生活保護利用者への自立意欲喚起のアプローチ方法の開発とその可能性
日本社会事業大学大学院博士後期課程 高橋 浩介 (会員番号6573)
キーワード: 《生活保護》 《自立支援》 《motivational interviewing》
厚生労働省は、生活保護利用者の自立を促すために、「就労意欲喚起支援事業」をスタ ートさせる(2009年4月20日の読売新聞)。生活保護利用者の自立意欲を喚起する方法が必要 性を増している。私は「自立意欲喚起」に対して有用と考えられている様々な援助技法を生 活保護サービスの中に取り入れた。このアプローチの支援要素を事例分析から明らかにし、ア プローチ方法を開発する。
2.研究の視点および方法平成1X年度の1年間に私が担当した90ケースの中で自立したケースは1例だけだった。そ こで平成1X+1年度の1年間に13ケースに対しサービスの自立意欲の低減に対する理解を深め対 処技能を増やす目的でこのアプローチを実施し、詳細な手続きを明確化した。その結果、平成 1X+1年度は10ケースが自立に至った。このアプローチを19個の支援要素に分類し、それぞれの ケースでどの支援要素を適用していたかを明確化しコード表の形式にまとめた。また、事例報 告としてアプローチ方法の共通部分を多く含んでいる3事例をまとめ、会話とアプローチ解説 という形式にまとめた。
3.倫理的配慮 対象者(研究協力者)に、研究目的、方法、得られたデータ処理におけるプライバシー
保護の方法などを説明し、協力者の承諾を得ている。また、学会研究倫理指針に則って行われ
ている。
事例はアプローチ方法を示すことを目的とし3事例の共有部分を1つの事例
にまとめた架空事例である。これら3事例におけるアプローチの本質を損なわない範囲で加工
してあることをお断りしておく。
事例分析の結果、支援コードが態度的なものとスキル的なものに分かれることと、自立 したケースでは態度的なものを必ず入れていることがわかった。考察するにあたり、比較対 象となる援助技法を探したところ、Motivational Interviewing(以下MI)という技法が意欲 喚起の方法としてエビデンスを残しており、適用領域がアルコール依存から就労支援まで拡 大していることがわかった。そこで、本研究のアプローチの支援コードとMIのSkill Codeを 比較したところ、本研究のアプローチ支援要素とMIの支援要素が重複している部分が多かっ た。重複していない部分を精査していくと、情報提供にあたる部分でMIが適用領域を拡大す る際変更してきた部分であった。よってこのアプローチが、MIの生活保護版と言える内容で あることがわかった。また、本研究のアプローチがサービス提供期間が短いケースに特に有 効だったことから長期化による深刻な自立意欲低減の予防的措置として活用できることが示 唆された。さらにジョブコーチや就労体験プログラムなどの他の自立支援プログラムと組み 合わせることで、すでに長期化したケースへも有用なアプローチであると想定される。今後 、利用者の本来の力を確認していく方法として就労意欲喚起支援事業等を通して多くの生活 保護利用者に活用することが課題である。