自由研究発表医療保健・医療福祉1  鄭 丞媛

脳卒中患者のリハビリテーション医療におけるMSWが関与した患者の特徴
-リハビリテーション患者データバンクのデータを用いて-

○ 長寿科学振興財団リサーチレジデント・日本福祉大学  鄭 丞媛 (会員番6342)
日本福祉大学  近藤 克則 (会員番3953)
日本福祉大学大学院  井上 祐介 (会員番6662)
キーワード: 《医療ソーシャルワーカー》 《リハビリテーション》 《マッチドペア法》

1.研 究 目 的

2006年の社会福祉士法改定に伴い,社会福祉士国家試験資格の実習指定施設として医療機関が含まれることになった.医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)は医療の現場においてもより重要な職種となり(二木,2007;杉浦,2006),患者にとっても病院にとっても有益である(村上,2008)と考えられている.MSWの援助内容として最も多いのは,「退院支援」であり(村上,2008),特に退院時にも障害を持つ患者が多いリハビリテーション(以下リハ)病棟では,MSWが関与することが多い.しかし,MSWが関与している患者の特徴に関する報告は少ない.またMSWの関与が,「入院期間の短縮化と,効率的な病床管理……につながる」(竹内,2009)とされる.MSW の配置が平均在院日数短縮に影響するか否かを検証した研究には,「病院機能により差はあるもののその成果が確認できた」(関田・阿部,2006)とするものがある.しかし,関田らの研究結果は,200~399 床の療養病床を持たない急性期一般病院に限定されており,患者の病等による違いなどを考慮していない.また、本研究で着目する脳卒中リハ患者を対象にしたMSWの関与による在院日数の短縮の効果の検証もこれまでの研究では行われていない.
 そこで,本研究では,MSWが関与したリハ患者の特徴と,MSWの関与が平均在院日数の短縮や在宅復帰率の向上に関連しているか否かを検証した.

2.研究の視点および方法

1)リハ患者データバンク(2009年6月現在:30病院,N=3,949)のデータのうち,65歳以上の患者(N=2,561)を対象とし,本研究で必要とする項目に欠損値のないデータ(N=1,638)を用い,MSWの関与患者の特徴を把握した.
 2)次に,MSWの関与の効果を検証するため,MSW関与群と非関与群の平均在院日数,在宅復帰率を比較した.在院日数及び在宅復帰率との交絡因子を調整するために,退院時の障害程度などが同じ患者を,MSWの関わりがあるものと関わりのないものでペアを組み比較分析を行った(マッチドペア法).マッチさせた変数は,①性別,②年齢(5歳刻み7区分),③退院時日常生活自立度(9段階),④退院時認知症高齢者の日常生活自立度(8段階),⑤退院時m-Rankin scale¹(6段階:退院時死亡除外),⑥病型(3区分),⑦合併症有無,⑧介護力(5区分)である.ペアになりうるケースが複数存在した場合は,退院時の日常生活自立度(Barthel Index)が近いものをペアとした.8つの変数すべてが同一条件の106例(53ペア)を対象に比較した.

3.倫理的配慮

本研究は、「個人情報の保護に関する法律」、厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」および「福祉関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」、「臨床研究に関する倫理指針」等を遵守している.
 1 modified Rankin Scaleは脳卒中の患者の状態を分類する尺度である.

4.研 究 結 果

1)MSWの関与した患者の特徴を表1に示す.平均在院日数はMSW関与群58.6日,非関与群29.1日,在宅復帰率はMSW関与群48%,非関与群77%であり,MSW関与群の方が平均在院日数が長く,在宅復帰率も低かった.しかし,退院時の日常生活自立度や認知症高齢者の日常生活自立度などをみるとMSW関与群の方が重症度の高い患者であった.

 2)そこで,病型や重症度が同じになるようマッチドペア法によって抽出した53ペア(N=106)のMSW関与群と非関与群を対象とし,平均在院日数と在宅復帰率などを比較した.その結果,平均在院日数はMSWの関与群45.7日,非関与群26.4日,在宅復帰率はMSW関与群79%,非関与群93%であった.自宅退院が難しい患者にMSWは関与していると思われた.また,病棟別(一般,亜急性期,回復期),介護力がほとんどない患者,退院先が在宅の患者を対象とした分析を行っても同様の傾向がみられた.退院先がその他(転院・転科)の場合は,平均在院日数がMSWの関与群(23.4日)の方が非関与群(30.3日)より短かったが,統計的には有意差がみられなかった.

 MSWによる退院援助は,患者の不安を軽減する効果がある(加藤・関田,2007)重要な仕事である.本研究の結果から,MSWの退院援助の効果を,平均在院日数や在宅復帰率のみによって評価することには慎重であるべきと考えらえられる.在院日数や,在宅復帰率には,MSWの関与以外に,病院や医師の治療方針や,患者の状態,家族の意向,地域のインフラ整備の状況など多くの因子が影響しており,在宅復帰が困難で転院が必要な患者ほど,MSWに関与するよう依頼されている影響を受けているからである.

5.文 献

加藤由美・関田康慶(2007)「MSW のコーディネート機能による患者不安度軽減効果の評価」66(1), 64-69.
 関田康慶・阿部真奈美(2006)「MSWコーディネート機能による機能連携への貢献」65(7), 586-589.
 杉浦貴子(2007)「文献により探索する医療ソーシャルワーカーの「困難性」の実態」『ルーテル学院研究紀要』40, 79-94.
 竹内一夫(2006)「わが国における医療ソーシャルワーカーの現状と課題」65(6), 486-488.
 二木立(2007)「医療制度改革と増大する医療ソーシャルワーカーの役割」『文化連情報』(350), 42-46.
 村上武敏(2008)「退院援助における対象者の実態と実践課題」『病院』67(8),729-732.
 【謝辞】本研究は,厚生労働科研費補助金(H19-長寿-一般-028)を受けて行った.

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