地域自治組織とNPO法人の協働による小地域活動に関する研究
-伊賀市の住民自治協議会の事例から-
日本福祉大学大学院社会福祉学研究科研究生 石井 浩(会員番号6760)
キーワード: 《地域自治組織》 《NPO法人》 《協働》
地域自治組織とは,市町村合併論議で内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会が「基礎自治体(市町村)内の一定の区域を単位とし,住民自治の強化や住民と行政との協働の推進などを目的とする組織」と定義している.事例研究を行った伊賀市の住民自治協議会(以下、自治協とも言う)は,平成合併の審議から生まれた.地域自治区の法制度の選択をせずに,伊賀市自治基本条例を策定した.その条例で「住民自治のしくみ」として自治協は,小学校単位に地域住民による自発的に設置される地域自治組織として位置付けられている.本研究のNPOの対象は, 「特定非営利活動促進法」(NPO法)で認証を受けたNPO法人である.本研究では,協働とは,異なる主体間(組織間)が共通目的のため相互に理解し、違いを認めて、合意形成・意思決定した共通目標・課題解決に向けて対等の立場で役割分担と協力することであると定義する.本研究の小地域活動とは,地域福祉活動を含んだ概念であり,「福祉課題」だけに止まらずに「健康」「福祉」「防災」「人権」等の分野が重なる「生活課題」に対する諸活動・サービスであると概念定義をする.
住民自治協議会のしくみは,自治会長+各種諸団体+個人(ボランティア)の出会い・協議の場である.中川は、「住民自治協議会のしくみは,自治会・町内会などのコミュニティ系団体と、特定目的のために自立した市民が結集する,NPOなどのアソシエーション系団体,個人との組み合わせであり,その組織運営とNPOとの協働の仕方が重要な課題」である(中川2005:29-30).
山崎は、「地域住民自治組織の活動がNPOの活動とより協働することで地域の共通課題として発展させることができる」と述べている(山崎2006:266).このように,地域自治組織(住民自治協議会)とNPO(NPO法人)の協働が研究課題となっている.そこで、次のような研究目的を設定した.
本研究の目的は,伊賀市の住民自治協議会とNPO法人との協働による小地域活動の状況を明らかにし,地域自治組織の組織運営における小地域活動推進を考察することが目的である.また、自発的な地域自治組織(自治協)が地域の課題解決を図り、行政サービスの受け皿としてなりうるのかを住民主体の小地域活動の推進要因と限界性に焦点化し検討することを目指している.
山崎は、「地域住民自治組織の活動は,NPO活動とより協働することにより,専門性を高めることができ,生活充実(親睦)型の組織から地域の問題解決型の組織発展しようとするとき,NPOとの協働が必要になっている.一方NPOは,本来公益性をもつ団体であり,地域住民自治組織と協働することにより,取り組むテーマを地域の共通課題として発展させていくことができる.~中略~ 両組織が行政と協働していく前提としては,住民主体の対等性・平等性・自治の関係が確立していることが必要である.地域住民自治組織とNPO、行政が協働の関係をいっそう拡大していくための条件は、取り組む地域課題の共通性にあり、地域住民の要望・課題に対する応答能力を高めていくことにある」と述べている(山崎2006:264-265).筆者は、先行研究から次のような仮説を導いた.
仮説:住民自治協議会とNPO法人の小地域活動は,協議・協働の場で合意形成と目的共有がされれば,各種団体の役割分担が明確になり、公共的で専門的な活動・サービス事業となる.
研究の視点は,次のように自治協とNPO法人との協働による小地域活動の事例分析を行う.
(1)どのような諸契機が協働してどう実現したのか,その要因分析を行う.
諸契機:①住民のニーズ発か,②提供発か、で協働した結果の比較分析をする.
(2)住民及びNPO法人の参加の仕方と協働の条件について
住民自治協議会の事例結果を住民及びNPO法人の参加の仕方,協働の条件,成果と課題・要因に分類した.NPO法人と協働した場合,どのように住民参加と協働の条件があれば活動の成果があるかを次の3点で比較分析する.①成果があった事例と成果が不十分な事例,②社協のモデル地区である,③分野ごとに、福祉分野と人権(多文化共生)分野を設定した.
