自由研究発表医療保健・医療福祉2  加納 光子

改正精神衛生法時代の保健所における精神保健ソーシャルワーク
-どのような状況で、どのような業務を行ったか-

武庫川女子大学  加納 光子 (会員番0955)
キーワード: 《地域》 《精神保健》 《精神保健ソーシャルワーク》

1.研 究 目 的

地域には戦前では1937年、戦後では1947年の保健所法(のちに地域保健法)公布以降、保健所の行ってきた精神保健も含む公衆衛生活動があり、また、1965年の精神衛生法改正以降、保健所に置くことができるとされた精神衛生相談員(当時)が担った、精神障害者(注1)を主たる対象とする精神保健実践があった。
 しかし、1999年の精神保健福祉法の改正で、保健所の精神保健業務のうち、社会復帰に関するものは市町村に委譲され、市町村の多くは、その業務を民間に委託するという状況が出現した。市町村そのものが、精神障害者の社会復帰を推進する専門職や施設・設備を持っていないところが多かったからである。そして、こうした流れの中で、精神保健福祉法、心神喪失者等医療観察法、障害者自立支援法などの実施以降、民間の側からの精神障害者の社会復帰のための施設やそこで働く人々も増えてきた。一方、2005年の改正介護保険法で、地域の介護支援を行う中核的機関として設立された地域包括支援センターには、高齢者虐待などの相談業務が多く持ち込まれている。虐待は明らかに精神科的サポートが必要な場合が多い。
 このように現在、地域には、精神科的サポートの必要なケースがバラバラに対応されている。
 本研究は、精神衛生法時代に遡って、保健所の精神衛生(当時の呼称)業務を大阪府の場合に限定して検証し、今後の地域における精神保健ソーシャルワークシステムの構築に寄与することを目的としているが、今回は当時の精神保健ソーシャルワークの状況について考察する。
 なお、タイトルの精神保健ソーシャルワークは、保健所の精神保健業務を担った人々のうち、福祉職の相談員の専門業務をさしている。

2.研究の視点および方法

本報告では保健所の精神保健ソーシャルワークを、2つの視点から分析している。
 ①行ってきた業務
 ②職場環境(研修を含む)
 方法は、当時の保健の精神衛生相談員に対する聞き取り調査と、文献・資料の収集、分析を行っている。

3.倫理的配慮

所属機関の研究倫理委員会の審査を受け、許可を受けた。そして、聞き取り調査の対象者からの同意を受けている。また、発表時に、個人が特定されないように、匿名や、本質を損なわない程度の内容の変容を行っている。

4.研 究 結 果

①改正精神衛生法時代の保健所の精神保健ソーシャルワークは
   以下の3種類の方向を持っていた。

a.精神保健  b.精神障害(医療と社会復帰注2)
       
  Psychiatric Social Work
            
          c.障害

 aには、発達相談やカウンセリングなどが含まれる。精神保健ソーシャルワークである。bはその後、業務の大部分を占めるようになった精神障害者を対象とする業務である。精神障害者ソーシャルワークである。精神障害者ソーシャルワークは、精神科医療の側面支援的な働きをする精神医療ソーシャルワークと社会復帰を促す社会復帰ソーシャルワークに2大別される。ここでは、Psychiatric Social Work(精神科ソーシャルワーク)は、精神保健ソーシャルワークと、医療と社会復帰を含む精神障害者ソーシャルワークの両方を含むものととらえている。cには、障害児のための施設づくりなどがあった。その後、bの方向に向かって行った。
 なお、精神保健は、精神の病気の予防、精神の不健康や半健康の改善、精神の発達援助、の3側面があり、医療の部分を除いた医療の前と後ろを受け持つといわれている。したがって、厳密にいえば精神保健ソーシャルワークは精神医療ソーシャルワークを含まないということになる。ただし、どちらも精神科ソーシャルワークである。
 ②職場環境
 ⅰ.周知のように、精神衛生相談員がおかれた1960年代後半は、社会防衛的な色彩が強かった。したがって、進歩的と言われた一部の医師たちからは、相談員は管理的、抑圧的機能を持つ職種と受け止められていた。しかし、そうは言いながらも、嘱託の医師たちは相談員の医学教育や、業務に概ね協力的であった。
 ⅱ.初めての職種で、配属された相談員も、それを受けた保健所の側も何をすればいいのか、何をさせればいいのかわからなかった。また、保健所において大学卒の女性は、初めてのところが多かった。良い意味でも、悪い意味でも、放任されていた。
 ⅲ.何をしていいかわからないところから、同じブロックの他保健所の相談員たちと、自発的に研究会をもって、自己啓発にあたった。
 ⅳ.戦地体験のある保健婦(当時)たちもおり、仕事の厳しさを教わった。
 ⅴ.その他
 (注1),(注2)とも、法律用語に従った。

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