自由研究発表司法福祉・更生保護2  滝口 涼子

刑事裁判における被害者参加制度に関する一考察
-司法福祉の視点からの検討-

上智大学大学院  滝口 涼子(会員番号6995)
キーワード: 《犯罪被害者支援》 《被害者参加制度》 《サービス評価》

1.研 究 目 的

近年,我が国では犯罪被害者施策,特に刑事裁判における被害者の権利が拡充されつつある.そもそもこの60年の刑事裁判は,公益の代表者である「検察官」対「被告人・弁護人」という二当事者対立構造を持ち,被害者やその遺族たち(以下「被害者」とする)にとっては「証拠」としての立場しかなかった.そのため,被害者は事件の当事者にもかかわらず,被告の証言に反論する機会もなく,証人としての証言や意見陳述を除いては,ただ傍聴することしかできなかった.刑事裁判のかやの外に置かれたと感じた被害者は,それに強い不満を持って刑事裁判制度の変革を訴え,自らも独立した当事者として裁判に参加することを求めてきた.また一方で,事件の衝撃があまりに大きく,裁判を傍聴して被告を直面することに耐えられない被害者も多いのに対し,検察庁や裁判所における被害者への配慮や民間の被害者支援団体による支援が全国的に始まった2000年前後までは,被害者には何の支援体制もなかった.こうした状況に対し,犯罪被害の当事者たちを中心にした運動が成果を結び,2008年12月から被害者参加制度が開始された.この制度では,従来の刑事裁判構造が維持できなくなることに対する懸念から,独立の当事者としての被害者の地位は認められなかった.しかし被害者が法廷のバーの中で検察官の近くに座り,弁護士の支援を受けながら,被告に尋問したり意見を述べたりすることができるようになったという点で,裁判のあり方が大きく変化したといえよう.被害者が法廷で被告に質問したり意見を述べたりするためには,検察官や弁護士による法的支援が必要であることは言うまでもない.これに加えて,民間被害者支援団体の支援員などの専門職には,事件直後から裁判後に至るまで,長期的に支援を行っていることから,被害者参加の経験が被害者の「立ち直り」に役立つように,法的支援と連携したサービスの提供が求められている.しかしながら,我が国の被害者支援団体の歴史はまだ浅く,また被害者参加制度の開始から間もない現在では,被害者支援の現場で,被害者参加を希望する多様な被害者に対する支援方法が確立されているとはいえない.そこで本研究では,司法福祉の視点から,1970年代より被害者支援サービスが充実し始め,それとともにサービス評価研究も行われている北米やオーストラリアなどの状況と比較することを通して,今後,我が国において被害者参加を希望する被害者への支援について考察したい.その際,外国のサービスを,制度の異なる日本にも適用できるのかという観点から,外国のサービス評価の結果に注目するだけでなく,評価方法も参考にして,日本において可能なサービス評価方法を具体的に考えながら,日本に適した支援のあり方を探りたい.

2.研究の視点および方法

本研究では,文献に基づき,北米やオーストラリアなどにおいて裁判参加を望む被害者に対して行われている支援とそのサービス評価について分析し,それと比較することで,我が国で被害者参加を希望する被害者に対する支援のあり方について考察する.

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会研究倫理指針に則って研究を行った.

4.研 究 結 果

 アメリカにおける被害者支援サービスについての最近の研究としてはRoberts(2007)によるものがある.Robertsは,被害者支援サービスを(1) 被害者・目撃者援助プログラム(Victim and Witness Assistance Programs)と(2) 被害者サービスあるいは危機介入プログラム(Victim Service and Crisis Intervention Programs)とに分けている.アメリカでは,裁判参加を望む被害者への支援は(1)被害者・目撃者援助プログラムが中心となって行う.Roberts(1990)は,全米の被害者・目撃者援助プログラムについて大規模な調査を行い,提供されているサービスの内容や,プログラムの目的,スタッフの配置パターンなどについての実践状況を把握している.同時に,1970年代後半から80年代にかけて実施された被害者・目撃者援助プログラムの評価研究をもとに,被害者・目撃者援助プログラムにおけるサービスが被害者に与えた影響などについてのサービス評価研究も行っている.一方,アメリカ以外でも,被害者の司法に対する安寧と満足に対する被害者衝撃陳述(Victim Impact Statement)の効果に関する研究が行われている(Kelly & Erez 1997).たとえば,被害者の満足感と,裁判官が判決を出すときに考えたことについて被害者が通知を受けることや,事件に関する情報の提供を受けること,また犯罪による医療・経済上の結果だけでなく,被害者の情緒的状態,家族やライフスタイル,安全に対する不安感といった犯罪の衝撃について被害者が陳述することなどとの関係が研究されてきている.
 当日の発表では,我が国での被害者参加制度の実践を踏まえ,海外の調査研究の分析をもとに,被害者参加制度を充実させていくにはどのようなことが必要か,今後の方向性について提言を行いたい.
【参考文献】
 Kelly, D. and Erez, E. (1997) Victim Participation in the Criminal Justice System, R.C. Davis, A.J. Lurigio, and W.G. Skogan eds., Victims of Crime, 2nd Ed, Sage, 231-244.
 Roberts, A.R. (1990) Helping Crime Victims: Research, Policy and Practice, Sage.
 Roberts, A.R. (2007) The Role of Social Work in Victim/Witness Assistance Programs,A.R. Roberts and D.W. Springer eds. Social Work in Juvenile and Criminal Justice settings, Charles C Thomas,279-284.

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