自由研究発表国際社会福祉3  平田 美智子

移民・難民・外国人労働者へのソーシャルワーク
-IFSWの政策と日本の現状-

和泉短期大学  平田 美智子(会員番号4260)
キーワード: 《移民》 《難民》 《外国人労働者》

1.研 究 目 的

グローバリゼーションが進行する中、情報や物資のみにとどまらず、労働者をはじめとする人の移動が加速している。日本でも、経済成長と少子・高齢化社会を背景に外国人労働者の数は増加しており、特に1990年から日系ブラジル人などが定住者という形で入国して以来、ニューカマーと言われる外国籍市民が増え続けている。また、人材が不足する介護の現場では、東南アジアの看護・介護の専門家を受け入れる試みも始まり、介護・社会福祉分野においても国際的な人の交流は盛んになると思われる。しかし、日本の社会福祉専門職の間では、外国人を対象とする相談援助活動は知識も実践も蓄積が少なく、社会福祉専門職の養成教育や現任研修で取り上げられることもめったになかった。 
  本研究は、ソーシャルワーカーが順守すべき「社会正義」「人権」に加え、異文化理解と多文化共生に基づくソーシャルワークをどのように移民・難民・外国人労働者に対して展開していくべきか、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の政策を基に、ドイツ、カナダの例を参考にし、日本での実践と社会福祉教育を考察するものである。

2.研究の視点および方法

IFSWの政策は文献やホームページの情報を基に調査し、欧米の実践は主に文献調査によるものである。日本の実践は、発表者の実践活動を基に文献調査で補った。

3.倫理的配慮

一般的な動向を調査・研究したもので、個人情報に触れないよう配慮した。

4.研 究 結 果

IFSWは、移民・難民に関する国際的政策を発表しており、ソーシャルワーカーの役割を以下のように提案している:①出国前の事前オリエンテーションにおける、語学学習の紹介と受入国の情報提供 ②移民の母国の文化背景を尊重した統合促進-教育(語学、社会制度・社会サービスに関する情報、学校教育)と職業訓練、住居や必要なサービス提供 ③移民・難民への相談・カウンセリング(生活相談、精神科相談、法律相談など)④移民・難民の社会参画(選挙権、組合活動、雇用促進など)の促進 ⑤ソーシャルアクション(難民認定前の庇護希望者への援助や定住センターの改善などを国に要求)⑥政策提言―移民・難民に関するソーシャルワーク(異文化カウンセリング、トラウマ・カウンセリングなど)を社会福祉専門職養成教育の中に取り入れ、学生・ソーシャルワーカーの海外研修・国際交流を推進する事業の提言など―である。IFSWは各国に、移民・難民の送り出し国、受入国双方のソーシャルワーカーが、ミクロレベルの個々の移民・難民とその家族への相談から、国に政策を提言するマクロレベルのソーシャルワークまで、幅広く活動するよう提言している。
  例えば、ヨーロッパの中で移民を長い間認めなかったドイツの例を挙げると、ドイツは2005年に新移民法を制定し、「移民受け入れ国」として積極的な統合政策を展開するようになった。移民・難民の文化的背景を尊重した統合政策を柱に、移民・難民を「世話のかかる者たち」と否定的に捉えず、今後の国の発展を支える人的資源として積極的に受け入れる姿勢に転換したのである。移民・難民へのサービスの柱はドイツ語学習と同化プログラムであるが、同化プログラムの中心となるのはソーシャルワーカーである移民相談員で、相談員の質を向上するため、専門知識の習得や研修が重視されている。
  また、カナダの移民に対する施策では、外国人専門の相談機関が一般の相談機関と連携して、移民・難民に対しての支援活動を行っている。援助の視点は、移民・難民の適応能力を信じエンパワメントするソーシャルワークで、3段階からなる。第1段階のオリエンテーション、第2段階の職業カウンセリング、第3段階の移民の文化背景を配慮したカウンセリングで、精神科の深刻な相談は他の専門サービスを紹介することもある。3段階すべてで、ソーシャルワーカーは援助の中心的役割を担っている。
  一方日本であるが、現在の日本の移民政策(入国管理政策)は、専門技術のある外国人の円滑な受け入れと、好ましくない外国人の排除という2つの側面を持っており、ニューカマーの多くを占める単純労働現場で働く外国人労働者やその家族に対しては、これまで積極的な受け入れ政策を採っては来なかった。その影響もあり、地域で国際交流を進める自治体はあるが、ソーシャルワーカーがその中心で活躍することはなく、ソーシャルワーカーや専門職団体は移民・難民に対する支援には積極的に関わろうとはしてこなかった。
  しかし、グローバリゼーションの流れは止められず、日本にも多様な文化背景を持った外国人労働者や外国人社会福祉・介護・看護専門職が増え続けることが予想され、ソーシャルワーカーは多文化ソーシャルワークの視点で社会福祉実践を行うことが期待される。大学の社会福祉専門職の養成教育や現任訓練の中に、外国人・難民、多文化共生、異文化理解に関する科目や研修を盛り込み、理解を深めることは必要であろう。同時に、地域の福祉事務所や相談機関に外国人や異文化を背景に持つ、あるいは異文化に関心のあるソーシャルワーカーの登用を推進していくことも検討されるべきである。
  マクロレベルでは、今後、日本の社会福祉専門職団体が外国人のために専用の相談窓口や施設の設置・整備、住居の確保、子どもや家族への日本語教育、母国語による精神科相談などを求めるソーシャルアクションを起こすことを期待したい。

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