.9%と低かったため、この結果を一般化して論じることはできない。
 ②欠勤・休職・受診・治療の状況からは、職務上のストレスが勤務や生活に影響を及ぼしていることが推測できる。困難事例の経験者も多く、日常的なストレス状態が窺える。
 ③社会福祉士の置かれている現状(待遇問題、業務の量的負担、制度変更に伴う業務の変化等の質的負担、社会資源の不足等)が大きなストレス要因となっている。
 ④貢献することや学び・成長できることが、仕事を続ける原動力となっている。
 ⑤健康で生き生きと仕事を続けるために、待遇改善や学びの保障を望んでいる。
(6)まとめ
 本調査では、社会福祉士が厳しい労働環境の中、ストレスを抱えながら奮闘している実態が浮き彫りになった。今後は、待遇や業務を改善し、社会資源を充実させ、社会福祉士としての成長を支援する体制を整備することが求められるであろう。
 *本調査は、2007~2008年度独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号:19500587)による研究の一部である。

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