自由研究発表NPO・ボランティア  高木 寛之

福祉施設におけるボランティアマネジメントの戦略と機能
-社会福祉法人における地域福祉推進のあり方-

大妻女子大学  高木 寛之(会員番号6182)
キーワード: 《ボランティア》 《ボランティアマネジメント》 《福祉社会》

1.研 究 目 的

近年,ボランティア活動は地域福祉の推進の実態をなすものとして期待を集めている.そして,社会福祉法人ではその具体的な一手として 地域住民をボランティアとして受け入れている.我が国におけるボランティア活動は盛んになり,社会貢献への意識は高まり,3~4割の人びとが 何らかのボランティア活動の経験を持つようになった.しかしながら,近年のボランティア活動はその活動者の増加は,ボランティアに 「参加した」人が増えたのではなく,「参加したい」人が増えたものであり,参加してみようという「気持ち」の変化であるとの指摘も見られる. このようなことから,住民のボランティアへの参加意欲は高いものの具体的な活動には結びつかずボランティアを受け入れている組織では ボランティア確保の困難性が指摘されている.
  そこで本研究では,ボランティアを取り巻く政策や人びとの価値観の変化という組織にとっての 外部環境の変化を前提として,ボランティア確保の成功が組織のマネジメントのコントロールの結果によるものと仮定し,組織での支援の内容,機能, プロセスなどの特徴を明らかにし,社会福祉法人における地域福祉推進のあり方について論じる.

2.研究の視点および方法

ボランティアの確保の困難性に関する議論は,ボランティアという個人の行為であるミクロ・レベルの議論(参加動機や参加形態等)―活動先となる 組織側の支援というメゾ・レベルの議論(コーディネーション・マネジメント等)―行政側の参加型福祉社会形成というマクロ・レベルの議論(制度・政策等) から捉えることができる.ボランティア確保の議論を捉えるうえでは,これらの議論は互いに影響を与えており,すべてを切り離して論じることは難しい. 特に,ボランティア確保の成功や困難性は偶然によるものであり,ある一定期間,例えば短期的にみれば夏休み,長期的にみればボランティアに対する制度や 政策が重要視されている期間はどの組織でも多くのボランティアを確保することに成功することも可能と考えられる.そこで本研究は,制度政策による ボランティア活動の方向づけというマクロ・レベルの議論と参加動機や参加形態の変化といったミクロ・レベルでの議論を前提とし,組織側の支援という メゾ・レベルに焦点を当てる.
  本研究の関心は,ボランティア確保の困難性についてメゾ・レベルでの対応にある.それらの対応の意味や意図, どのような過程が組み込まれているのかを理解するためには,ボランティアに対する認識のあり方やマネジメントの技法,他組織や地域へのコミット等の 考え方を立体的に理解することが必要であり,質的研究方法が望ましいと判断された.そして,本研究はデータに基づき現状を理解する探索的な調査で あることをふまえ,ボランティア受け入れ組織の担当者を対象に半構造的インタビューを行った.
  対象は,東京都,埼玉県,神奈川県の介護老人 保健施設,障害者総合福祉施設,特別養護老人ホームでボランティアの受け入れを行っている組織の受け入れの担当者3名である.対象の選択については, ボランティアコーディネーションやボランティアマネジメントについて研究・研修を行っているNPO法人に①入所施設②ボランティアの受け入れに歴史がある ③社会福祉協議会との連携が取れているボランティアの確保を活発に行っている社会福祉法人を紹介してもらった.
  インタビューでは,施設における ボランティアとの関わりについて5つの点を中心に尋ねた.それらは,①施設で活動するボランティアの類型②ボランティアと活動支援の頻度と規模 ③ボランティアマネジメントについてどの程度組織化(構造化)されているのか④どのような時間課程の中で作動するのか(過程)⑤ボランティアマネジメントの 影響である.分析方法は質的研究方法に従い,事例を比較しデータの圧縮(コード化)を行い類似点と相違点を確定し,カテゴリーや概念を定義付けた. そして,データを表示し結論の導き出しと検証を行った.

3.倫理的配慮

インタビューに際しては,研究の目的を説明し協力を得た.そして,研究成果のレポートにおいては回答者の匿名性が保証されること,回答内容の秘密は厳格に 保持されることを約束した.

4.研 究 結 果

本研究の結果からは,社会福祉法人におけるボランティアマネジメントは戦略的なプロセスを持ち,職員の役割とボランティアの役割(活動内容)を明確にする 取り組みが行われていることが確認された.しかしながら,ボランティアの受け入れついては組織内の理解を得ることの難しさが指摘され,組織内の環境を整えることの 重要性が認識されていた.
  そして,従来のボランティアコーディネーションやマネジメントに指摘されている組織のミッションへの共感につなげる取り組みや ボランティアの組織化については、その必要性に疑問が指摘され,組織化については慎重な態度が見られた.さらに,地域福祉の推進というマクロな視点でボランティア活動を 捉えるならば,施設単位でのボランティア支援という部分整合性は一致しているが,同一地域内での施設同士の連携には温度差が見られ全体整合性の不一致が指摘された.

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