自由研究発表司法福祉・更生保護2  加藤 暢夫

犯罪被害者支援(急性期)
-犯罪被害者当事者の声に依拠しつつ-

ponpe mintar,名古屋芸術大学  加藤 暢夫(会員番号0733)
キーワード: 《犯罪被害者》 《犯罪被害者支援》 《ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 犯罪(含む非行,触法)をして保護観察になったり,少年院や刑務所を釈放となった人々の社会参加の支援を長年した実務家として加害と被害が穏やかで平和な社会生活が営みえることを目標とする実践スタイルと思想とを自ら点検するためにも,犯罪被害者当事者の方の生活と悩みに,ソーシャルワーク,ソーシャルワーカーとして,「国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存す」ることに寄与できるかを明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法

 犯罪被害者の権利要求が声高な時,加害―被害相互の平和な人間関係を展望するのではなく,「目には目を」(真意は,犯罪と刑罰の均衡,罪刑法定主義)と言うタリオの応報刑思想が闊歩し,社会福祉と相容れない強者生存の風潮が,雇用,教育,対人関係,……刑罰と人の生活全般に風靡している。
 元々,犯罪は,人の権利と民主主義社会を否定するものであり,この克服は民主主義社会,人間そのものにとっても課題である。
 犯罪は個人の自然的条件,対人関係のもつれや社会的諸要件の複雑な絡み等で生じると一般に解されているが,昨今加害者個人の人間性や個性,さらには動物としての人間存在を否定する行為者責任のみに着目した「新しい」刑事政策の設計が進みつつある。
 昨今の「新しい」刑事政策を動かす一つのマグマが,被害者のおかれた厳しい社会的状況や本来丁寧に扱われ被害者の尊厳を何よりも大切にするべき刑事司法(捜査や裁判等)において被害者をないがしろにした状況があることが影響していることは否めない。
 被害者をないがしろにしている状況を犯罪被害当時者(本研究では強姦と死亡事件の被害者遺族を中心)の手記に依拠し,ソーシャルワーク,ソーシャルワーカーの役割・機能を探り,刑事司法における被害者支援制度の有り様を検討することにつなげる。

3.倫理的配慮

 社会福祉学会「第2 指針内容 A 引用」に添った。

4.研 究 結 果

1) 犯罪被害者支援の先行研究
 日本における一つの流れは,刑事政策研究家による「犯罪被害者の研究」(成文堂 宮沢浩一他編 1996年6月8日)の流れ,第2は,心理臨床の分野からの「心的外傷と回復」(みすず書房 ジュデス・L・ハーマン 中井久夫訳1996年12月3日)の影響,第3は,「犯罪被害者支援 アメリカ最前線の支援システム」(径書房 新 恵里 2000年8月20)とまとめ,本研究は第3の流れにあると位置づける。
2) 司法制度下の犯罪被害者
 日本だけでなく世界の司法制度下では,被害者は「証拠」である。
 日本で言えば,犯罪被害者給付金制度の創設(昭和五十五年五月一日法律第三十六号)来,以後犯罪被害者への検察庁や公判への同伴,記録の閲覧等と被害者支援や刑法制度の改変が続いている。
 しかし,当事者が支援を必要としないと意思表示できるまでの長期の期間にわたって求められて「絶え間のない」支援ではなく刑事司法制度で加害者の法的身分の変動に連動した支援である。
3) 当事者の手記にみる
 被害者支援は,犯罪発生直後から当事者が支援を不必要とするまでの間,絶え間なく継続されることが求められるので,節目を切りながら支援内容について検討する。
ア 支援の過程
 一般的に犯罪被害者支援過程開始期には,支援対象とする当該「事件」ではない関連「事件」や関連「事件」に関する報道や情報の存在を無視できない。
支援過程は,① 加害者判明前,②加害者判明後大区分をしつつも,① 被害受難遭遇時と間近な時(急性期) ② 模索期 ③ 安定期 と大きく分ける。
イ 被害受難の時と間近な時(急性期)の支援と内容
a 支援の基本姿勢
 被害関係の支援にあたる際には,次の基本姿勢を確認しておかねばならない。
b 『急性期』の専門的支援
 a) 救急的医療へのサポート
 救急救命,医療関係者の事実上の責任=治療とヒヤリングが並行して進行
 医療専門職のヒヤリング能力の育成と司法機関/家族等との連絡連携への判断能力の育成の重要性
 強姦,強姦未遂の被害者には,「緊急避妊ピル」「性感染症(STD)の検査」の説明と実施。 医療関係者の手を離れてからのソーシャルワーカーにこれら対応の概要と対応時された配慮事項等は引き継がれていること。医療ソーシャルワーカーとの協同・協働の必要。被害者支援専門ソーシャルワーカーとの協同・協同
b) 生活への救急的サポート
 ① フレンドリー関係の樹立と継続 ② 自己嫌悪,自己否定,逆立ちした心理・精神的メカニズムの受容と支援 ③ 日常生活支援 ④ 社会生活支援
c) 心理・精神的動揺への救急的サポート
 事件発生直後から即刻必要なサポート
   検討事例;「(社)かごしま犯罪被害者支援センター」等
d) (基調的トーン)捜査協力への救急的サポート
  (配付資料参照)→支援者,捜査機関の理解の必要
e) 捜査協力への救急的サポート(具体的支援内容)
 調書作成,現場引き当て等への同伴支援(含む対応内容への助言),記録・録音の採 取 ※加害者の捜査の可視化とその実現度合い
f) マスコミへの対応サポート (配布資料参照)
4) 小活
 被害者支援は,被害発生時点から被害者・関係者が支援を不必要とするまでの期間にわたることであるが,本研究は,支援の全過程を展望することに努めつつ,本報告では急性期限定。 
① 加害の側の法的地位の変動とは関係なく一貫して被害側を支援する組織の必要。(官民の相互協力の必要=「民」不信・「民」蔑視の克服,民任せ,個人情報保護)
② 被害者支援組織と必要を市民へ周知の必要(110番や119番並の周知=電話帳一面掲載,学校教育など)
③ マスコミの経営及び組織の倫理の向上(無罪推定の原則の厳守と取り分け被害側への取材における生活権,プライバシー権侵害に及ぶ取材スクラム他の克服など)
④ ソーシャルワーク,ソーシャルワーカーの職務範囲の確立,日常性と専門性の確立(市民における開拓性の尊重と公の許容度の要拡大)
⑤ ④の理念の実践的構築と方法,技術の開拓(医療・心理との連携と独自性),地域の構築(住民自治の拡大:地域つくりVS地域の再生,
⑥ 刑罰観の進化(刑罰=生命刑,拘禁,苦役から犯罪に相応した権利制限論・他,社会福祉における社会的排除・社会的包摂論との関連)等の解決や進展など総合的複合的な時代の確実な進歩なくしてあり得ない。
 J・アダムスの「「民主主義国家では何事も大衆をとおして実現され…国民大衆ののぞむ以上の政治生活は実現できない」(トインビー ホールの100年 アサ・ブリッグスら 全国社会福祉協議会 1987年6月)

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