自由研究発表所得保障・公的扶助3  長沼(槇野) 葉月

生活保護受給有子世帯に対する自立支援プログラム
-1年間のプログラム前後における世帯概況の変化-

○ 首都大学東京  長沼(槇野)葉月 (会員番号7246)
首都大学東京  岡部 卓 (会員番号1899)
首都大学東京  副田 あけみ (会員番号0417)
首都大学東京  稲葉 昭英 (会員番号3264)
首都大学東京  和気 純子 (会員番号1605)
首都大学東京  姜 恩和 (会員番号5352)
キーワード: 《生活保護》 《有子世帯》 《自立支援プログラム》

1.研 究 目 的

 生活保護制度は、国民・住民を対象に最低生活保障と自立助長を行う制度として位置づ けられている。そこでは、生活困窮(要保護)状態にある人・世帯に対し、経済給付(最低 生活保障)とともに自立にむけた援助・支援活動(対人サービス)の提供を行うこととされる 。われわれの研究グループでは、とりわけ貧困の世代間連鎖(再生産)を防ぐことを目的と して、生活保護受給の有子世帯に注目し、自立支援プログラムの効果を検討してきた(H19-2 1厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業「生活保護受給有子世帯の生活実態と養育 ・教育支援および就労支援方策に関する研究」主任研究者岡部卓)。研究の全体像としては 、生活保護受給世帯の自立に向けて先駆的な援助・支援を行っているA自治体と共同し、生活 保護受給有子世帯の生活実態調査、生活保護自立支援プログラムの点検調査を実施し、援助・ 支援方策をソーシャルワーク実践および制度・政策の視点から明らかにすることを目的として いる。
  一昨年は岡部が本学会にて研究の全体像を報告し、昨年は長沼が高校進学支援 プログラムを取り上げてケースワーカーの関与と効果について検討した。本年度は、生活保護 有子世帯に対して自立支援プログラムを導入した結果、どのような生活状況の変化が生じたの かを明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

 調査対象は、平成19年度にA自治体において生活保護を受給していた有子世帯とする。
  調査方法は、各世帯に関して、平成19年9月1日付で、世帯類型、保護基準額、収入充 当額、同居家族構成、世帯主及び同居家族員の自立支援医療や障害者手帳等の活用状況、自立 支援プログラムの活用状況等を把握した。自立支援プログラムの活用状況については、A自治 体で儲けている各自立支援プログラムの検討票、評価表も用いて、活用状況の把握にもれがな いか確認を重ねた。さらに、対象世帯に対して、同様の調査を平成20年9月1日付で実施した。
  分析は、平成19年と平成20年の二時点で生活状況を把握することができた世帯を対象 として行う。平成19年調査をベースライン(T1)、1年間の自立支援プログラムを中心とした 介入の結果、世帯主や同居家族にどのような変化が生じたのかについて、平成20年調査(T2 )時点と比較することによって明らかにする。分析については、統計的手法を用いることとし 、今回は事例的な分析は行わない予定である。
  1年間の変化の指標としては、生活保 護による自立の助長がどのように行われているのかを検討するという視点から、以下の指標を 用いることとする。

・保護基準額
・収入充当額
・世帯主及び家族員の就労または修学状況
  ただし求められる「自立」のあり方は、世帯主や家族員の状況等によって異なるはずである  。したがって、自立支援医療や福祉手帳制度等の活用状況や、さまざまな自立支援プログラ  ムの対象であるか否か、といった点を考慮した上で比較分析することとする。

3.倫理的配慮

 本調査の実施に際しては、首都大学東京の研究安全倫理審査基準に十分に配慮して行った。
  調査対象となった個人を同定することができないように、匿名化されたデータベース の形で情報収集を行った。データベースの提供に際しては、A自治体によるチェックを受け、 世帯主及び家族の個人を同定する情報や、担当ケースワーカーを同定する情報についてはすべ て削除された形式となっている。また結果についても、個人を同定することのできない仕方で 集計値として公表しており、倫理面には十分に配慮を払っている。

4.研 究 結 果

 平成19年度の自立支援プログラムにおける検討票やケースワーカーの援助の点検票につ いての検討により、生活保護受給世帯の抱えている生活課題の多様性や重層性、広汎性が明 らかになってきている。A自治体では、これらの課題を緩和し自立の助長を促進するために、 多様な自立支援プログラムを設けてその活用を図ることにより、被保護者の生活再建に向け て着実に支援の地歩を固めてきている状況がうかがわれる。詳細な分析結果資料は、発表当 日に配布する予定である。
  昨今の厳しい社会情勢の中で、短期的に目覚ましい成果 を上げるのは困難ではあるものの、今後ともさらに継続的な視点をもって事例の蓄積を重ね 、生活保護受給有子世帯の生活をより望ましいものとなるよう支えていく上で、役立つ自立 支援プログラムとなるよう、課題の析出と方法論明確化に努めていくことが必要である。

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