自由研究発表国際社会福祉3  多田 千治

ニュージーランドにおける保健・障害に関する消費者の権利規約について
-自らの学びと経験からの振り返り-

鴻池生活科学専門学校  多田 千治 (会員番号3064)
キーワード: 《利用者理解》 《受容》 《多文化共生》

1.研 究 目 的

わが国においては、最近、看護や介護の分野において、フィリピンやインドネシア等からの外国人労働者の受け入れが展開され、介護については、介護福祉士候補生としての身分が位置づけられている。しかし、外国人の受け入れについては、文化や言語の違いについての理解が一定とは言えないことも多く、国際的な社会福祉に関する方法やモデルに関する見方については、しっかりと体系化されていない側面もある。2009年6月に公表された日本大学大学院塚田典子氏による特別養護老人ホームなどの介護施設の施設長を対象にした実施した調査で、外国人介護福祉士候補を「積極的に採用する」とする回答が12%で、「他の選択肢がなければ採用する」とする回答が56%であり、採用するという回答が全体の約7割に上っている。その中で、施設長の大半がコミュニケーション能力などの不安を感じながらも、外国人に頼らざるを得ない深刻な人手不足の事態であるとしている。
  このような状況の下で、もし、わが国において、外国人が、援助者となった場合は、母国以外の文化を理解する能力が求められると考えられ、その能力は、援助者を養成するソーシャルワーク教育で身につける機会を確保すべきである。そして、現場の中でも、母国ではない文化を援助者が身につけることができる取り組みが求められているのである。そこで、他の国の社会福祉システムやその社会福祉教育体制を知ることは、これからの援助者と利用者の関係の構築を考える上で、異なる文化をどのように理解するかという点に関する示唆を我々に多く与えるはずである。
  今回、自らのニュージーランドでの生活を振り返り、ニュージーランドにおける保健・障害に関する消費者の権利規約がソーシャルワーク教育に与える効果を明らかにし、これからのわが国のソーシャルワーク教育への示唆を示したい。

2.研究の視点および方法

・ ニュージーランドにおける保健・障害に関する消費者の権利規約の内容について説明し、その内容を明らかにし、ニュージーランドにおける利用者に対する考え方の特徴を明らかにする。
・ ニュージーランドのソーシャルワークの思想の1つであるbiculturalismについても言及し、権利擁護に対する取り組みの必要性や利用者に対する援助者の関わり方について明らかにする。

3.倫理的配慮

・ 本発表に関する資料については、引用に関する記述を正確に行い、原著者名・文献・出版社・出版年や引用箇所等を明示する。
・ 引用については、原典主義を徹底するように努める。

4.研 究 結 果

ニュージーランドで受けた教育の中で、私は、biculturalismという考え方に感銘を受けた。この思想は、人間が生まれながらに持っている文化は、尊重されるべきであり、単なる文化的な違いを理由とするのみで、他の人から差別や不当な扱いを受けないという考え方である。そして、権利規約の中では、コミュニケーションという項目では、必要ならば、通訳が利用可能であるべきであるという項目がある。さらに、情報という項目においては、インフォームド・コンセントやインフォームド・チョイスに関連する思想も含まれている。今回、取り上げたニュージーランドにおける保健・障害サービスに関する消費者の権利規約は、10個の項目から成立している。その中では、苦情を言うことは、サービスを改善するのに役立つという思想があり、それは国民の権利としても位置づけられている点が、私にとっては、目新しく感じた。現実として、わが国では、社会福祉領域における苦情解決に関する制度的な取り組みとしては、歴史としては浅いものである。
  ニュージーランドという国は、1890年、世界初の女性参政権を実現した国である。その前の1840年には、ワイタンギ条約と呼ばれるイギリスと先住民マオリとの間で条約が成立し、パケハ(白人)とマオリ(先住民)の二者を中心に歴史が展開されている。ソーシャルワーク教育のカリキュラム上では、先述した歴史的側面を学ぶことが必須とされており、実習を週ごとのカリキュラムに組み込む等の実践を重視したシステムにもなっている。つまり、援助者にとっては、文化的側面に理解を示すことも利用者に対する受容の1つの手段と考えられているのであり、この点が、日本との違いである。一方で、2025年以降、ニュージーランドにおいては、日本人を含めたアジア系の移民の人口が、マオリの人口を上回るという予測もなされており、元来のbiculturalism という考え方にも限界を生じている。結果的には、利用者を理解するために、歴史的な受け入れ基盤が少ないアジアの文化を援助者の知識として取り入れる必要性もソーシャルワーク教育には求められているのであり、そのためには、日本に関する文化や社会福祉に関する制度の紹介も必要ではないかと考えられる。
  今回の研究を通して、私は、情報に関する弱さと文化的な弱さをどのように防ぐかという思想に重点がおかれていることが、ニュージーランドにおけるソーシャルワーク教育の特徴であり、これからのわが国のソーシャルワーク教育のあり方に対する大きな示唆が含まれていると考察する。今後、私は、文化的側面に注目し、その中でも、利用者理解につながるコミュニケーション方法として展開できる笑いの効果についても考えて行きたい。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp