自由研究発表司法福祉・更生保護1  古川 隆司

高齢受刑者・保護観察者の処遇と社会復帰に関する研究(2)

追手門学院大学  古川 隆司(会員番号2430)
キーワード: 《高齢受刑者》 《更生保護施設》 《ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 刑法犯に占める高齢者が増加する中,社会復帰の困難が刑事政策の課題となっている(法務省法務総合研究所2007・2008)。かれらの多くが社会的に孤立し,援護を要する状態にあるかもしくは犯罪に至っていると考えられ,社会的受け皿の脆弱な中で社会復帰していく(古川2008)。これまでの研究報告では,加害者の社会復帰に向けた課題分析を試みた。本報告では社会復帰における支援活動について,仮釈放を受けた者へのインタビュー調査と更生保護の指導の現状から社会復帰に向けた課題分析を試みる。

2.研究の視点および方法

(1)本研究の視点は,刑事政策の対象である元受刑者,更生保護施設の帰住者自身の語りにより表明される社会復帰に対する心情や不安・展望などに着目し,更生保護における高齢保護観察者の社会復帰における課題を明らかにすることにある。
 対象として,2007年1月?2009年6月に更生保護施設職員・利用者への半構造的インタビュー調査をのべ11回実施してきた。また高齢者の社会復帰支援の先行例を国内・海外のケースから見学と文献レビュを通して収集した。
(2)方法として,社会復帰支援の先行例については文献研究の他,刑事施設における高齢受刑者向けグループワークの参与観察を行った。また帰住者に対するインタビューでは,帰住者が犯罪をなして刑事罰を受け,釈放を受けてから社会復帰する過程を,グラウンデットセオリーアプローチ(以下,GTA)にもとづいて軌跡とし,KJ法A型図式を経てモデル化し,社会復帰における課題を考察することとした。

3.倫理的配慮

今回の研究にあたっては以下の手続を行った。①調査協力の依頼にあたり更生保護施設の施設長宛に研究計画の説明と守秘義務に関する誓約書を提出し,監督官庁及び当該施設の許可を得た形で帰住者に対するインタビュー調査の実施許可を得た。インタビュー調査に協力頂ける帰住者の選定は施設側で行ってもらい,個室で面接方式によりインタビューを実施した。この際,帰住者に個人情報保護に関する説明を行い,氏名その他個人が特定されないような形をとることで同意を得,その上で録音とメモによる記録を行った。また終了後,施設へインタビュー結果の報告・査読を経たものを使用することとした。その他本報告にあたっては,日本社会福祉学会研究倫理指針にもとづいて資料を作成した。

4.研 究 結 果

(1)調査の結果
 海外文献及び先行例については高齢犯罪者に関連する文献資料の他,高齢者虐待・DV関連の支援団体のリーフレット等を含め,更生保護実務家数名の助言を得て収集し,結果を吟味した。またM刑事施設(A級)における高齢受刑者向けグループワークの参与観察および刑務所教育担当(以下,教育担当)へのインタビューを通し,当事者がたどる軌跡について仮説を立てた。 (2)更生保護施設における調査は,職員及び協力雇用主への聞き取り調査を実施した後,本人の同意を得て仮釈放を受けた帰住者へのインタビュー調査を実施した。結果はメモ・録音から書き起こし,職員の査読を得て,コーディングした,当事者と家族との関係・周囲の支援との関係について,当事者の軌跡としてモデル化した。以上から当事者の軌跡は《犯行前》《犯行直前》《犯行後》《収容中》《釈放前》《釈放後》の6段階に区分できた。インフォーマルネットワークでは,家族関係は《事実の受容》から《修復》ないし《否認》の過程を辿り,近隣や友人との関係は多くの場合,葛藤を解決できないまま《途絶》ないし《一方通行》であることが分かった。
(2)考察と課題 太田らの実施した調査によると,高齢犯罪者はライフコースからみて6パターンがあるとされる。ここから犯罪傾向と社会復帰に関連性が見出せることが示唆される。本報告の基礎となった帰住者の犯罪傾向は累犯3名・初犯1名であるが,度数に比例して釈放後の生活見通しが楽観的で,家族や近隣・友人との話題は乏しいことが明らかとなった。補足的にA級刑務所でのプログラム参加者をみると,犯行前は半数以上が単独ないし老齢世帯,ほぼ全員が農林・土木業に従事してきたが現在は無職・約1/3が無年金であった。これは,インタビューを行った帰住者でも同様で,釈放前は過去(犯罪前)の生活と区切りをつけようという思いがありながら,障壁が多く社会復帰への意欲を低下させていく。したがって社会復帰までに支援を検討すべきであるが,現行は更生保護施設等が事前に矯正現場と情報共有できず受け入れが難しくなる傾向が強い。また入所中に帰住者の生活課題の緩和・解決に向けたアプローチの必要性が示唆された。

【参考文献・資料】法務省法務総合研究所(2007)「研究部報告37高齢犯罪者の実態と意識に関する研究」;法務省法務総合研究所(2008)『平成20年版犯罪白書』;古川隆司(2008)「高齢犯罪者の増加と社会福祉の関係,課題」龍谷大学矯正・保護研究センター研究年報No5,175-189.;古川隆司(2009a)「高齢犯罪者の釈放前調整におけるソーシャルワークとの連携」犯罪と非行No.160,209-223.;古川隆司(2009b)「高齢犯罪者の更生保護における課題と福祉的援護」龍谷大学矯正・保護研究センター研究年報No.6(印刷中)
※1数値はいずれも本要旨執筆時点の情報にもとづく。 ※2本報告は平成19?21年度科学研究費(基盤研究(C))の助成を受けた成果の一部である。

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