保健医療領域におけるジェネリックの整理
-社会福祉専門職新カリキュラムと保健医療サービス-
日本福祉大学 田中 千枝子 (会員番号2208)
キーワード: 《社会福祉士養成教育》 《ジェネリックソーシャルワーク》 《保健医療サービス》
ジェネリックなソーシャルワーカーをめざす社会福祉士養成教育の中で、保健医療領域をどのように扱うかについては従来から議論がある。平成13年~14年の社会福祉学会自主企画シンポジウム(田中・室田・小嶋ら)で、各大学における医療福祉基幹科目の枠組みのタイプ別分析とシラバス調査を行った。また平成17年~19年にかけての社会福祉学校連盟教育セミナーでの「医療福祉」関する分科会(笹岡・田中・児島ら)でジェネリック・スペシフィックの切り分けについて意見交換があった。また平成18年日本学術振興会研究事業として行われた「医療ソーシャルワーカー養成教育の現状とあり方に関する基礎研究(永野・小嶋・竹中・横山)」では保健医療福祉関連授業の不足の現状と担当者の意見によるあり方の提示が行われた。
保健医療領域の社会福祉専門職養成に関する議論では、ジェネリック部分を社会福祉士に入れ込むのか、またははじめから別々に考えるのか、全体のフレームワークが定まらないために、必要な時間数や内容項目シラバス等が具体的に検討できない状況が長く続いた。従来、医療福祉関連科目は必修や指定科目ではなく、任意でかつ多様な科目設定で大学ごとにバラツキの幅が大きく、教育課程上、その善し悪し、適否を評価するような体制がとれなかった。
しかし今年度より社会福祉士養成教育に新カリキュラムが導入され、①「実践力」をキーワードに、保健医療領域でも社会福祉人材を制度として育てることが唱えられた ②保健医療領域の科目として保健医療サービスが、社会福祉士と精神保健福祉士の共通科目として設定された ③司法や雇用など第二次分野の福祉への社会福祉士雇用対策への目配りが行われ、その先行分野である保健医療領域での社会福祉専門職教育の内実が問われることとなった。
そこで本研究では、厚生労働省から提示された指定科目「保健医療サービス」の学習のねらい、シラバスと教育内容の例示にみる、ジェネリック部分の内実に対して、実際の発刊された教科書とのクリティカルな比較をする。それによって、社会福祉専門職の保健医療領域のジェネリック部分に何が必要と考えられているのかを整理する。さらにそれらを医療ソーシャルワーカー養成との関係においても分析し、「保健医療サービス」が保健医療領域のソーシャルワーカー養成の基礎科目でありえるかどうかを検討することを目的とする。
ジェネリックとスペシフィックの関係性を、平成20年日本学術会議によって示された専門性の構造等によって規定した。さらに試験科目としての「保健医療サービス」における項目に沿った保健医療領域のジェネリックなるものの軸と論点を抽出した。さらに今年度指定科目としての教科書として発刊された一連の教科書(5種)の内容を、それらの内実に合わせてクリティカルに比較・分析した。
3.倫理的配慮本研究は個人的データを扱わず、また公的に出版されたデータを使用して比較を行った。
4.研 究 結 果 保健医療領域のジェネリックを社会福祉士・精神保健福祉士に必要な価値および基礎知識や技術の総体であるとした場合の、制度側および教育側が意図したジェネリックの軸と論点を明らかにした。
指定科目のシラバスの内容と<○想定される教育内容><・例>
1)医療保険制度<○制度概要 政策動向><・高額療養費制度の概要・その他>
2)診療報酬<○制度概要><・状況別診療報酬状況(在宅療養・ターミナルケア)>
3)保健医療サービスの概要<○医療施設概要><○保健医療対策の概要>
<・特定機能病院、回復期リハ病棟、地域医療支援病院、診療所><・その他>
4)保健医療サービスにおける専門職の役割と実際 <○医師の役割><○インフォームドコンセントの意義と実際><○保健師・看護師等の役割 ○作業療法士、理学療法士、言語聴覚士等の役割><○医療ソーシャルワーカーの役割><・医療ソーシャルワーカー業務指針><・その他>
5)保健医療サービス関係者との連携と実際 <○医師・保健師・看護師等との連携><・連携の方法><・連携の実際><・医療チームアプローチの実際><・その他><○地域の社会資源との連携><・連携の方法><・連携の実際><・その他>
全体像
A)保健医療サービスが保健医療領域の社会福祉の基盤科目であることの規定の仕方
B)学習のねらいと目次や言及範囲の比較
C)ジェネリックを意識しているか否か スペシフィック部分の取り扱い方
以下の点で、相違や特徴が顕著である。
1)制度論かソーシャルワーク論か
2)医療ソーシャルワーカーと社会福祉士との関係性
3)各専門職と「役割」の取り扱い
4)「連携」の範囲と実行主体の取り扱い
5)「保健医療組織」と「地域医療」メゾレベルの「連携」の重みづけ
6)「価値」「倫理」の取り扱い