自由研究発表国際社会福祉2  赤塚 俊治

『ベトナムにおける世代間の家族意識に伴う国民生活への影響』
-都市部と農村部の意識調査を踏まえて-

○ 東北福祉大学  赤塚 俊治(会員番号0073)
東北福祉大学  後藤 美恵子(会員番号7009)
東北福祉大学  生田目 学文(会員番号6069)
キーワード: 《ベトナム》 《世代意識》 《家族意識》

1.研 究 目 的

ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナムと略す)は、共産党一党支配体制を堅持した社会主義国家体制と多民族国家という社会にあってミクロ変動およびマクロ変動に伴い国民生活は大きく変化をみせている。特に、1990年代に入ってからは経済成長を背景に都市部や農村部の生活環境は驚くほどの変貌を遂げている。そこで本研究目的は、20歳代から50歳代までの年齢を対象に家族意識の特徴を分析することで、今日の生活問題および課題について究明することにある。その上位目的には、都市住民と農村住民との共通点、相違点を明確化し、さらには1986年から官から民へ経済思考をシフトした市場経済政策であるドイモイ政策(??i m?i:「刷新」の意)が、各世代間にどのような波及効果および影響を招いたかについて現状把握に努め、現代の家族機能の変容を示唆することにある。なお、本研究は科学研究費(2008年度-2010年度(基盤研究(B):課題番号20402046))の研究課題1)との連動性から捉えた研究として位置づけている。

2.研究の視点および方法

本調査は、ベトナム戦争時代を体験した世代と戦後に生まれた世代を大別し、家族意識を主体とした意識調査の分析を行った。研究方法は調査票を基に各年代別(20歳代、30歳代、40歳代、50歳代の各25人)に都市部と農村部で実施した。対象地域は、都市部のハノイ(Hanoi)とホーチミン市(Ho Chi Minh City)、農村部はビントゥアン(Binh Thuan)省ハム・タン(HamTan) 県ラジ(Lagi)町において無作為に就労している男女300人(女性161人)を2008年8月28日から9月10日までの日程で無記名自記式調査を実施し、統計処理方法は現状把握型の単純集計から定量分析で行った。

3.倫理的配慮

調査は対象者に趣旨と概要を説明し承認を得た上で無記名・任意回答で行い、また、本研究への同意の取り消しができる配慮や個人情報の保護および人権上の配慮を行っている。当然、研究成果を公表する際には、個人が特定されぬように匿名性を維持している。

4.研 究 結 果

本研究は、国内外において先行研究が皆無に等しいなかで実施した。本研究では、世代間の家族意識に関連する以下の調査項目を抽出した。①「家族の絆についてどう思いますか」②「最近は、家族よりも個人の生き方が優先されていると思いますか」、③「ドイモイ政策は、家族意識を大きく変化させていると思いますか」、④「家族の機能低下が、高齢者の介護にも大きな影響を与えていると思いますか」を(1)非常にある(2)どちらかといえばある(3)どちらかといえばない(4)非常にない、という4選択肢から該当する項目を選択させた。その結果、①「家族の絆についてどう思いますか」については、300人中「非常にある(192人)・どちらかといえばある」(76人)」に回答し、合計268人(89.3%)が占めた。この結果から、社会構造は変動しているものの家族の絆を重視していることが顕著に認められる。また、都市部と農村部とでは意識格差の差異はみあたらず、しかも各年代間の数的な特徴はまったく見当たらなかった。次に②「最近は、家族よりも個人の生き方が優先されていると思いますか」に対して、300人中、198人(66.0%)が個人の生き方を優先しており、現代の家族意識を浮き彫りにする結果を示した。ハノイ、ホーチミン市の都市部に共通していることは、全体で約70%以上のものが個人の生き方が優先されていると回答している。特に、40歳代、50歳代では、個人の生き方が優先されていると認識しているものが過半数以上を占めている。その要因として、40歳代、50歳代はベトナム戦争を体験しており、時代の変化に対応するのに戦後生まれの世代よりかは敏感で、さらには家族への責任感と都市化現象に対して意識的に自己変革した(しなければならなかった)ことが、都市部に住むものにとって不可欠だったといえる。特に、現代の政治・経済の中心的世代は、40歳代、50歳代の世代である。しかし、農村部のラジでは20歳代、30歳代の半数近くが個人の生き方が優先されていると回答しているのに対して、40歳代、50歳代では、「どちらかといえばない・非常にない」に回答するものが多数を示している。その要因には農村部では今なお残る伝統的村落社会(ムラ社会)が影響し、各世代間の意識の違いを生じさせる要因として推考される。次に③「ドイモイ政策は、家族意識を大きく変化させていると思いますか」では、都市部も農村部とも大きな差異はみられず、集計結果は300人中、207人(69.0%)がドイモイ政策は家族意識を大きく変化させた要因として示す結果となった。家族機能に関する項目である④「家族の機能低下が、高齢者の介護にも大きな影響を与えていると思いますか」に対して、都市部のハノイとホーチミン市を合わせると200人中168人(84.0%)が「家族の機能低下が高齢者の介護に大きな影響を与えている」とする回答が大多数を示しているが、農村部のラジでは、「やや当てはまる・当てはまる」を選択するものが過半数をわずかに超える数値であった。
  以上の調査結果から、(1)ベトナム社会では家族意識の変化や価値の多様化によって、家族機能の低下に反映していると推考される。(2)急速な経済成長を遂げるなか戦争を体験していない世代とドイモイ世代の人口の割合が総人口に占める割合が高くなったことは家族意識の変化にも影響を与える要因になったと推考される。さらには個人のライフスタイルの選択肢を増大させ、家庭内における個人主義化などが浸透し、ますます家族の多様化現象を生起させている。(3)都市部を中心に家族機能の変容が高齢者の介護問題を顕在化させることになった。本調査分析から家族の現状を踏まえると、国に求められることは、国民生活の変化に見合った具体的な対応策としての家族支援施策を具現化することである。
  1)「ベトナムにおける高齢期に必要な生活支援の調査に基づく介護福祉教育に関する研究」

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