自由研究発表国際社会福祉2  森澤 允清

ベトナムにおける障害者の生活に及ぼす地方貧困削減・社会救助政策の影響            
-地域障害者の生活実態調査に基づく検討-

高知女子大学  森澤 允清(会員番号6418)
キーワード: 《飢餓状態からの脱却》 《格差の拡大》 《保障の平等化》

1.研 究 目 的

ベトナムでは,1986年のドイモイ政策以降,1996年第5次経済-社会発展計画において目標を設定した障害者も含む貧困撲滅・削減実現国家プログラムを策定後,着々と社会福祉政策を策定してきている.
  本研究では,ベトナム南東部Binh Duong省(以下ビンヅォン省)において障害者とその家族の生活実態調査を行い,地方で実施されている貧困削減・社会救助政策(福祉施策)の影響をはじめ,障害者家族の所得及び人間貧困状況,障害者家族の自立意欲や生活ニーズ等を明らかにした。それに基づき,ベトナムの福祉政策の障害者の貧困克服に対する有効性とともに,今後の課題を明らかにすることを目的とした。
  なお本論文は 博士論文「ベトナムにおける障害者の貧困克服に対する地方貧困削減・社会救助政策の役割―地域障害者の生活実態調査に基づく障害者福祉施策検討―」の中の「ビンヅォン省における障害者とその家族の地域研究」を抽出し,内容の一部変更,追加したものである.(変更・追加した部分について、その箇所はゴシック体で明示した.) ビンヅォン省地方社会救助政策(福祉施策)は,2004年度から,下記の8つの福祉諸施策の対象,内容,施行方法などを省人民委員会決定として公布し,施行している.これらの福祉施策は,すべてビンヅォン省労働傷兵社会局(日本の厚生労働省地方部局)の所管となっている。これらの施策の影響を明らかにする.
①独自の社会救助費増額。給付対象の拡大 ②医療費の無料化 ③学費の減免 ④住宅の提供 ,修理及び改築⑤生活貸付金の増額(無担保,低利率信用制度)⑥職業訓練及び就業促進政策 ⑦公共交通(無料)保障⑧家庭慰安訪問(旧正月,お祝いプレゼント)

2.研究の視点および方法

途上国において現地での地域福祉政策の調査・考察,途上国における貧困削減に対する当該政府の役割と先進国の貧困削減支援策のあり方を明らかにすることになる。
  ベトナムの市場経済化,障害者・家族の地域及び一般住民との格差拡大と福祉政策の法制化の視点から,障害者・家族の貧困克服に対する地域福祉政策の役割を検証する。
  生活実態調査では,発展途上国における農村調査で採用されてきたRRA(速成農村調査法)における半構造的インタビューを聞き取り調査の中で採用した.本現地調査及び聞き取り調査は,筆者と現地各行政機関,協力スタッフ(盲人会役員,事務局員)障害者の家族,近隣住民などの調査協力による参加行動研究である.
  現地での第1回目調査は 2006年8月2日~8月11日の10日間,第2回目は 2007年5月20日~5月22日の3日間であった.省内1市2郡3地域の視覚障害者(全盲)47名(40家族)および家族を調査対象とした.

3.倫理的配慮

本実態調査では,現地の各家庭を訪問する際,最初に実態調査の調査目的,調査内容について説明を行い,対象者及び家族に不利益を及ぼさないようにすることを確約した.また調査内容について,給付金支給による家計調査や障害者や家族の「生活不安」を中心に家族環境及び地域との関係などを立ち入って聞き取ることになるため,プライバシー侵害にならないよう最大の配慮をした.調査結果については対象を匿名化するとともに,特定化されないようにした.

4.研 究 結 果

ビンヅォン省独自に行っている地域貧困削減・社会救助政策により,障害者とその家族は飢餓状態から脱却して,一般住民の最貧困層段階の生活保障が確保されるようになった.地域に分け隔てなく政策が適用され,農村部及び山間部の貧困層にも恩恵が行き渡るようになった.障害者及び家族のなかで,地域の社会関係を広げ,自立意欲をもって生活向上の家族目標をはっきりもつグループが形成されている.障害者本人にとって自己収入があることが,自立意欲(自立意欲)を作り出す要因となっている.医療及び教育の無料制度の導入,生業資金の貸与,住居の提供など就業の創出と拡大と家計の生活救助を軸に,衣食住の最低保障を図り,地域の共助互助の体制を生かそうとしている.
  一方、多くの障害者・家族は貧困ライン線上からは公的扶助により脱却したものの,依然として低所得10%の最貧困層に集中している.また、一般の家計内の主な収入者(世帯主)と比して障害者の労働収入は約3分の1となり明快な格差がある.障害者の家計は,障害者本人の収入が約35%,家族の収入及び援助46%,公的扶助19%となっており,家族の援助と社会救助政策による給付なしには生活維持ができない.
  障害者の職業は,宝くじ売り,ほうき作り,ゴム拾いなどの単純労働であり、低収入で不安定性である.労働可能年齢の障害者(35名)での失業率は37.14%となり高率である.ただ、地域格差が大きく,工業団地によるGDP増大と社会インフラ建設が進む都市部農村部では就業率が60%近くあるが,山間部ではわずかに12.5%である.これが障害者においても地域所得格差の要因になっている.
  人間貧困側面からみると,長期の差別的状況に置かれ,障害者本人及び家族双方の有病率が非常に高く,就学及び再教育/職業訓練を受ける機会が限られているため,上記のように不安定な単純労働に従事しており,貧困克服の基礎条件が崩されて慢性的貧困に陥っている.医療無料化等の福祉的インフラ整備が進んでいるが,十分な活用ができていない.
  個々の障害者及び家族の状況を分析してみると,「貧困ライン」家族に典型的に,家族及び地域及び社会からの孤立が深刻で,慢性的貧困から脱出できず,障害者及び家族の無気力状態に陥っている.所得貧困を生み出す人間貧困の深刻性が貧困脱出の機会を遅らせている.
  課題としては、格差拡大の中で障害者の多くは最貧困層からの脱却が未だに困難であり,施策へのアクセスができていない.就業機会が限定され,地域の社会関係からの疎外など問題を抱えており,障害者に対する独自な施策と,個別的なソーシャルワーク体制の確立が求められる. 

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp