自由研究発表司法福祉・更生保護1  島谷 綾郁

刑務所等におけるソーシャルワーク業務に関する一考察

小学館集英社プロダクション   島谷 綾郁(会員番号7079)
キーワード: 《刑務所等》 《ソーシャルワーク》 《連携体制》

1.研 究 目 的

 近年わが国では,受刑者の過剰収容や高齢・障害等受刑者の増加が目立ち始めている.こうした中,監獄法(1908(明治41)年制定)が約100年ぶりに大改正され,2005年から順次,社会福祉士,精神保健福祉士(以下,「ソーシャルワーカー」と記す)が全国数ヶ所の一般刑務所,医療刑務所および社会復帰促進センター(以下,「刑務所等」と記す)で配置されるようになった.しかし,そこに勤務するソーシャルワーカーの役割,業務内容はどのようなものなのかについては,明確にされていない.
 そこで本研究は,わが国における刑務所等に勤務するソーシャルワーカーを対象にインタビュー調査を行い,得られたデータをもとに,刑務所等におけるソーシャルワーク業務の現状と課題について考察することを目的とする.

2.研究の視点および方法

 調査対象は,全国の刑務所等全13庁(2008年8月現在)のうち,調査協力が得られた4庁9名のソーシャルワーカー,調査時期は,2008年6~8月である.また,調査方法は,半構造化面接法を用いたインタビュー調査,研究方法は,質的記述的研究法である.

3.倫理的配慮

筆者が調査当時に在籍していた大学院の学内倫理委員会の承認を得た上で調査を行った.また,インタビュー開始前に調査対象者に対して,紙面および口頭にて本研究の趣旨等について十分説明をし,加えて以下の点について配慮することを伝えた.
 (1)インタビュー内容は,秘密を厳守し,本研究以外には絶対に使用しないこと.(2)個人情報などが含まれてしまった場合には,その内容はデータとして取り扱わないこと.(3)研究に参加するにあたり,調査の受諾・中断・拒否など,いずれの場合にもそれによる不利益が生じることはないこと.(4)刑務所名や職員の個人名等,個人を特定できる言葉は一切公表しないこと.(5)ヒアリング調査の録音テープおよびアンケート用紙は,終了時に責任を持って必ず破棄すること.

4.研 究 結 果

 調査の結果,刑務所等におけるソーシャルワーク業務の現状と課題として,393の第1コード,136の第2コード,67の第3コード,31の第4コード,最後に,【刑務所等に勤務するソーシャルワーカーの業務内容】,【高齢・障害等受刑者への現在の対応のあり方と出所後の現状】,【刑務所内外における他職種(刑務官,心理士等),他機関(市町村役場,更生保護施設等)との連携体制の現状】,【刑務所等におけるソーシャルワーカーの専門性と位置づけ】,【刑務所等における現在の問題点と今後の課題】の5つのカテゴリーが抽出された.これら5つのカテゴリーの詳細は,以下の通りである.
 第1に,【刑務所等に勤務するソーシャルワーカーの業務内容】からは,国が提示しているソーシャルワーカーの業務内容と現場で行われている業務では,その内容が一致しているとは言えず,両者の間にソーシャルワーカーの業務内容に関する認識の不統一が生じている現状が明らかになった.
 第2に,【高齢・障害等受刑者への現在の対応のあり方と出所後の現状】からは,刑務所内での受刑者に対する教育プログラムが,職員側から受刑者へ向けられた一方通行のプログラムに終始している現状が明らかになった.
 第3に,【刑務所内外における他職種(刑務官,心理士等),他機関(市町村役場,更生保護施設等)との連携体制の現状】では,刑務官,ソーシャルワーカー相互のアドバイス要請など,さまざまな形の部分的な協力は日常的な場面で行なわれているものの,刑務官や他職種との相互連携を図るシステムができていない,職種間の相互連携の欠如により情報伝達の欠落が生じている,などといった課題も多く指摘されており,現状の連携体制は表面的・部分的なものであり,決して充実した連携体制が組まれているわけではないことが明らかになった.
 第4に,【刑務所等におけるソーシャルワーカーの専門性と位置づけ】では,福祉職の業務内容が未確立,スーパーバイザーがいない現実などといった,不十分な現状にあることが指摘され,その一方で,刑務所等におけるソーシャルワーカーは,受刑者を要支援者と見るのか受刑者と見るのかといった基本的なジレンマを抱えていることが明らかになった.
 第5に,【刑務所等における現在の問題点と今後の課題】では,受刑者個別処遇の不十分さ,職種間連携の不十分さ,社会や福祉に見放された人々が刑務所に多く入所している
 ことの問題点などが抽出された.また,一般社会では刑務所等を出所した者に対する社会の支援体制が整っていないこと,刑務所等におけるソーシャルワーカーを確保するための財源が不足している現状などが明らかになった.
 これらのことから,受刑者に対する処遇体制のシステムをつくり強化していくのみではなく,連携を確立するための構成要員としての刑務官,ソーシャルワーカー,外部機関などとの信頼関係の形成と相互の理解を図ることこそが,協働姿勢の確立,連携の継続に繋がり,受刑者処遇等に関する目的や情報の共有化を進め,受刑者に対する教育指導を実りあるものにするための近道であると考察された.

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