自由研究発表国際社会福祉1  寺田 貴美代

外国人DV被害者に対するソーシャルワーク実践に関する考察
-母子生活支援施設における聞き取り調査の結果から-

新潟医療福祉大学  寺田 貴美代 (会員番号4604)
キーワード: 《ドメスティック・バイオレンス(DV)》 《外国人被害者》 《被害者支援》

1.研 究 目 的

DVによる危機的状況から避難した被害者が緊急一時保護を受け、生活を再建する主な機関としては、婦人相談所一時保護所や、民間団体が運営するシェルターなどがあり、国籍を問わず被害者の人権を保護すべきことが「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)に明記されている。しかしながら外国人被害者の場合、DVによって非正規滞在者とされ、危機的状況に陥っているケースも少なくないため、多様なニーズへの対応が求められており、必ずしも、実情に合う支援体制が確立されているとは言い難い状況にある。そのため、いったんシェルター等へ避難したとしても、自立生活の厳しさや経済的困難から、再び暴力を受ける恐怖に怯えつつ加害者の元へ戻るなど、被害者自らがDV関係を再構築するケースさえ存在している。そこで本研究は、緊急一時保護を実施し、かつ外国人DV被害者とその子どもたちに長期的な支援を展開している母子生活支援施設Aでの聞き取り調査の結果をもとに、外国人DV被害者への支援の現状を分析し、支援展開のあり方を検討することを目的としている。
  なお本研究は、昨年度の本学会の自由研究発表にて報告した外国人DV被害の背景や概況の整理と検討の成果を踏まえたものである。本研究においてはソーシャルワーク実践の観点から被害者支援の一例として母子生活支援施設Aの取り組みを取りあげ、その分析を通して外国人DV被害者支援に関する考察を行う。

2.研究の視点および方法

2002~09年までの8年間にわたり母子生活支援施設Aで実施した参与観察、および全常勤職員を対象とする聞き取り調査の結果をもととに報告を行うものであり、特に以下の点に着目して考察する。
  第一に、長期的支援による効果についてである。DVに関する既存のソーシャルワーク研究においては、DVを個人に起因する問題として捉えるのではなく、多様な要因による複合的問題として捉え、長期的に支援を展開する必要性が論じられている。そこで本研究では、長期的支援を実際に展開することによって生じる効果を把握する。第二に、外国人DV被害者へ支援を提供する上で必要な配慮についてである。外国人支援に関する先行研究においては、文化的背景の差異や法的地位に基づく社会との葛藤や軋轢など、特有の生活問題が生じやすいことが指摘されている。そこで、外国人被害者とその子どもに対してどのような配慮が求められているのかを整理する。そして最終的には、母子生活支援施設Aでの調査結果から得られた知見が、外国人DV被害者支援のあり方に与える示唆について検討する。

3.倫理的配慮

本研究は、報告者が所属する新潟医療福祉大学内の倫理委員会において審査され、倫理的問題がないと認められた上で実施している。また、「日本社会福祉学会研究倫理指針」に従うことにより、人権を保護し法令等を遵守している。さらに以下の点に留意し、研究を遂行している。1.被調査対象者のケーススタディによる研究成果の発表は行わないことにより、個人の機密に配慮し、その匿名性を確保する。2.個人を識別しうる情報を研究の成果発表にて扱わず、個人情報の保護・管理を行う。3.調査に際しては事前に対象者に協力依頼をし、対象者からの同意等の必要な手続きを経た上でのみ実施する。

4.研 究 結 果

母子生活支援施設Aにて提供される支援の特徴としては、まず外国人被害者が有する文化的・社会的背景を踏まえて、長期的視点から問題解決を志向する点がある。日本社会や日本文化への一方的な同化や社会適応を迫るのではなく、本人の主体性や自主性の尊重を前提としてエンパワメントを図ることにより、被害者保護と自立支援が連続性を有して展開されるよう配慮している。また、退所後の地域生活へのアフターケアを重視し、被害者の自立生活をサポートする点にも特徴がある。 その際、被害者本人と施設職員との直接的関係のみならず、近隣住民や学校、ハローワークなど多様な人間関係および社会的資源の活用を積極的に行い、地域社会との連携による支援体制の強化を図っている。ただし、母子生活支援施設Aにおいて外国人DV被害者へ提供される基本的な支援の流れは決して特殊なものではない。相談や一時保護から始まり、入所、支援提供、退所という一連の経過をたどり、他の機関において提供される支援方法とも共通点が多い。しかしながら、外国人DV被害者の多くが必要とする支援は通常の被害者支援に留まらず、言語や法的地位、文化的差違などに起因する数多くの障壁を克服するための総合的対応が不可欠となっている。 したがって、母子生活支援施設Aにおける支援はこのような諸問題への対応や予防の方策として実践の中で編み出されたものであり、結果として前述したような特徴が形成されたと推測する。そして、国内の国際化の進展に伴い国際結婚が増加傾向にある中で、このような取り組みは今後の被害者支援のあり方を検討する上で重要な示唆に富むと考える。
  なお、本研究は平成21年度科学研究費補助金「外国人ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者の実態把握と支援プログラムの構築」(若手B)および第38回財団法人三菱財団研究助成に基づく研究成果の一部である。

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