自由研究発表地域福祉4  野村 恭代

施設と地域住民との合意形成に及ぼす社会文化的要因
-施設コンフリクトの実態に関するアンケート調査から-

帝塚山大学/大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程  野村 恭代(会員番号6252)
キーワード: 《施設コンフリクト》 《合意形成》 《精神障がい者》

1.研 究 目 的

本研究の着想は、平成16年から平成18年にかけて筆者が行った、精神障がい者施設に対するコンフリクト発生から和解に至るプロセスに関する研究に端を発している。左記の研究においては、①施設コンフリクト発生から和解に至るプロセスは5つの類型に整理することができる、②5類型の和解プロセスでは、それぞれ和解としている状態が異なっており、施設側の譲歩による和解、施設建設を告知しないことによる和解、行政がパイプ役を果たすことのみによる和解は、真の和解に結びついているとは言えず、施設利用者に対する理解を得ることによる和解、地域住民が施設や利用者と直接関わることにより、地域住民の意識レベルでの和解へと結びつける必要がある、③1980年代までは、施設側の譲歩による和解、地域住民に対し施設建設を告知しないことによる和解プロセスがとられているが、1990年代以降は、主に地域住民が施設や利用者と直接かかわりを持つことによる和解プロセスがとられている、④施設建設にあたって反対運動が起きていないために、表面的には施設コンフリクトが発生していないと考えられていた地域でも、実はその規模に大小の差はあるものの施設コンフリクトは発生している、⑤施設コンフリクトの和解の要因として、施設が先住しているか、歴史のある地域であるかといったことは影響せず、施設側が地域住民の意識レベルに働きかける対応のあり方が有効である、という5点が明らかにされた。しかし、これまでの諸々の研究においては、それぞれの地域の外部環境の違いについて未だ明らかにされていない。1990年代以降の施設コンフリクトの和解は、地域住民が精神障がい者について知り、理解を深めることにより精神障がい者を受け入れていく、自分自身が成長していくという意識レベルでの和解となっている。地域住民の成長には、その土台となっている意識を形成している外部環境を明らかにする必要がある。しかし、それぞれの施設が存在している地域の外部環境についての調査は行われていない。
  そこで、本研究では、施設コンフリクト発生の大きい地域と施設コンフリクト発生の小さい地域の外部環境を明らかにすることが目的である。なお、コンフリクトに関しては、それが目に見える形で(現象として)表面化していない場合においても、すべての地域において起こりうる事柄であると捉える。
  また、これまでに取り上げられることのなかった精神障がい者施設と地域とのかかわりについて取り上げ、施設コンフリクトの発生事由について、地域の社会文化的要因の関与を明らかにする。具体的には、3箇所の具体的地域を取り上げ、施設コンフリクトにかかわる地域間の社会的要因について比較を行う。

2.研究の視点および方法

今回の報告内容は、平成20年~21年にかけて行ったアンケート調査が基となっている。なお、具体的な研究の方法は以下の通りである。
(1) 調査地域
① 奈良県全域(精神障がい者施設)
② 沖縄県全域(精神障がい者施設)
③ 長崎市全域(精神障がい者施設)
(2) 調査の方法
  平成20年8月~10月及び平成21年4月~6月にかけて3県の精神障がい者施設に対し、郵送による配布によりアンケート調査を実施した。

3.倫理的配慮

各施設に対し、事前に調査の趣旨および概要、プライバシー保護に関する説明を書面にて行った。また、可能な箇所のみの回答を依頼し、施設の事情等により答えられない箇所に関しては拒否権があることを明確に示した。

4.研 究 結 果

全国精神障がい者社会復帰施設協会の協会名簿を基に、小規模通所授産施設も含めた奈良県および沖縄県、長崎市の精神障がい者施設に対しアンケート調査を実施した。なお、アンケートに関しては、バイアスを避けるため、施設と地域住民とのかかわりに関する標準化された尺度で構成した自記式質問紙を用いた。
  アンケート調査の回収結果は、発送数110(沖縄県50、奈良県37、長崎市23施設)、回収数(沖縄県22、奈良県28、長崎市X)、回収率%(沖縄県44%、奈良県75.7%、長崎市X%)であった。なお、報告の中で提示する数値に関しては、回収数を母数として表している。
  施設開設に対する地域住民からの苦情の有無に関し、「苦情があった」と回答した施設は、沖縄県3施設、奈良県3施設、長崎市X施設であった。また、施設開設後の地域住民からの苦情の有無に関し、「苦情があった」と回答した施設は、沖縄県1施設、奈良県7施設、長崎市X施設であった。「苦情があった」と回答した施設における現在の地域との関係に関しては、良好な関係と認識しているものが沖縄県3施設、奈良県3施設、長崎市X施設であり、「相互不干渉」であるものが沖縄県1施設、奈良県3施設、長崎市X施設であった。

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