自由研究発表国際社会福祉1  植村 英晴

フィリピン系介護職員の就労の現状と課題

○ 日本社会事業大学  植村 英晴(会員番号4001)
日本社会事業大学社会事業研究所  稲葉 宏 (会員番号7639)
キーワード: 《外国系介護職員》 《フィリピン》 《EPA》

1.研 究 目 的

我が国は、現在急速に高齢化している。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年には75歳以上の高齢者が2100万人になると推計されている。2006年に厚生労働省が設置した介護福祉士のあり方およびその養成プロセスの見直し等に関する検討会によれば、2030年には、少なくとも60万人の介護労働者が不足する可能性がある。しかし、介護職は他の職種に比べて給与が低いことなどから、介護職を希望する人自体が少ない上、離職率が大変高い。特に、都市部では慢性的な人手不足の状況が続いている。このような状況の下で、わが国は2006年にフィリピンおよびインドネシアと経済連携協定(EPA)を締結し、看護師、介護福祉士の受け入れに合意した。昨年8月7日には、インドネシア人の看護師・介護福祉士候補205人が来日し、日本語研修がスタートした。またフィリピン人の看護師・介護福祉士候補も本年5月に来日した。
  本研究は、フィリピン系介護職員が介護現場で就労する中で直面している課題を明らかにし、今後経済連携協定によって来日する外国人介護労働者の円滑な受け入れに資することを目的とする。

2.研究の視点および方法

現在の介護現場では、日本人と結婚した外国人、留学生など多くの外国人が働いている。本研究は、その中でも在日フィリピン人を調査対象とした。なぜなら、在日フィリピン人に特化することで介護現場における外国人雇用の基本的な問題を明確化できるからである。今後EPAに則って来日する人々は、母語の構造が日本語とまったく異なり、文化・宗教などが日本人と著しく異なる背景を持つ人々である。フィリピン系介護職員はこれら2つの特性を持っているので、外国人雇用の基本的問題を明確化することができる。
  研究方法は、在日フィリピン人1人あたり約1時間の個別面接調査である。実施期間は、2008年8月18日から2009年5月15日である。面接方法は事前に質問項目を用意した半構造化面接である。調査項目は、① 調査対象者の基本的属性(年齢、学歴、家族構成、在日歴)② 介護現場での就労実態(就労先の施設の種類、就労年数、勤務時間帯、介護等の記録を自分で書いているかどうか)③ 当事者が介護現場で働く中で困難だと感じたこと(介護の仕事をする中で、言葉に起因する困難を経験したことがあるかどうか)④ 介護用語の理解度 の4つから構成されている。

3.倫理的配慮

聞き取り調査の前に、調査の目的および調査データの取り扱いを説明した文書(日本語版と英語版)を用いて調査の趣旨を説明した。そして調査対象者が本調査の趣旨に同意した場合のみ、同意書に署名をもらい、調査を行った。また質問には就労先の施設名を尋ねる質問がないため、個別の事例においても、どの施設のものかを特定することはできない。

4.研 究 結 果

調査対象者は68人であり、全員が女性であった。平均年齢は35歳である。調査対象者68人のうち42人は日本人の夫がいる。また、現在配偶者がいない人も、在留資格取得の関係上、日本人と結婚していた可能性が極めて高い。学歴では大学・短期大学に進学した者は44人であり、全調査対象者のうち約65%にあたる。また68人中62人が在日歴1年以上である。
  入所型施設で働く人が51人と最も多い。就労期間は、就労1年未満の人が大半で、全68名中60名である、勤務時間帯は日勤を担当する人が多く、夜勤を担当している人は6人であった。介護記録等の執筆は68人中54人が業務に含まれており、54人中40人が介護記録を書いていた。しかし独力で記録を完成している人はわずか2人であった。
  日本語に起因する困難については、68人中55人が困難を経験したことがあると答えた。困難の経験はないと答えた13人についても、10人は困難を経験した事例を述べている。
  介護用語の理解では、10個の単語(麻痺、ADL、おむつ、排泄、虐待、認知症、便秘、じょくそう、失禁、徘徊)を声に出して読み上げ、理解度を3段階(1.ある程度意味が理解できている 2.聞いたことはあるが意味はわからない 3.聞いたこともなく意味もわからない)に分けて測定した。具体的な事物を指す単語である「おむつ」と「じょくそう」は、全員がある程度意味を理解していた。しかし「徘徊」を理解していたのは68人中8人であり、「ADL」は7人である。「虐待」を理解していたのはわずか5人である。また単語の理解度と勤続期間の間に明確な相関関係はみることができなかった。
  本研究の調査対象者の大半は高学歴で在日歴が長く、日本人の配偶者と暮らした経験があるため、日本語の習得では恵まれた環境にあったといえよう。しかし、実際にはほぼ全員が介護記録を書いていない上、日本語に起因する困難を経験している。また、単語テストの結果から、勤続期間に比例して介護の知識が増えていないことがわかる。従って、外国人介護職員に受け入れにおいては、施設就労後に具体的な支援策がないと、受け入れた外国人介護職員が日本人職員と同等の水準まで到達することは難しいと思われる。
  (本研究は文部科学省科学研究費補助金「外国人介護職の受入れに関する研究(平20~22年)」(研究代表者:植村英晴)の一部である)

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