自由研究発表司法福祉・更生保護1  藤原 正範

2000年少年法「改正」後の児童福祉・少年司法の動向に関する研究(3)
-犯罪・触法行為の被害者への対応をめぐって-

鈴鹿医療科学大学 藤原 正範(会員番号1315)
キーワード: 《被害者の視点》 《被害者への配慮》 《非行と向き合う取り組み》

1.研 究 目 的

  過去2年にわたって、2000年「改正」少年法が施行される中で、少年司法・児童福祉の実務、その両者の関係がどのように変化したかについて研究報告を行った。そのテーマは、一昨年は、「改正」法施行前後の最高裁判所司法統計年報から読み取れる実務の動向であり、昨年は、2005年に発足し、2006年2月に報告書が公表された「児童自立支援施設のあり方に関する研究会」(以下、「あり方研」とする)の審議と報告の内容であった。2000年以降、少年法は、2007年、2008年に2度「改正」された。一方、児童福祉法は1997年の大改正後、ほぼ毎年のように改正が重ねられている。
  この間の少年司法を大きく動かしてきた背景に、被害者の権利を擁護する政策の推進、被害者自身の刑事司法改革に向けてのソーシャルアクションがある。これによって、家庭裁判所の調査・審判、保護観察所・少年院の処遇は変化した。被害者の視線は、「不良行為」の子どもを対象とする児童自立支援施設、ときには児童相談所の業務のあり方にも及ぶ。本年度の研究は、未成年者の行為の結果害を被った人への対応を少年司法、児童福祉が、それぞれの実務においてどのようにとらえ、どのような取り組みをしてきたかを整理し、現在何が問題になっているかを検討することを目的とする

2.研究の視点および方法

  本研究は、法制度、政策の動向のほか、1990年以降の犯罪被害者による出版物、2000年以降の少年司法、児童福祉の実務に関する通達、マニュアル、実務家による論文、調査報告などを整理することにより進める。明らかにすべき柱は次の3点である。
(1) 被害者の権利擁護に関する立法、政策、及び被害者の主張、活動
  被害者がすべて一枚岩であるわけではなく、人やグループによって主張や活動に種々の違いがある。しかし、大きな流れとして、被害者の声が原動力となり、その権利擁護にとどまらず、司法手続きへの参加、ひいては厳罰化が推進されてきた。加害側が低年齢であればあるほどその制度に被害感情を反映させることが困難であるため、被害者の視線が厳しくなる傾向が見られる。
(2) 少年司法の動向
  2000年の少年法「改正」における被害者への配慮規定の活用は、2001年4月~2006年3月の合計で、記録の閲覧・謄写が2,836人、意見聴取が791人、結果通知が3,153人であった。この結果をどう見るかを検討しなければならない。さらに、2008年の再々「改正」により被害者の少年審判傍聴が可能になったが、実際に傍聴が行われた数、そのことによる少年審判への影響を吟味する必要がある。また、法に明確な規定はないが、この数年間、家庭裁判所の調査・審判、保護観察所と少年院の処遇は、被害者の視点を取り入れる方向に変更されてきた。
(3) 児童福祉の動向
  児童福祉分野は、本来、触法行為の結果生まれる被害者とは無縁の存在である。しかし、児童自立支援施設は少年法の保護処分の執行機関であり、さらに重大触法事件の加害児童が入所したという事情が加わり、被害者の視点を取り入れざるを得ない状況に至った。2006年の「あり方研」報告書、2007年度から着手され現在も進行中の「児童福祉施設における非行等児童への支援に関する調査研究事業」(以下、「調査研究事業」とする)中間報告書には、児童福祉実践に被害者の視点を取り入れようとする努力を見ることができる。

3.倫理的配慮

本研究は文献の調査検討を中心としており、倫理上の問題が生じる余地はない。

4.研 究 結 果

 少年司法においては、法改正、被害者団体の意見を採り入れ、その執務内容を積極的に変更しようとする姿勢が顕著である。家庭裁判所では、被害者調査の推進、保護的措置への被害者の視点の導入などが進められた。これは、2000年「改正」の被害者配慮規定の履行にとどまらず、弊害のない限り加害少年の健全育成のために被害者の視点を活用しようとするものである。また、執行機関である少年院、保護観察所でも、贖罪教育、被害者への謝罪・被害弁償の取り組みの奨励などが行われている。被害者のニーズがさまざまであるため、どこに照準を合わせるかが、現在、問題になっている。
 一方、児童自立支援施設においては、少年院の方法を参考にしながら検討が重ねられてきた。「あり方研」報告書の「2.自立支援機能の充実・強化」中「自らの行った非行行為と向き合う取組を通じた自立支援のあり方」に「被害者への配慮という観点」の重要性が書き込まれ、児童福祉実践でもこの問題を避けて通れないことが明らかにされた。「調査研究事業」報告書(平成21年3月版)には「非行と向き合う取り組み」として、「被害者の視点を取り入れた指導」が挙げられ、その中で被害者に謝罪の手紙を書かせる指導例が紹介されている。少年司法と比べると、何を目的として被害者の視点を取り入れるのかが不明瞭である。また、児童福祉においてこの問題を論ずる場合、子どもの心の発達段階と贖罪、謝罪との関係が明確にされることが必要である。

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