自由研究発表所得保障・公的扶助3  松江 暁子

貧困対策における労働と福祉のあり方に関する一考察
-韓国における国民基礎生活保障制度をとおして-

首都大学東京大学院 松江 暁子(会員番号4753)
キーワード: 《ワークフェア》 《国民基礎生活保障制度》 《自活支援事業》

1.研 究 目 的

本研究では、東アジアのなかでもワークフェア政策を展開している韓国において貧困対策の一環として位置づけられている国民基礎生活保障制度(以下、基礎保障制度とする)の自活支援事業についてとりあげ、その特質について検討する。具体的には韓国の基礎保障制度がいかなるワークフェアモデルとして現れているのかについて整理を行い、そこから予見される韓国における福祉と労働のあり方について述べることとする。このことを通して同様な問題を抱える日本への政策的示唆が与えられると考える。

2.研究の視点および方法

本研究は、ワークフェアに関する文献研究である。
 分析視点は、宮本(2004)が整理をおこなっている「ワークフェアが進められる制度領域とワークフェアの制度としての多様性をとらえる指標」(〈表1〉に整理)およびワークフェアの二つのモデル〈労働力拘束モデルと人的資本開発モデル〉に置く。


 〈表1〉ワークフェアの進められる制度領域と多様性をとらえる指標
 

3.倫理的配慮

本研究は、法規類、学術論文等を使用し、個人データや調査等は使用しないものであり、研究の遂行にあたっては「日本社会福祉学会研究倫理指針」の規定を遵守する。

4.研 究 結 果

国民基礎生活保障法(以下、基礎法)は、1997年の金融危機をきっかけとした大量失業や貧困問題に当時の生活保護法が対処できなかったこと、また以前から生活保護法の不備とその改善を要請していた市民団体の働きかけがあったこと、そして「生産的福祉」という国政理念の推進により制定に至っている。既存の資格要件等を取り払い、所得認定額が最低生活費以下の国民ならば誰でも対象とする権利性を認めた基礎法の制定は、韓国にとっては画期的であった。この基礎法がワークフェア的要素を持つとされる所以は、生計給付における「条件付給付」にある。労働能力のある生活困窮者は自活事業に参加することを条件に生計給付の対象としていることにあり、モラルハザードを防ぐという意味が含まれている(自活支援事業の詳細については当日に資料配布)。
 基礎法では、自活事業への参加を拒否した場合、生計給付は行われない。しかし受給者が2人以上の世帯を形成している場合、生計給付を受け取れないのは自活事業に参加しなかった者のみであり、またその本人についても医療や住宅などのほかの給付は受給可能であることから、ペナルティも多少限定されている(五石 2004)。そして、一言に自活支援事業と言っても、その事業の所轄機関は保健福祉家族部と労働部にまたがり、その内容は多様である。特に保健福祉家族部主管の事業では社会適応プログラムや地域ボランティアなどが用意され、自活勤労には技能習得の支援や環境整備事業、看病人、ホームヘルパー事業などの公益性の高い事業が含まれている。また、地域自活センターや自活共同体という基礎法制定以前からの貧困運動で成長してきた共同体が、資源の1つとして制度の中に組み込まれたことも特徴的である。
 制度的な側面から検討すると、韓国のワークフェア政策は人的資源開発モデルに近い側面を持つと思われる。しかし、財政抑制や「福祉依存」を防ぐ側面がみられ、理念的なところでは労働力拘束モデルに近い部分を持つともいえる。とはいえ、自活支援事業に見られる韓国の取り組みは、そこにペイドワーク以外の仕事を含めるという、社会参加等を広く労働ととらえている点において、わが国の福祉と労働のあり方に一定の示唆を与えると思われる。
 〈参考文献〉
 宮本太郎2004「就労・福祉・ワークフェア―福祉国家再編をめぐる新たらしい対立軸」『福祉の公共哲学』pp.215‐233。
 五石敬路2004「自活支援事業改革の動向と就業貧困層」奥田聡編『調査研究報告書 経済危機後の韓国:成熟期に向けての経済・社会的課題』(日本貿易振興機構アジア経済研究所ホームページ http://www.ide.go.jp/japanese/index.html)。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp