自由研究発表地域福祉4  平野 隆之

中山間地域における社会福祉協議会の在宅介護サービス収支状況とその要因
-高知県下9社協のシェアおよび移動時間分析を通して-

○ 日本福祉大学  平野 隆之(会員番号0814)
日本福祉大学地域ケア研究推進センター  斉藤 雅茂(会員番号5854)
日本福祉大学地域ケア研究推進センター  奥田 佑子(会員番号5550)
キーワード: 《平野 隆之》 《中山間地域》 《社会福祉協議会》

1.研 究 目 的

本研究は、高知県の中山間地域の介護市場において厳しい経営を迫られる社会福祉協議会の現状と、その要因を明らかにし、全国一律の介護保険制度の課題や中山間地域の介護事業者への支援策を検討することを目的としている。なお、本研究は日本福祉大学地域ケア研究推進センターと高知県との共同研究事業の一環として行ったものである。
  中山間地域では、新たなサービス提供主体の参入が期待できないところも多く、たとえ参入があったとしても採算が取れない地域では営利を目的とする事業所は撤退してしまうという課題を抱えている。そうした中で、社会福祉協議会が提供する介護保険サービスの存在意義は大きく、厳しい条件の中でも事業を継続していくことが求められる。
  本研究では、まず中山間地域の介護保険事業における社協シェアの実態を把握するとともに、それらの事業の収支状況を分析するなかで、高いシェアにも関わらず、赤字が常態化している現状を明らかにする。さらに赤字に陥る背景として、介護事業の規模や利用者1人当たりの収益性、移動時間の問題に着目して赤字の要因を分析している。
  なお、中山間地域の介護事業を担う存在としては、協働組合やNPOの可能性もありうるが、事業の安定性という点や、すでに社協への政策的介入(行政支援)がなされているという点から、今回の研究では社協に焦点をあてている。

2.研究の視点および方法

1)本分析に用いるデータ
  本研究では、以下の3種類のデータを用いて、分析を行っている。社協の利用実態や地域でのシェアと収支との関係、また、移動時間と収支との関係を分析している。
①当該自治体の介護保険の給付および事業所データ(2007年10月分)
②高知県下社協の収支状況(2007年度)
③訪問介護・通所介護の件数と移動時間および収入(2008年10月)
  ※③は対象社協に対してのアンケート調査により把握
  2)分析対象社協の抽出
  高知県のなかで介護保険事業を行っている24社協のなかから9社協について詳細な分析を行った。9社協の抽出の際しては、高知県のなかでも特徴的な中山間地であることを前提とした上で、「介護事業(市場)の規模」と「施設・在宅ケアバランス(在宅ケアと施設ケアの割合)」という観点から、県全体の代表性が保たれるように配慮した。そのうえで、社協の中でも、多様な介護サービスを提供している事業所を抽出した。

3.倫理的配慮

介護保険給付データは、個人が特定されないよう処理を行ったうえで提供を受けている。

4.研 究 結 果

1)高い社協介護事業のシェアと事業の赤字問題
  在宅利用者を母数として社協サービスの利用者割合をみると平均で26.2%、高い地域では6割前後を占めることが判明した。
  社協シェアと社協収支状況との関連をみると、社協シェアが高いにもかかわらず、当該サービスでの社協の赤字額が大きくなっている。訪問介護と通所介護事業の単位当たり(訪問介護では1回、通所介護では1日)の赤字額をみると、訪問介護では規模の大きい都市において、1件訪問するごとに概ね200~300円程度の赤字が生じている。
  2)3つの類型別の赤字構造と支援策の必要性
  以上の結果に基づいて、介護市場の形成と移動問題の関連から、山間部型、合併型、都市型に分類して、その特徴と政策的課題を整理する。
①山間部型の特徴(3社協)
  介護市場が小さく、在宅の重度者が少ない(人数施設率が高く1人当たりの在宅費用が低い)ため、今後在宅サービスを充実させなければ、施設化の進行が予想される。社協のサービスを利用している割合は比較的高いが、社協利用者の介護費用が安く、社協非利用者との介護費用の格差が大きい。このため、これらの地域の社協では、構造的に赤字が出やすい状況にある。1件当たりの収入が高いため、移動コストを吸収する可能性を見出しうるが、絶対的な利用者数が少ないために限界がある。訪問介護、通所介護ともに、域内において社協以外によるサービスはなく、域内でのサービスを充実させる必要があり赤字を補填する仕組みが必要と考えられる。
②合併型の特徴(2社協)
  合併型では、域内の社協以外のサービスが多いという点では同様の特徴がみられたが、1社協は赤字が深刻であり、もう1社協は黒字で経営している。黒字の背景には、社協利用者と非利用者の利用費用の格差は最も小さく、合併前の旧町村単位にデリバリーできる拠点を有していること、地域性や資源立地に対応したケアプランが組み立てられていること、などが考えられる。このため、ステーション型による対応ができない地域には、へき地加算のような仕組みが必要といえる。
③都市型の特徴(3社協)
  社協のシェアが相対的に低く、他の民間事業が介護サービスの中心を担っている。ただし、公共性の高い社協としては「移動コスト」のかかる地域においても、利用者を引き受ける傾向にあり、非効率的なサービスにならざるをえない。市を「街」「平野部」「山間部」に分類すると、山間部で社協の利用率が高い傾向にある。都市型は介護市場が大きく、社協以外の事業者が一定のシェアを占めている地域であっても、地域のなかにある効率性を期待できない地域での在宅高齢者を支えるためには一定の補填が必要といえる。

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