自由研究発表国際社会福祉3  清原 舞

家族を含めた生活保障の必要性
-スウェーデンとの比較を通して-

桃山学院大学大学院博士後期課程社会学研究科応用社会学専攻  清原 舞 (会員番号5924)
キーワード: 《スウェーデン》 《生活保障》 《障害者家族関係》

1.研 究 目 的

スウェーデンの社会システムの特徴として、徹底した普遍主義(ユニバーサリズム)と平等主義をあげることができ、そのもとで高度な福祉国家を築いているといえる。しかし、障害者福祉の歴史的展開を見ると、1980年代頃までは、スウェーデンにおいても障害者差別の歴史であったことがわかる。障害者は、コミューンの措置により、幼い頃から家族と引き離され、大規模施設に入所させられていた。そこには障害者本人や家族の意思は全く反映されず、障害者が自己決定できるとは誰もが考えていないといった状況であった。したがって、多くの人は「障害者は入所施設で生活するのが当たり前だ」という考え方を支持していたが、家族は入所施設に入所させたことに対し罪悪感をもちながら苦悩しているような状況であった。また、1970年代まで多くの障害者は、人権無視といえる去勢を強制されるというような社会でもあった。しかし、1982年に施行された社会サービス法、翌年に施行された保健・医療法(Halso och sjukrardslagen=HSL)により、障害者にも他の国民と同様に、サービスを受ける権利を保障する基盤が形成された。さらに、1994年に「機能障害者のための援助及びサービスに関する法律(Lag om stod och service till vissa funktionshindrade)」、いわゆるLSS法の施行により、障害者のサービスを受ける権利がより明確化されたのである。また、1996年の施設解体法施行により、スウェーデンの障害者福祉政策も一気に「施設」から「地域」へと生活の場が変わり、社会の視点もようやく地域で生活することが当たり前だというように変わっていった。
  報告者は、2005年から1年間スウェーデン・ヴェクショー大学に留学する機会を得て、スウェーデンにおける障害者福祉について、特に重度の障害者とその家族に対する支援に焦点を当て、国レベルでの支援内容、そしてコミューンレベルでの支援内容、また、重度の障害がある当事者やその家族に会い、スウェーデンの障害者福祉の現状について学んだ。そこで、本研究の目的は、スウェーデンの現状や日本で行った障害者当事者やその家族へのインタビュー調査の結果をふまえながら、障害者とその家族に対する生活保障のための政策の必要性ついて考察し、一定の方向をその方向性について考察し、提言していくことである。

2.研究の視点および方法

本研究は、生活「保障」と生活「支援」という二つの分析枠組みを用いて検討したもの である。スウェーデン社会庁・社会保険庁・統計局・国会そしてコミューンに関するインターネット資料に加え、2005年11月に行ったスウェーデン南部のヴェクショー・コミューンの精神障害者のデイセンターにおける参与観察によるインタビュー調査、日本における2007年8月から2008年5月に行ったインタビュー調査をもとに両者の比較検討を行った。

3.倫理的配慮

スウェーデンや日本で実施したインタビュー調査では、当事者や関係機関から調査結果の使用に関する了解をとるとともに、個人が特定できないように配慮している。その他、本研究においては研究を通じて関係者の人権への配慮を怠ったり、個人の尊厳や関係機関の信用を損ねることがないよう「検証業務」で知り得た個人情報等については個人情報保護法等の関連する法規を守り、プライバシー保護を徹底するなど最大限の注意を払った。

4.研 究 結 果

スウェーデンにおいては、コミューンの責任で障害者の住宅と所得を確保すること保障しており、その上で積極的に障害者のニーズに基づいて生活を保障するためのさまざまな福祉政策を展開している。コミューンが実施主体となることで、家族に過剰な責任を求めることがなくなる。またその運営費用は税金となるが、「全ての人が地域で当たり前に生活していくことを保障する」というノーマライゼーションの思想を具現化することになっている。だからこそスウェーデンの障害者本人達からは、「ひとり暮らしが楽しい」という言葉が度々聞かれ、家族も安心感をもって生活することができるといえる。一方、日本では、いまだに「支援」でしかない。すなわち生活の自己責任を原則に「生活保障」の観点を著しく後退させた「支援」だけでは、障害者本人や家族が安心して生活することができない。支援体制が不十分なため、「脱施設」どころか、いまだに「在宅」か「施設」か、という二者択一しかないというのが現状では、障害者本人や家族にとっては将来や生活に不安感を抱いたままであることが、インタビュー調査の結果からも読み取れた。
  このように、生活を「保障」していくことは、対象者を限定するということではなく、全ての国民にとって当然の権利としてあたり前の生活を維持できるように社会が責任をもつということである。家族扶養が前提の日本の社会政策の価値観、家族の位置づけによって、どうしても家族が抱えこまざるをえない状況に陥り、そのもとでは相談できる相手が少なく社会資源が極端に不足した状態にならざるをえないという状況がある。日本の場合、家族との結びつきが強い家族関係であるが、閉じられた空間であり一度「孤立」するとそこから抜け出すことは容易ではない。日本におけるインタビュー調査においても障害当事者やその家族からは「一番困ったのは支援が必要なときにどこに相談にいっていいのかわからない」ということが聞かれた。つまり、家族との結びつきが強ければ強いほどその関係の中で「孤立」してしまう傾向があるわけであるが、それだけに家族を含めた支援、サポート体制が必要であり、家族と援助資源を結びつけることが課題としてあげられ必要なときに支援できるシステムづくりが求められる。なお詳細については当日資料を配布する。

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