自由研究発表所得保障・公的扶助3  新保 美香

生活保護の自立支援における支援対象者の意識と支援者の役割
-P福祉事務所との共同研究事業を通じて-

○ 明治学院大学  新保 美香 (会員番号3246)
聖隷クリストファー大学  根本 久仁子 (会員番号3247)
首都大学東京  岡部 卓 (会員番号1899)
キーワード: 《生活保護》 《自立支援》 《共同研究事業》

1.研 究 目 的

 平成17(2005)年度に、生活保護における自立支援プログラムが全国の自治体・福祉事 務所で策定・実施されるようになり、その取り組みも定着しつつある。本研究では、生活保護 における自立支援の取り組みにおいて、利用者にとってよりよい支援を行うために、どのよう な要素(知識・支援の姿勢・技術・方法・組織的取り組みなど)が必要となるかを明らかにす ることを目的として、支援者(生活保護担当職員および自立支援員等の専門職員)及び支援対 象者(自立支援を受けた経験のある元被保護者)双方のインタビュー調査を実施し、検討した。

2.研究の視点および方法

 研究の視点:自立支援は、利用者の主体性を尊重し、利用者と支援者が「ともに」課題解 決に取り組むプロセスであると考えられる。支援者の様々なかかわりや働きかけが、自立支援 を受けている利用者にどのように届き、どのようなことが利用者にとっての「力」や「支え」 となったのか、実際に支援を受けた経験のある利用者(支援対象者)の声を受けとめながら明 らかにしていくことを目指した。
  研究の方法:①研究組織:P福祉事務所と研究チー ム(岡部・新保・根本)による「共同研究事業」の形式をとった。P福祉事務所が属する自治 体本庁の了解を取り、契約を交わしたうえで研究組織を結成した。②研究方法の概要:1)P福 祉事務所に所属する支援者に対する個別・およびグループインタビュー、2)就労支援プログラ ムを利用した経験のある支援対象者8名に対する個別インタビュー、3)インタビュー結果をふ まえた分析・考察。
③共同研究の期間:平成20(2008)年2月~平成21(2009)年4月。

3.倫理的配慮

 支援対象者に対するインタビュー調査の依頼および実施にあたっては、研究事業および 調査の趣旨、データの記録と活用、匿名性の確保について事前に書面にて説明し、了解が得ら れた場合のみ参加していただいた。また、収集・生成した資料は個人名などを記号化し、匿名 処理を施した。支援者インタビューについても、調査の説明と同意を行い、調査結果を活用す る段階では、匿名処理を施すとともに了解を得たうえで用いることとした。

4.研 究 結 果
①支援者インタビューからの考察
個別インタビューでは、P福祉事務所の支援者が「利用者に寄り添う支援」「利 用者の状況に即した意図的な支援」という支援の姿勢を醸成してきていることが把握 された。
グループインタビューからは、自立支援が「組織的な取り組み」となっているこ とや、「利用者から学ぶ」実践となっていることの意義が認められた。
②支援対象者インタビューからの考察
支援者対象者からは、支援者への感謝や、支援を受けたことに対する肯定的な評 価が多く聞かれた。その一方で、生活保護を受給することそのものに対する否定的な 思いや、保護廃止後のフォローアップへの要望が語られた。
③支援者および支援対象者インタビュー結果からの考察
P福祉事務所の自立支援において、支援者が意識し重視してきた1)利用者個々の 状況や優先度、タイミングに応じてかかわる、2)具体的に情報提供し利用者とともに 行動する、3)利用者自身が将来を見据え、イメージしながら考えられるようにする、 4)経験をとおした学びや現実検討を経て、利用者に生きる力や自信がつくようにする、 5)利用者の努力やがんばりをほめ、励まし、喜びや苦労をわかちあう、といった点が 実際に行われており支援対象者に伝わっていることが考察された。
支援者が意識している以上に、支援対象者の生活保護を受給することに対する精 神的負担が大きく、生活保護をめぐる根深いスティグマの存在が浮かび上った。
④共同研究事業の取り組みからの考察
本研究は、利用者の声を受けとめ、支援者の「支援のありかた」を検証しながら 、支援者と利用者双方の視点から、自立支援の取り組みを検討しようとする試みであ った。これらは、「共同研究事業」の形を取ったことにより可能となったことであっ た。
今後の課題としては、1)自立支援の取り組みの評価に利用者自身が参画できる 方法の検討、2)地域性や組織、制度・運用上等の課題があるなかでも、利用者主体 の自立支援を行うにあたり必要となる知識や技術等の更なる検討が、主な点として残 された。
<注記>
  本研究は、文部科学省基礎研究(B)(一般)、「生活保護における自 立支援の在り方に関する研究」(研究代表 岡部卓、研究期間 平成18年度~平成21年度)の 一環として行った。なお、本研究における支援対象者インタビューを中心とした分析結果は、 日本社会福祉実践理論学会第26回大会(平成21年7月)で報告予定である。(根本・岡部・新 保「生活保護利用者の意識と支援者の役割に関する一考察」)
<謝辞>
  生活保護 利用中の経験や思いについて語り、調査に協力してくださった8名の支援対象者のみなさま、 そして、このような調査研究を実現させることにご理解とご協力をいただき、研究チームとと もに取り組んでくださったP福祉事務所のみなさまに、心から感謝申し上げたい。

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