自由研究発表国際社会福祉3  中田 雅美

デンマーク・日本の高齢者居住政策の変遷に関する一考察

日本福祉大学大学院  中田 雅美(会員番号4712)
キーワード: 《デンマーク》 《居住政策》 《高齢者施設》

1.研 究 目 的

デンマークと日本は国の規模、社会保障の方式等どれをとっても全く異なる国であるが、デンマークにおける実地調査・研究を進めていくうち、デンマークと日本の高齢者に対する政策変遷について共通性があることに気付くこととなった。ただし、時々の政策選択は異なっており、それが現時点での高齢者を取り巻く現象の違いとして現れているのではないかと考えた。
  そのため、本研究では、デンマーク・日本の高齢者福祉政策の変遷を整理することを通して、デンマーク・日本の政策の転換と方向性を明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

本研究では、デンマーク・日本両国の高齢者福祉政策の変遷に焦点を当て、1.救貧対策から高齢者支援策としての高齢者施設、2.施設の量的整備とあり方の検討、3.医療との関わり、4.在宅ケアの充実と地域社会との関わり、5.施設の住宅化と多様な住まいの検討、6.市場の導入とケアの質の6つに分けて整理して述べていくこととする。6つの項目については、先行研究及び2005年9月7日の社会省でのヒアリング内容を通して、日本との比較する上で特徴的な項目を設定している。これまでの研究では、政策の変遷についてデンマーク・日本各国で紹介・研究されていることやひとつのテーマに絞った内容についての比較研究はあるが、項目別に変遷を比較しているものはない。

3.倫理的配慮

本報告では個人情報を伴うインタビュー調査やアンケート調査などの調査を行っていないため該当しない。デンマーク政府のデータについては、先行研究及び2005年9月7日(通訳者:マイヤー和子氏)のデンマーク社会省での担当者の意見を踏まえて、当該行政機関の了解を得て使用している。

4.研 究 結 果

1.救貧対策から高齢者支援策としての高齢者施設では、デンマーク・日本とも救貧対策としての収容保護的な性格でつくられた老人ホームが、より専門的でニーズに対応した支援が提供できるように柔軟に作り変えられてきた経緯が明らかになった。ただ、デンマークは同じ施設を作り変えながら変化させてきたのに対し、日本では救貧的な性格の施設も残しつつ、機能別に分化しを新しく創設していくことでニーズに応えていく政策が展開している。
  2.施設の量的整備とあり方の検討では、両国とも救貧施設からの脱却としてさまざまな検討がなされているが、高齢化率の上昇や社会的な整備の必然性から量的整備をすすめる時期があった。ただ、デンマーク・日本とも同じ「養老院」という名称を使用しているが、デンマークでは救貧施設ではない高齢者に限定した点が居住性の向上につながっており、その後もしばらく救貧的な性格から抜けることが出来なかった日本とは状況が異なる。またデンマークでは、ガイドラインによってそれまでつくられてきた施設も助成等で整備を促す政策をとっている。日本では最低基準の策定やあり方の検討として非常に重要な検討がなされているが、新しく作られるものに対する規定が基本となり、それまでつくられてきたものへの適用はされにくいといえる。
  3.医療との関わりについては、デンマークと日本で医療のあり方が根本的に異なる。デンマークでは、一人ひとりを中心としたケアサービスのひとつとしての医療とその仕組みである。日本では医療制度、福祉制度の個々の発展を前提とし、それぞれの制度ではカバーされなかった対象者に対する新たな対応、サービスの創設がなされてきた。それまで診てくれていた医師がどこで暮らしていても継続的に診続けてくれることが患者の安心につながると考えた。
  4.在宅ケアの充実と地域社会との関わりでは、施設の集団性の弊害だけではなく、施設がより総合化することより施設が地域での暮らしから隔たり孤立することが指摘できる。日本においても施設機能の地域開放、地域住民・入居者との継続的な交流がすすめられているが、デンマークのように、地域のどこで暮らしていても一人ひとりに対するケアの提供が実現できる段階ではない。たとえ自宅で暮らし続けられなくなった場合でも、地域で暮らす視点で継続的に自宅以外での場所で暮らし続けられるように、地域社会における施設の新たな役割を検討する必要がある。
  5.施設の住宅化と多様な住まいの検討では、施設の個室化、面積の拡大だけではなく、住まいとしての機能向上、家賃を支払って入居しているという市民性も重視される。デンマークでは自宅以外の公営住宅自体のとらえ方を一元化しシンプルな仕組みとなっている。日本では施設が機能分化し多様になっているだけではなく、高齢者に対する住宅供給も進められ、制度や機能も多様になっている。日本の高齢者はその制度や機能を充分理解して住まいを選択するには非常に複雑になっている。また、所得により利用できる住まいが異なり、必要性と住まいの合致が所得によっても左右されると指摘できる。
  6.市場の導入とケアの質では、民間活力の活用については、単なる財政的な点だけではなく、高齢者自身の選択可能性の点からも検討する必要がある。ただ、公的責任のあり方や選択を可能にする条件整備を合わせて検討しなければ単なる公的な財政の後退、自己責任論へと発展する可能性がある。  デンマーク・日本それぞれの政策変遷の比較を通してみると、やはりたどってきた軌跡という点では非常に共通する部分がある。しかし、政策を時代に合わせて柔軟に作り変えている結果、多様な制度やサービスが乱立している日本に比べ、デンマークでは公共住宅という点での一元化やケアの統合化が進められるなど、一人ひとりの高齢者を取り巻く状況が非常にシンプルな制度設計となっている。また、デンマークでは施設を住宅ととらえ居住性を向上させるだけではなく、どこで暮らしていても継続的にケアをうけられる仕組みをコミュネ単位で整えている。地域の特性にあったサービスの提供は地域格差への考慮も必要であるが、地方分権、当事者主権の徹底が前提で実現していると考えられる。これを支えているのは、高齢者自身、国民自身による声と、それを支える仕組み、共通する理念、価値観ではないかと考えた。
  高齢者三原則のひとつ、生活の継続性を実現させた支援とは何か、加齢や疾病、障害などで自分がどのように変化しても安心して暮らし続けることができるために、日本では何が必要なのか、デンマークを傍らに意識しながら今後も研究を継続していきたい。  
  本研究報告は、科学研究費補助金「認知症高齢者家族支援プログラム開発と地域ケアシステム構築に関する国際比較研究」(課題番号18530460・研究代表:野口典子)によるものである。

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