研究方法は、質的調査をし,KJ法的手法,一致差異法で比較事例分析を行った.調査方法は,①聞取り面接調査,②事例調査,④ドキュメント調査である.自治協のある37地区内で福祉・人権の分野のNPO法人がある地区は10地区である.その10地区内で地区社協ないし旧町村社協があるか否か,社協のモデル指定地区であるか否か,地域特性を勘案して4地区(A地区,B地区,C地区,D地区)を設定した.4地区別に小地域活動の推進環境を想定した.聞取り面接調査は,住民自治協議会の設立過程・運営と小地域活動の状況については,①自治協の会長ないし事務局長と福祉・健康・人権分野の部会長,②福祉・人権分野のNPO法人の代表に実施した.聞取り面接対象者は,合計20名である.調査期間は,2006年11月~2008年10月である.
先行業績の検討を行い,自説と他説と峻別し,盗作をしていません.他説の引用には厳格に明示している.事例・データ調査を匿名化し,調査時の依頼,研究発表には文章で承諾を得ている.
4.研 究 結 果(1)調査結果
1)住民のニーズが起点であるB地区の事例「学童保育」と「福祉輸送」の比較事例から、自治協自体がNPO法人化せずに専門的な福祉サービス提供となった場合には他のNPO法人,事業者など委託する方が実現しやすい状況である.
2)成果があった3つの事例と成果が不十分な2つの事例から,成果があった事例では,対象エリアは小学校の範囲が良い.住民参加は,当事者参加,自発・主体性が重要であり,協議の場で合意形成をする.協働は,共通課題が目的共有をして対等になり、専門性,役割分担を発揮する.成果は,組織化が進み,NPO法人は公益性,自治協は公共性になる.成果が不十分な事例では,住民・当事者参加,協議しているが,自発性・主体性が弱いことから,合意形成が不十分となる.参加の部分で合意形成がしていないので,目的共有,対等でなく,専門性,役割が発揮されない.
3)社協のモデル指定地区であるA地区の「サロン活動」とB地区の「福祉輸送」の比較事例から、社協のワーカーがどのように地域住民組織,NPO等にアプローチするかによって,住民参加と協働の進み方,その成果が違ってくる.
4)分野ごとに人権分野と福祉分野で比較事例から,福祉分野は,専門性が重要である.地域課題が,生活課題から福祉課題へと明確になるごとに福祉の専門性,専門職が求められてくる.
(2)事例分析結果から仮説の検証
住民参加,当事者参加があり,住民自治協議会とNPO法人が自発性・主体性があると,協議・協働の場で合意形成ができやすくなる.共通課題の合意形成がされ,課題解決の目的共有がされると対等に議論をし,役割分担,組織化が進む.そして,議論や活動するなかで,NPO法人は専門性・公益性を発揮し、住民自治協議会(自治会を通じて)は公共的(一般化)が発揮される.ただし,当事者参加があり,協議されていたとしても自発性・主体性が弱いと合意形成が不十分になり,目的共有がされずに,対等でなくなり,専門性,役割が発揮されないといえる.
(3)考察:地域自治組織(住民自治協議会)とNPO法人との協働の課題
調査結果の分析から地域自治組織(住民自治協議会)とNPO法人が協働した場合,住民参加と協働の条件を満たせば,地域住民のニーズ・課題解決に大きい成果が出ることが判明した.そして,①NPO法人の経営状況に左右される,②NPO法人のミッション・ビジョンとマッチするか,③制度上で行政・社協などの支援の適用範囲であるか,④住民組織とNPO法人との間で抵抗,摩擦があった場合に仲介・調整する中間組織があるかといった課題が明らかになった.地域住民のニーズ・課題解決に向けて地域自治組織とNPO法人が協働する場合には,NPO法人へのサポートが必要である. NPO法人の経営規模,協働する内容によって違うが,地域自治組織とNPO法人と協働には限界性があり,継続のためには,自治体単位で協働のしくみ,補助制度が必要である.