自由研究発表所得保障・公的扶助2  鳥山 まどか

「流動社会」における生活最低限の実証的研究
-若年単身世帯の家計調査と生活状況調査からの検討-

○ 北海道大学  鳥山 まどか (会員番号5497)
神奈川県立保健福祉大学  岩永 理恵 (会員番号4988)
日本女子大  岩田 正美 (会員番号0201)
日本女子大  圷  洋一 (会員番号3436)
法政大学  杉村  宏 (会員番号0035)
首都大学東京  岡部  卓 (会員番号1899)
法政大学  松本 一郎 (会員番号4553)
キーワード: 《流動社会》 《生活最低限》 《家計》

1.研 究 目 的

雇用の流動化と家族の個人化が進行し、経済環境が悪化する現代日本において、安全装置としての新たな生活最低限をどう構想していくかは緊急の課題である。しかし、現在の社会保障や社会福祉の動向は、新しい社会の中での生活最低限の再検討のないまま、単なる水準の見合いで生活最低限の決定が可能かのようである。社会保障や社会福祉の在り方がゆらいでいる今日、現状に対抗するためには、新たな生活最低限の構想に必要な材料を得ることが不可欠である。そこで本報告は、生活最低限を構想する研究の一部として、現実の多様な労働と生活のありようを反映した生活実態を明らかにすることを目的とする。
 なお本研究は、文部科学省科学研究費補助金による研究課題『「流動社会」における生活最低限の理論的・実証的研究』(研究代表:岩田正美(日本女子大学)、課題番号:20330125 )の成果の一部である。

2.研究の視点および方法

生活ニーズの充足の程度や優先順位が、所得の低下や不安定化、家族の変容によってどう変化しているかを把握するという視点をもって、単身世帯、失業世帯、離別母子世帯、高齢者世帯などの多様な生活類型に対する、家計調査と生活状況の調査を実施する。
 2008年は、まず若年単身世帯を対象とした。その理由は次にある。第1に、若年単身世帯は、総務省等による従来の家計調査から脱落しやすく実態が明らかとはいえないことである。本研究は、これらの単身世帯で生活が不安定にあることが予測される人びとへの調査を小規模でも実施する必要があると考えた。第2に、単身世帯の著しい増大がみられる現代生活を把握するためには、家族世帯ではなく、あえて単身世帯からはじめることが実際的であると考えた。最後に、1、2点目とも関わる最大の理由として、「流動社会」における生活最低限は、「ひとりの人間(成人)が生活を成り立たせることを可能とする」ものとして設定されなくてはならない、と判断したものである。
 若年単身世帯調査は2008年10?12月に実施された。不安定な生活や労働状態にある人びとへの支援を行っている複数の団体や個人を通じて協力を呼びかけ、応答のあった個人を対象とした。研究組織が対象者に対し説明文書を用いて協力を依頼し、同意が得られ、調査に参加した人は53名で、中途辞退者2名を除く51名から回答を得た。このうち無効票1名を除く50名の回答を分析の対象とした。調査方法は、1ヵ月の家計簿記帳(日々の収支と月ごとの収支)と、生活状況に関する質問を載せた調査票の二種類を用いた。

3.倫理的配慮

本研究の調査は、法政大学大学院人間社会研究科研究倫理委員会の承認のもとに行われた。本研究は対象者の自由意思を尊重し、対象者には研究及び調査内容、個人の人権の擁護、個人情報の取扱いに事前に十分に説明し、同意の得られた人にのみ実施した。

4.研 究 結 果

○基本的属性:回答者50名[女21(42.0%)、男29(58.0%)]で、平均年齢30.2歳[20歳代30(60.0%)、30歳代14(28.0%)、40歳代5(10.0%)、不明1]であった。就業形態は正規雇用が12名(24.0%)、非正規雇用が30名(60.0%)、無職が8名(16.0%)である。回答者はすべて「単身世帯」であるが、ルームシェアという形態で生活している人が7名(17.0%)いた。また、「借金の返済あり」が17名(34.0%)であった。  ○収入の実態:前年度(2007年度)平均年収296.1万円[100万円未満6(12.0%)、200万円未満9(18.0%)、300万円未満18(36.0%)、400万円未満7(14.0%)、400万円以上7(14.0%)、不明4]であった。調査期間中の平均可処分月所得は246,960円[10万円未満7(14.0%)、20万円未満12(24.0%)、30万円未満22(44.0%)、30万円以上9(18.0%)]であった。
 ○支出の実態:消費支出は平均月額160,897円(最小値57,116円?最大値349,255円)、非消費支出は平均月額33,963円(期間中に支出をした41名について。

 

最小値760円?最大値91,258円)となっている。消費支出の内訳については、例えば食費は平均月額39,708円であるが、最小値の1,701円から最大値106,900円と開きが大きいが、可処分所得にかかわらず、30,000円前後が食費の最低限であると思われる(図)。

しかし、可処分所得が20万円を超えると分散が大きくなり、多様性が出てきていることが予測される。なお50名中35名までが、実家からの食料品、職場のまかない食など現物消費をしている点が特徴的である。

 ○考察:50名の支出と消費はその分散の大きさが目立つ。この背景には、回答者の生活状況の多様さがあることが考えられる。そこで次の作業としては、各自の消費生活のあり方についての意味を調査票からあらためてさぐると同時に、当事者へのインタビューも含めて明らかにすることである。

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