自由研究発表NPO・ボランティア  荒川 裕美子

福祉系大学新入生のボランティア活動に対する参加意欲と
-大学生活への適応の関連-

○ 川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科医療福祉学専攻
博士後期課程2年  荒川 裕美子 (会員番号6706)
川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科  吉田 浩子 (会員番号6201)
キーワード: 《ボランティア活動に対する参加意欲》 《大学生活への適応》 《大学生》

1.研 究 目 的

これまでに演者らは、大学生を対象にボランティア活動に関するいくつかの調査を行い、大学生のボランティア活動に対する意欲の程度は、 その活動経験の有無よりも、日常生活におけるボランティア活動以外の経験が影響している可能性を明らかとした。
  一方、近年、 大学生活への適応に大きな困難を抱える学生が増加し(日本私立学校振興・共済事業団、2005他)、新入生が円滑に大学に適応するための 初年次教育の役割が重要視され、課外活動などの正課外プログラムが重要であると言われるようになった。
  では、この課外活動の1つでもある ボランティア活動に対する意欲の程度は、大学生活への適応の程度と関連するのだろうか。
  本研究では、大学生のボランティア活動への参加意欲の 向上に繋がる知見を得ることを目的に、その一助として、福祉系大学の新入生のボランティア活動に対する意欲と大学生活への適応の程度との関連について調べた。

2.研究の視点および方法

2009年の4月に、福祉系A大学に在籍する大学1年次生を対象に、自記式無記名の集合調査を実施した。質問紙では、調査対象者にボランティア活動に対する 意欲の程度を示す4つの回答(ボランティア活動に①「今後積極的に参加したい」、②「一度は参加したい」、③「絶対参加しない」、④「すでに参加している」)を 提示し、あてはまるもの1つを選択させた。さらにここでは、彼らの大学生活への適応の指標として、①課外活動に対する意欲、②大学内における友人関係のあり方 (特定のグループ(現在大学内で行動を共にしている自然発生的集団で、学年と学科の同じ人の集まり)の所属の有無、グループの友人との関係(所属したきっかけ、 所属する理由、満足度)、友人に対する支援意識)、③大学生活に対する不安の程度(大学生活不安尺度(藤井、1998))を用いた。配布許可が得られた講義終了後に 質問紙を配布、質問紙記入後、回収ボックスに提出してもらった。回収した質問紙168枚のうち計158人(男子学生56人、女子学生102人)の回答を解析の対象とした (有効回答率94%)。

3.倫理的配慮

日本社会福祉学会の倫理規定に準拠したインフォームド・コンセントの内容は書面で示し、かつ口頭にて教示した。具体的には、本調査によって得られたデータは 全て統計的に処理され、個人は特定されないこと、本研究以外の目的に使用されることは一切ないこと、本調査への協力は自由意思であること、答えたくない質問に対して 回答する必要はないことを教示し、同意を得た場合のみ協力してもらった。なお、本研究は川崎医療福祉大学倫理委員会による承認を受けた(承認番号127)。

4.研 究 結 果

調査時に「ボランティア活動をしている」と答えた学生の割合は、調査対象者全体(158人)の7%(12人)と少数であったため、今回は「ボランティア活動をしていない」学生 (146人)の、今後のボランティア活動への参加意欲について報告する。
  ボランティア活動に「今後積極的に参加したい」と答えた学生は、「ボランティア活動をしていない学生」全体 (146人)の55%(87人)であった。
  このボランティア活動への参加意欲の程度と、大学生活への適応との関連を調べた結果、いくつかの項目で有意に関連があった。具体的には、 今後「学友会など学生主体の活動に積極的に参加したい」と答えた学生の79%が、ボランティア活動に「今後積極的に参加したい」と答えた。これらボランティア活動に「今後積極的に参加したい」と 答えた学生は、ボランティア活動の参加に消極的な学生に比べ、調査時に「大学内で特定のグループに所属している」と答えた人数の割合および、「友人に勉強でわからないところを教える」や 「学校内で突然倒れた見知らぬ学生を介抱し、健康管理センターの人を呼ぶ」など、友人や見知らぬ学生に対して「積極的に支援を行う」と答えた人数の割合が有意に高く、大学生活に対する不安も 有意に低かった。
   一方、ボランティア活動の参加に消極的な学生は、ボランティア活動に「今後積極的に参加したい」と答えた学生に比べ「できることなら、転学あるいは転部したくて 仕方ない」、「入学した学部が自分に合っていないような気がして不安だ」と答えた学生の人数の割合が有意に高かった。
  以上から、大学生のボランティア活動に対する参加意欲の程度は、 大学生活における課外活動に対する意欲、大学内における特定のグループ所属の有無、大学内における友人や見知らぬ学生に対する支援意識、大学生活に対する不安の程度と有意に関連することが わかった。新入生のボランティア活動に対する意欲の向上のためには、まず大学生活に対する適応を高めることが重要であると言えるかもしれない。ただし、本調査対象者は福祉系大学の 1年次生のみであり、今後は、他学年や、福祉系ではない大学に在籍する学生との比較研究を行う必要がある。

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