自由研究発表所得保障・公的扶助2  難波 利光

生活保護制度における被保護者の就労に対する自治体政策の有効性

下関市立大学  難波 利光 (会員番号5287)
キーワード: 《生活保護自立支援プログラム》 《就労支援》 《自治体政策》

1.研 究 目 的

 現在日本では、社会保障全体のあり方の見直しが課題となっており、いわゆる「社会福 祉基礎構造改革」の一環として、平成16年12月社会保障審議会福祉部会の「生活保護制度 の在り方に関する専門委員会報告書」が公表された。この中の重点の1つとして、就労する ことで経済的な自立を促進する支援が盛り込まれている。同報告書は、被保護世帯と直接接 している地方自治体に対して、被保護世帯の現状や地域の社会資源を踏まえ、自主性・独自 性を生かして「自立支援プログラム」を策定することを求めている。就労を中心にした福祉 政策は世界的な潮流であり、知事会の新たなセーフティネットの提案では、日本の就労支援の あり方が示されている。
  地方自治体は、被保護者の自立支援のあり方を模索している 。支援方法として、対象者への説明と意思確認および連絡票の送付や面接の実施、支援メニュ ーの選定が行われている。この様な取組は、ケースワーカーと福祉事務所担当の就労支援コー ディネーターによって行われている。就労に関する自立支援は、ハローワークとの連携も不可 欠であり、従来行っていた連携とは異なった手段を生み出している自治体も増えてきている。
  今後、被保護者の自立を促進させるためには、地方自治体ごとの状況を把握し、地方 自治体としての対応策を導かなければならない。地方自治体は、被保護者の生活状況を把握す ることが中央政府より詳しくかつ迅速に行うことができ、より身近で細かな施策を行うことが できる。生活保護制度は、中央政府としての責任が大きいが、地方自治体の積極的な取り組み は重要であると考えられる。

2.研究の視点および方法

 被保護者と直接接している地方自治体は、被保護世帯の現状や地域の社会資源を踏まえ 、自主性・独自性を生かして自立・就労支援のために活用すべき「自立支援プログラム」を策 定し、これに基づいた支援を実施している。自立支援プログラムには、就労による経済的な自 立を目指す支援(就労自立支援)、被保護者の能力やその抱える問題等に応じ、身体や精神の 健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活 を送るための支援(日常生活自立支援)、社会的なつながりを回復・維持するなど社会生活に おける自立の支援(社会生活自立支援)がある。従来からこの3つの支援は、被保護者に対す る自立への取組として重要視されてきたものである。しかし、このたびの自立支援プログラム では、就労へ導くことも加味してプログラム作成を行っていることが注目される点である。
  そこで本研究の視点は、生活保護自立支援プログラム導入による自立達成の効果を、 経済的自立、日常生活自立、社会生活自立の3点と地方自治体の規模の違いにより明らかにす る点である。分析を行うための資料は、厚生労働省が公開しているものを用いた。
  本研究は、生活保護制度における自立支援プログラムについて地方自治体の取組を整 理し、被保護者の自立を促すための3つの自立支援プログラムについて自立達成者数により地 方自治体の支援策が有効であるかを検証した。
  本研究は、今後増加すると考えられる 被保護者への支援の取組方や、被保護者数増加に伴う生活保護関連経費や業務負担の増加に対 して地方自治体の生活保護行政のあり方を考える上で有意義であるといえる。

3.倫理的配慮

 本研究は、厚生労働省が公式に公開している資料を用いており、地方自治体および市民 の基本的人権を尊重し、またそれを最大限に配慮したうえで、自治体政策の有効性について論 ずるものである。

4.研 究 結 果

 結果として、第一に、経済的自立、日常生活自立、社会生活支援自立の3つの自立支援 プログラムにより自立達成効果が異なっていることがわかった。さらに詳細に自立支援プログ ラムごとの支援策による自立達成効果を分析した結果にも差が生じていることがわかった。今 回の自立支援プログラムの参加数は、経済的自立や日常生活自立が多く、社会生活支援につい て少なめであった。被保護者の自立を促すためには、3つの支援プログラムを上手く活用する ことが求められる。特に、経済的自立よりは、日常生活自立や社会生活支援自立のプログラム 数を増やし、参加者を増やすことが必要であると思われる。
  第二に、地方自治体規模 別の自立に導かれた成果については、異なっていることがわかった。生活保護の自立支援プロ グラムは、地方自治体ごとに策定を行っており、各々の被保護者の事情に適正に対応できる柔 軟性をもっている。しかし、地方自治体規模によってその効果に差が生じるのではないかと考 えられる。
  今後の課題として、実施機関においてこれまでも担当職員が被保護世帯の 自立支援に取り組んでいるが、被保護世帯の抱える問題の複雑化と被保護世帯数の増加により 、担当職員個人の努力や経験等に依存した取組だけでは、十分な支援が行えない状況となって いることが懸念されていることから、被保護者の自立を促せる自立支援プログラムの内容につ いて研究を行いたい。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp