地縁組織が福祉系NPOを創出するプロセス
-地域リーダーの役割に焦点をあてて-
大阪市天王寺区社会福祉協議会 大野 真鯉(会員番号7621)
キーワード: 《地縁組織》 《福祉系NPO》 《コミュニティワーク》
少子高齢化の進展、福祉ニーズの多様化、社会的格差の拡大など、私たちを取り巻く情勢はますます深刻化している。従来の「公」では
手におよそおえない状況になっているなか、地域を核として、様々な主体の協働による「新たな公」の構築がますます緊急的な課題となる。
特に生活者である住民自身がノーマライゼーションを進めていく「下からの公共性」が必要視されており、住民参加によるきめ細やかな
地域福祉をいかにして推進するかが問われている。
では、住民参加により、社会的援護を要する人々を地域の中に包み込む福祉の
まちづくりを進めていくにはどうすればよいか。社会的な支援を行うためには、各種課題に応じた専門性・テーマ性が必要であり、
住民参加を進めるためには地域に居住する住民の交流・相互扶助が必要になる。つまり、テーマ性と居住性・住民互助性を縦横に結びつけた
新たな組織化が必要視されている。
そのような組織化の1つの形態として、住民の相互扶助組織である地縁組織が、共通の関心で結ばれた
テーマ性を持ち、社会的支援を要する人々のために活動する福祉系NPOを創出し、両者が連携しあう事例が見られている。一般的に、地縁組織と
NPOは水と油の関係にあると言われるが、自ら生み出したものであれば、競合・摩擦したり、排除したりしないであろうし、両者の相互補完が
可能になるのではという指摘があり、その組織化を推奨している社協もある。しかし、いかにしてそれを実現するか、実践的な視点での研究が
十分になされていないのが現状である。
したがって、本研究では、町内会・自治会を基盤として福祉系NPOを産み出し両組織が相互連携を行う
「町内会・自治会の福祉系NPO創出」に該当する2事例(A地区、B地区)に焦点をあて、質的研究を行い、コミュニティワークの観点から
そのプロセスを明らかにする。特に、それを成し遂げた地域リーダーをボランタリーなコミュニティワーカーとして捉え、形成過程における
彼らの役割を考察する。
本研究ではケーススタディを行った。まず、それぞれの事例について、福祉系NPOの創出における組織の動きをドキュメントから読み取り 時系列に整理し、組織化のプロセスを明らかにした。第2に、立ち上げに関わったコアメンバーを対象に半構造的インタビューを行い、なぜ そのような行動をとったのか、ドキュメントから読み取れない意図と思いを理解することに努めた。第3に、リーダーの行動とその意図・思いを 汲み取り、加納恵子(2003)の「コミュニティワーカーの役割」を分析枠組みとして用い、彼らの果たした役割を考察した。第4に、2つの事例の 比較考察を行い、共通点を抽出することで自治会がNPOを創出し協力関係を構築するプロセスと、各段階における地域リーダーの役割を明らかにした。
3.倫理的配慮本研究では、具体的な人間描写がなされる。よって、地名や人物名を匿名にし、事実を曲げない程度の若干の加工を行っている。また、 調査対象者に確認をとり、加工したものの信頼性・妥当性の確保に努めた。A地区では、調査に出てくる人物全員に執筆・公開の許可を得、 NPOの代表者より文書にて承諾を得た。B地区では、NPO理事と町会連合会の役員に執筆・公開の許可を得、代表者より文書にて承諾を得た。
4.研 究 結 果たった2つの事例から得た調査結果だが、町内会・自治会が福祉系NPOを創出するには、「第Ⅰ期:ボランタリー活動の芽生え」
「第Ⅱ期:ボランタリー活動の拡大」「第Ⅲ(Ⅳ)期:町内会・自治会の改革」「第Ⅳ(Ⅲ)期:福祉系NPOの創出」「第Ⅴ期:自治会と
福祉系NPOの協力関係構築」のプロセスをたどることが明らかになった。
第Ⅰ期では、町内会・自治会の内部かそれに近いところで
ボランタリー活動が生み出される。この局面では、活動意欲がある者や組織運営・ボランティアの経験者等を自治会に導入・配置すること、
町内会・自治会のリーダーが、住民の思いをかきたて、ボランタリー活動を導く刺激者となることで、自治会を刺激し新しい体制へと導く。
第Ⅱ期では、ボランタリー活動が住民の意見収集、地域外の資源の導入などを経て拡大される。それにより、町内会・自治会の
運営枠組みだけでは、活動収益の必要性・メンバーの確保が難しいなどの運営上の問題が生じてくる。この局面において、町内会・自治会の
リーダーは、ボランタリー集団の活動を承認する。
第Ⅲ(Ⅳ)期は、町内会・自治会が、地域代表組織として自覚し、その基盤整備を
行う時期である。この局面では、町内会・自治会が、NPOを含めた他団体のサポートをするために自己を改革し、調整機能を強化させる。その際、
住民とのコンフリクトが生じる場合がある。よって、集団活動を導く刺激者だけでなく、調査・分析者が改革の意図を説明し、表出者が反対派の
住民に対応する。
第Ⅳ(Ⅲ)期では、第Ⅱ期で生じた運営上の課題を打破するための受け皿として、NPOを創出する。NPOを立ち上げる
この局面では、法人格認証のための書類、定款等の作成など専門的知識が求められるため、専門家からの助言指導が必要になる。この局面において
リーダーは、住民を積極的に巻き込んでいく刺激者、NPO設立の趣旨を説明する調査・分析者、住民のコンフリクトに対応する表出者の役割を果たす。
第Ⅴ期は、町内会・自治会と福祉系NPOの機能連携が行われる。この局面では、町内会・自治会側のリーダーとNPO側のリーダーが、刺激者、
調査・分析者、表出者、調整者の役割を分担して担う。また、両組織の兼任者が情報・意見交換の際のパイプ役として機能していた。
<参考文献>
加納恵子(2003)「コミュニティワーカー」.高森敬久,高田眞治,加納恵子,平野隆之.『地域福祉援助技術論』.
(pp.78-85).相川書房