自由研究発表医療保健・医療福祉1  片平 洌彦

薬害C型肝炎被害者の受けた被害と社会的支援の課題
-第1報 文献的考察-

 ○ 東洋大学  片平 洌彦 (会員番号5210)
日本福祉大学  牧野 忠康 (会員番号1718)
東京大学  山崎 喜比古 (会員番号5041)
東洋大学  小澤 温 (会員番号0260)
キーワード: 《薬害C型肝炎》 《被害実態》 《被害者福祉学》

1.研 究 目 的

 2002年10月以降全国5地裁で行われた「薬害C型肝炎訴訟」は、1審での5判決を経て控訴審の途中、2008年1月に国会で「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(薬害肝炎特措法、以下「特措法」)が成立した。そして、福田康夫総理大臣が「お詫び」と「再発防止」の談話を出し、原告と被告国との間で「基本合意書」が調印されて、以後、和解が順次成立している。また、被告製薬企業3社と原告団の間でも2008年9月と12月に和解の合意書調印が行われた。これにより、薬害C型肝炎被害者は、裁判所で「特措法」の対象者と認定された人については被告側の賠償が行われつつあるが、投薬証明が得られず認定されない人や、第Ⅷ因子製剤等他の血液製剤で感染した人は対象外とされている。
 「再発防止」については、「基本合意書」に基づき「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」が設置され、この検討委員会に資料を提供することを目的に「薬害肝炎の検証および再発防止に関する研究班」(堀内龍也班長、以下「堀内班」)が設置された。片平は、牧野らと共に2003年9月から薬害肝炎問題について研究を重ねてきた関係で、この堀内班への参加を要請され、2008年12月から「研究協力者」として「被害実態」に関する調査研究を分担し、2009年度は「分担研究者」として被害実態の全国的な調査を分担することになった。そこで、本報告では、2008年度に行った「文献的考察」のまとめを紹介した上で、山崎、小澤らが行ってきた「薬害HIV感染被害」の実態調査結果との比較考察を行うこととした。

2.研究の視点および方法

 1970年代以降、薬害スモン、薬害エイズ、薬害ヤコブ病の被害実態調査研究で行ってきたのと同様に、被害の総合的・構造的把握を試みた。(方法は本報告執筆時点では文献的考察の範囲を出ないが、堀内班において被害実態調査が進めば、その報告も追加の予定。)

3.倫理的配慮

本学会の「研究倫理指針」に従った。

4.研 究 結 果

1)被害の社会疫学的実態:
(1)被害者数については、片平は2005年の論文で、フィブリノゲン製剤と第Ⅸ因子製剤併せて3万人の規模と推定したが、この数値は、被告企業が2001~02年に出した報告に基づく推定である。「堀内班」が2009年3月に出した「中間報告書」では、フィブリノゲン製剤だけで、10,594人から279,394人までの間と推定している。
(2) 2008年7~8月実施の薬害肝炎全国原告団・弁護団による原告755人を解析対象とした郵送調査では、女性582人(77.1%、母比率の95%信頼区間[以下「95%CI」]=73.96~79.94%)、男性173人(22.9%);フィブリノゲン製剤684人(90.6%、95%CI=88.30~92.48%)、第Ⅸ因子製剤77人(10.2%、95%CI=8.24~12.56%);回答時点では、無症候性キャリア114人(15.1%)、慢性肝炎420人(55.2%)、肝硬変75人(9.9%)、肝がん16人(2.1%)、死亡35人(4.6%)、インターフェロン治癒114人(15.1%)、自然治癒10人(1.3%)。
2)被害の保健医療福祉学的実態:
主題に関連する調査としては、山崎京子らが1996年に行った全国の肝炎患者1,094人を対象としたものがあり、偏見や差別の実態も含め報告されているが、肝臓病患者会会員を対象にしており、「薬害被害者」に限定されたものではない。片平・牧野らは、この「薬害被害者」として提訴した原告を対象に、東京地裁提訴の4人対象の面接調査(2003年9~11月)、福岡地裁提訴の11人対象の郵送・面接調査(2005年2月)、全国5地裁提訴の62人対象の郵送調査(2005年2~4月)を行った。これらの調査から、薬害肝炎被害は以下の7点に集約された:①医療過程で感染させられた被害②感染に伴う肉体的苦しみ・被害③治療に伴う負担・苦しみ④感染に伴う精神的苦しみ・被害⑤家族への被害⑥偏見・差別による被害⑦健康な・希望に満ちた人生を奪われ、生活を破壊された被害。そして、被害者たちの主要なニーズは、原状回復、医療体制の整備、経済的負担の軽減、被告の反省・謝罪、真相究明、薬害再発防止であり、これら諸問題の解明・解決が急務であると指摘した。また、前記の薬害肝炎全国原告団・弁護団による調査では、医師の説明・告知、病状、治療薬の副作用と医療費負担、偏見・差別等の実態が解明されている。
 概要以上のような結果から考察を加えると、まず、被害実態については、薬害HIV感染症(以下「HIV」)被害を薬害スモンとの比較で論じた小澤の手法で、HIVと薬害C型肝炎の被害を比較する。被害の共通点は、薬害によって、1次・2次・さらに3次被害が生ずる点である。要約すれば、1次被害は、身体的被害、2次被害は家族への被害や生活(設計)破壊の被害、3次被害は精神的・社会的被害(特に偏見・差別の被害)である。小澤は、HIVとスモンの被害の相違点として、HIVの被害はスモンよりも複雑で重層化していること、つまり薬害被害の前に血友病による患者・障害者としての生き方があったこと等を指摘しているが、この点はHIVと薬害C型肝炎との比較でも同様である。
 以上考察してきたような被害は、可能な限り償われ、社会的に支えられる必要がある。被害者たちの主要なニーズは前記の通りだから、これらができる限り満たされるように社会的に支援すべきであり、特に現在国会に提出されている、医療費負担の軽減等を含む肝炎対策の基本法の制定は急務の国民的課題である。
 以上のことから、このような被害者の問題に関しての社会福祉学の課題としては、「被害者福祉学(論)」の確立が必要であり、かつ急務であるということが言えよう。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp