自由研究発表所得保障・公的扶助2  野島 靖子

貧困拡大社会における「救護施設」の役割と課題

○ 十文字学園女子大学  野島 靖子 (会員番号6669)

十文字学園女子大学  伊藤 わらび (会員番号0193)
キーワード: 《貧困の拡大》 《生活保護施設》 《救護施設》

1.研 究 目 的

 「救護施設」は「生活保護法」第38条第2項において、「身体上又は精神上著しい障害 があるために日常生活を営むことが困難な要保護者を入所させて、生活扶助を行うことを目 的とする施設」と規定された第1種社会福祉施設である。救護施設は、戦後その時々の社会的 要請に基づいた、多様なニーズに対応した入所者の受け入れを行ってきたという歴史的経緯 がある。このことは、現在においても障害の種別、年齢を問わず、多様なニーズのある生活 困難な人々を対象としており、今日入所者の高齢化や障害の重度化がみられる。
  生 活保護制度見直しにより、救護施設は地域移行支援への自立支援施設と位置付けられたこと から様々な取組がみられる。本研究テーマに関する先行研究は、多くはなく、救護施設の現 状は、必ずしも明らかにされていないと考えられる。本研究は、独自の実態調査を実施する ことで、施設や利用者、職員の実態を把握し、救護施設の機能と課題を考察することを目的 とする。

2.研究の視点および方法

 全国救護施設協議会は隔年で基礎データの把握のために全国実態調査を実施し、報告書 を刊行している。本研究においては、回答者の負担を配慮し、質問項目の重複をできるだけ避 け、救護施設の現状及び展望を考察することに重点を置いた。

先行研究のリサーチとともに、東京都3ヵ所と大阪市4ヵ所の救護施設を訪問し、 現状について話を聞かせていただいた。
全国の救護施設アンケート調査の実施
対象:全国救護施設協議会及び厚生 労働省の名簿に記載された平成20年3月31日現
  在の全国救護施設全数187ヵ 所
期間:平成20年8月~9月      方法:質問紙郵送法
結果:調査客体数 187、  回収客体数 141、  回収率 75.4%

3.倫理的配慮

 本研究の過程および結果公表の全般にあたり、日本社会福祉学会「研究倫理指針」第 1総則及び第2指針内容の各号ついて遵守した。特に調査結果の公表に当っては調査対象の 匿名性に配慮した。

4.研 究 結 果

 回答のあった救護施設における入所者の年齢については、全施設の最高年齢は96歳、最 少年齢は19歳で、平均63.2歳であった。施設ごとの平均在所期間は、28年8ヵ月から10ヵ月ま で(但し開設後10ヵ月の施設)あり、全国平均は14年2ヵ月であった。全施設における最長在 所期間は57年6ヵ月であり、その長期にわたる入所に考えさせられるものがある。さらに施設 ごとの最長在所期間の平均35年6ヵ月と、施設ごとの設立経過年数の平均36年2ヵ月を比較す ると、相関は明らかである。経過年月数と最長在所期間が一致している施設が34ヵ所24.1%、 1ヵ月差が15ヵ所10.6%であった。
  「救護施設等の最低基準」各条項の改正の必要性 については、特に「職員」基準の改正が必要との回答がみられた施設は101ヵ所71.6%にのぼ っている。高齢化、重度化に対応する介護・看護職員の増員と、地域移行支援事業推進のため の指導員の増員が求められている。さらに、訓練室や特殊浴槽など高齢化、重度化に対応する 設備も必要とされている。
  地域移行支援事業を「実施している」が43ヵ所30.5%、 「実施していない」が83ヵ所58.9%であり、実施していない施設が多いことがわかった。実施 していない理由として、利用者の生活基盤や就労の問題、場所がないことや予算がないといっ た運営上の問題が多く挙げられている。一方、独自事業として、アパートの借り上げやランド リー経営による就労支援などを実施している施設もあった。
  救護施設が貧困の拡大の 影響がみられるかという質問に対する回答は、「はい」が73ヵ所51.8%、「いいえ」が40ヵ所 28.4%、「その他」が16ヵ所11.3%であった。「はい」の理由は、「ホームレスの入所依頼の 増加」「就労困難の増大」「内職等の作業の減少」「失職・倒産による生活障害の増加」など が挙げられている。本調査は2008年8月~9月の実施であり、同年秋に見舞われた世界経済危機 下ではさらなる影響があったことと推察される。
  救護施設の今日の重要な機能につい て、「セーフティネット機能」と「地域移行支援への中間施設としての機能」の2点に集約す ることができる。障害を問わず多様な社会的ニーズに柔軟に対応してきた施設であることがわ かる。しかし、一方で現実に在所期間57年を超える入所者がおり、在所期間40年以上の入所者 がいる施設が69ヵ所48.9%みられるという現状を考えた時、地域移行支援の実施に合わせて、 現在の入所者に対するケアも重要である。そのためには救護施設の最低基準を他法に規定され た福祉施設と同水準にする必要がある。特に高齢化、重度化に対応するために、職員配置を増 員することが急務であろう。さらに、生活保護制度見直しにおいて、救護施設を、地域移行を 目指した自立支援への中間施設と位置づけたにもかかわらず、地域移行支援事業の実施が進ま ない理由は、財政的な裏付けがないことが大きな原因と考えられる。地域移行支援事業推進の ための財政的支援が必要である。

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