自由研究発表医療保健・医療福祉2  黒川 雅代子

突然の死別を経験した遺族に対する支援方法の検討

龍谷大学短期大学部  黒川 雅代子 (会員番号4026)
キーワード: 《第3次救急医療施設》 《突然の死》 《医療ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

 我が国において自死(自殺)で亡くなる人は、年間30,000人以上にのぼっている。死者1人に遺族が5人と考えると、単純計算しても年間自死遺族だけでも150,000人以上の人がいると考えられる。突然の死別を経験する遺族は、自死のみではなく、事故や突然の病気等、この何倍もの遺族が存在し、予期せぬ喪失悲嘆を経験している。近親者との死別後、時に遺族に悲嘆反応として、うつ症状や心身の症状が出現することは過去の先行研究でも述べられている。そのため、遺族への専門的な支援について検討することは重要である。
 平成18年に自殺対策基本法が施行され、家族の支援については明文化された。しかしこういった心身の症状が出現した遺族に対する具体的な支援については、まだ整備されていないのが実情である。また、こういった制度による明文化は、自死と犯罪被害者に限られている。
 ある程度看取りの時間があり、十分な死へのケアがなされるホスピス病棟でさえ、遺族へのケアは重要視されている。突然に大切な人を亡くすということを経験する遺族へのケアは、さらに重要な事項である。
 十分な支援体制が整備されていない我が国において、遺族への支援を検討するためには、まずは家族・遺族の現状およびニーズを明らかにする必要がある。そこで、救急医療施設に搬送された遺族に対して、ニーズ調査を実施した。本発表では、遺族に実施したニーズ調査の量的・質的調査結果を踏まえて、遺族の支援方法について検討したことを報告する。

2.研究の視点および方法

 2007年6月に、2003年8月から2006年12月までにA救命救急センターに心肺停止状態で搬送され外来死した患者514名うち、倫理的配慮、住所や家族が不明瞭等で除外した約395名に質問紙調査を実施した(うち73通は宛先不明で返送)。
 結果、105名の遺族より回答を得た(回収率約32%)。
 有効回答は2名の白紙を除く103名で、回答者のうち31名に直接のインタビューの承諾が得られた。
 アンケート集計の分析については、SPSS 15.0 for windows , 数理システム Text Mining Studio を用いた。

3.倫理的配慮

① A救命救急センターの倫理委員会の承認を得る
② A救命救急センター疫学研究実施規程に則って実施
③ 犯罪や加害者が家族となるような症例は除外
④ 心療内科医師や遺族会の意見を聴取
⑤ 依頼状作成にあたっては、遺族感情に十分配慮し、複数の遺族会の代表に、文言の確認をしてもらう
⑥ 調査依頼に際しては、任意での依頼であること、承諾しなくてもなんら不利益は受けないことを説明
⑦ 遺族に対して、必要時社会資源が提供できるよう整備
⑧ データ収集にあたっては、情報の漏洩を防ぐため、すべて病院内で行い、インターネット接続をしないパソコンを準備

4.研 究 結 果

 救命救急センターに心肺停止状態で搬送される患者の病院滞在時間は、4時間未満が80%を占めていた。また家族が病院到着時、すでに治療は終了しており、患者と死亡後に対面する家族が13%であった。上記数字からみても、家族と医療従事者との接点は少なく、ほとんど支援を受けられていない状況であることが予測された。
 死別後の生活の変化については、「体調を崩した(約36%)」「生きがいの消失(約30%)」「何も手につかない(約24%)」「経済的不安(約23%)」と訴える人が多かった(複数回答)。死別後の生活の助けについては、「家族(74%)」「友人(48%)」「趣味(34%)」が上位であった(複数回答)。逆に、カウンセラーや医療機関等を挙げている人はほとんどいなかった。遺族が希望する支援については、「経済的支援(26%)」「カウンセラー(24%)」「医師(24%)」が上位にあがっていた(複数回答)。カウンセラーや医師の支援の希望者は多いが、実際には受けられていない現状にある。このことから、それら資源の情報提供や受診出来る体制について検討が必要であることが読み取れた。
 うつ尺度(CES-D)では、27%の人がうつ状態を示す値であった。複雑性悲嘆尺度では、43%の人が、複雑性悲嘆を示す値であった。
 上記の結果を踏まえて、救急医療施設での医療スタッフの支援方法や死亡退院後の生活に対する社会資源等について検討したことを報告する。

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