自由研究発表国際社会福祉2  原島 博

フィリピン人女性の国際結婚と日本への移住支援に関する研究
-「送り出し側」の移住支援を事例として-

ルーテル学院大学  原島 博(会員番号2883)

1.研 究 目 的

本研究の目的は、日本人と結婚をして日本に移住するフィリピン人女性の特性を明らかにするとともに、政府管轄下にあるフィリピン海外移住委員会(Commission on Filipino Overseas:「CFO」と略す。)が実施している渡航前研修(Pre-Departure Orientation Seminar)および出発前に行われているカウンセリング(Guidance and Counseling)の実際に焦点をあて異文化社会への移住準備の意義と課題を明らかにすることにある。

2.研究の視点および方法

国際結婚により日本に移住を予定しているために、CFOが提供する渡航前研修およびカウンセリングへの参加者、および、渡航前研修およびカウンセリングの委託先非営利団体の職員へのヒアリングおよび参与観察を実施した。
  CFOの統計データおよび委託先非営利団体に送付されたアンケート調査の回答を単純集計して、渡航前のフィリピン人女性と日本人パートナーの特性と移住後の1年以内に直面した問題点の分析を行った。

3.倫理的配慮

CFOに対して書面にて調査の目的を説明し、データの利用および渡航前研修およびカウンセリングへの参加の許可をフィリピン政府移住委員会から得て、調査を実施した。

4.研 究 結 果

1)結婚の特徴
  日本人とフィリピン人の国際結婚の特徴としては、フィリピン女性と日本人男性間の年齢の差が大きいという特徴がある。20歳から29歳が全体の8割を占めており、結婚適齢期にあるフィリピン人女性が30歳代から50歳代の日本人男性と結婚している。日本人男性の特徴として、全体の4割が離婚経験のあることが分かった。フィリピン人女性には、未婚の子どもがいるケースが多く、結婚してある程度、日本の生活に女性たちは慣れてくると、子どもを日本に呼び寄せることが多いことも分かった。9割のカップルは結婚までの付き合いの期間が6ヶ月未満であり、かなり短く、お互いを十分に理解しあえていない状態で結婚している。結婚理由は、経済的理由は大きいとはいえるが、筆者が予想していたよりも低い結果となった。
2)言葉
  面接を通じてコミュニケーション手段について質問したところ、ほとんどの女性は主に日本語で意思疎通を図っていることが分かったが、フィリピン人女性は必ずしも自信をもって日本語を話せるわけでなく、お互いに深いコミュニケーションをとることは難しいといえる。しかし、日本語学習や日本の生活に必要な知識やスキルを習得できるような支援は行われていない。以前は、日本語クラスを日本人ボランティアによって行われていたことが分かったが、現在は予算がないために行っていない。
3)日本に関する知識
  日本語も不十分である上、日本の生活に必要な習慣、法律、制度、公的サービスなど情報を事前に収集していない場合がほとんどである。
  政府が提供する渡航前の準備として、日本人との結婚により日本へ移住を予定しているフィリピン人に対して行われている渡航前研修とカウンセリングでは、出国に必要な手続きおよび書類、また、日本での在留に関する入管法制についてまでの説明が行われていた。
  渡航前研修に参加した女性たちは、日本で問題が起こった時にフィリピン語で対応できる相談機関についての情報を求めている。しかしながら、研修およびカウンセリングを提供するソーシャルワーカーは具体的情報を持っていない。
4)来日後の生活適応
  来日後のフィリピン人女性に対して在日のフィリピン領事館によって生活のオリエンテーションが特別に提供されている状況ではない。フィリピン人女性は、現実の生活を通じて一つ一つ経験から状況を理解して、生活に適応していく。しかしながら、フィリピン人女性の離婚率は、日本人同士と比べると若干高くなっている。別居などの統計はないため、どれくらいのフィリピン人女性が来日後に、フィリピンに帰国してしまっているかは、分からない。来日後の困難の経験について、「日本語が難しい」という回答が最も多く、コミュニケーションでの苦労が想像することができる。ついで、「異文化環境への適応が難しい」ことをあげており、日本の習慣や環境面の違いは大きいといえる。さらに、夫の両親と同居する場合に、義理の両親との関係に問題が出てくることが回答から理解できる。回りからの偏見や差別なども経験しており、異文化社会でさまざまなショックを受けながら暮らしている。
5)来日前に必要な支援
  来日した参加者のニーズについてのアンケートをまとめたところ、渡航前に必要であったこととして、「日本語学習の機会の提供」「国際結婚についてのアドバイス」「日本の文化についての学習機会」「日本の料理屋家事のスキルの学習」などの回答があげられている。

5.まとめ

来日前にどれくらいの準備をすることが最低限必要かについての基準は現在のところ設定されていないが、現状の来日前の準備では、不十分であると言えよう。方向性としては、異文化社会である日本で生活する上で、必要な知識やスキルを明らかにすることが今後の課題であるといえる。
  また、受け入れ側の日本の市区町村レベルでの文化的視点を取り入れた生活支援策を検討する時に来ているともいえるだろう。

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