自由研究発表地域福祉4   橋本  芳

女性の高齢期の自己実現
-地域婦人会女性に対する葬儀の生前契約利用意識分析から-

○ 鹿児島大学  橋本  芳(会員番号6334)
佐賀大学  北川 慶子(会員番号0240)
キーワード: 《女性》 《高齢期の自己実現》 《葬儀の生前契約》

1.研 究 目 的

本研究の目的は、高齢期の自己実現に対する葬儀の生前契約の有用性を検討することにある。女性の高齢期に着目したのは、長命化し長い高齢期の生活を送る女性は、高齢化に伴い心身の健康、経済、人間関係等の生活不安を抱える傾向があるからである。女性の多くはこれらの高齢期生活の不安、人生最期の時期の医療、看護、介護の不安、また死後の葬儀、墓や祭祀への不安も考えられる。女性は高齢期に備えるのみならず、女性高齢期の最終期における自己の看取りの場と葬儀へ備える必要性もあると考えられる。

2.研究の視点および方法

調査研究対象地域を選定するに当たって、①高い高齢化率、②高い人口減少率、③小規模な経済圏、④少規模な人口の4点が共通する地域とし、アンケート調査依頼に同意した6県の地域婦人会(有効回収率80.5%)に調査票を送付し、回収した。地域に根ざした社会活動を行っている地域婦人会の女性に対して、①高齢期の生活、②終末期、③死後それぞれの備えの意識を捉えた。本報告では、「葬儀の生前契約利用」項目に無回答の60名を除いた584人の回答をもとに、「葬儀の生前契約利用意識」の分析及び考察を行う。

3.倫理的配慮

調査票に回収データの匿名性、プライバシーの保護、研究目的以外でデータを使用しないことなど、個人情報の保護に留意することを明記し、6県の連合婦人会事務局にアンケート調査の依頼をし、無記名での返送とした。

4.研 究 結 果

「対象者の基本属性」について、「年齢」は、「50歳代」、「60歳代」、「40歳代」の順であった。「同居家族」は「配偶者を含む家族」が8割を超えていた。
  本研究では、「高齢期の生活」(高齢期)、「看取りと意思表明」(終末期)、「葬儀の生前契約の利用」(死後)に対する備えの意識を捉えた。「高齢期の生活」では、「高齢期の備え」を「している」が7割であった。「高齢期の生活」で「必要である」とする回答比率が高かったのは、「健康」、「年金」、「家族」、「保健・医療」、「貯蓄」、「交友関係」の順であった。
  「最期の看取り」と「医療や相続に対する意思表明」の相手は、「配偶者」が最も多かった。看取りも看取る前の主たる介護を担うのも配偶者が多いという傾向であった。
  「葬儀の生前契約の利用意識」は、葬儀の生前契約を「熟知している」(52.9%)で、「利用したい」(52.9%)とほぼ同程度だった。利用したいとする主たる理由は、「家族念慮」であり、1992年に葬儀の生前契約利用者に対して実施した調査(2001)と同様の結果であった。一方、「葬儀の生前契約を利用したくない」理由では、「葬儀は家族で行うもの」が最も多かった。葬儀の生前契約利用の意思にかかわらず、その決定には家族の存在が大きくかかわっている。将来、葬儀の生前契約が「必要になる」という回答は63.4%であった。その理由は、「家族に頼ることができない」(54.9%)、「家族に負担をかけたくない」(54.6%)という不安と家族念慮が高率であった。「葬儀の生前契約を締結したい時期」は、「自分で必要と思ったとき」(70.9%)が最も高く、葬儀の生前契約締結は「不安の解消」の側面をもっている。続いて「配偶者に先立たれたとき」(27.7%)であった。「葬儀の生前契約の遺族負担軽減」については、「役に立つと思う」が69.3%で、現実対応意識が強い。
  女性の葬儀の生前契約の利用意識を捉えるために、探索的因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行った結果、「意思表明の相手」、「同居家族」、「介護依頼の相手」、「看取り依頼の相手」の4因子が抽出された。因子分析により検出された4因子は、高い内的整合性があると確認され(Cronbachα=0.964)、累積寄与率は83.69であった。これら4因子の因子得点は、いずれも「葬儀の生前契約を利用したくない」人で高く、基本的に「同居家族」の場合は「葬儀の生前契約」を「利用したくない」という傾向と考えられる。「介護依頼相手」は有意に高かった(p<.05)。同居家族が介護も看取りも行うという明確な信頼関係があることによって、葬儀の生前契約は必要としない(利用したくない)という結果であるといえる。
  「葬儀の生前契約の利用意識」を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析の結果、「最期の看取りを依頼したい相手-それ以外の家族」、「葬儀の生前契約を締結したい時期-配偶者に先立たれたとき」、「ホスピス・緩和ケアの認知」のオッズ比は1より有意に高かった。「最期の看取りを依頼したい相手-それ以外の家族」の回答は「兄弟姉妹」が多く、このような場合には、「葬儀の生前契約の利用意識」が「利用したい」方向に向くといえる。本研究では「配偶者に先立たれること」が「葬儀の生前契約の利用意識」と関連していた。このことは、葬儀の経験をすることによって(それを想定して)、配偶者が執り行うことができない自分自身の葬儀には備えようという意識が働くのかもしれない。「ホスピス・緩和ケアの認知」も「葬儀の生前契約の利用意識」も上と同様の側面を示していると考えられる。
  本調査研究の結果、葬儀の生前契約利用には①葬儀の不安の軽減(自己実現の側面)と、②身近な人(配偶者)の死の負担軽減(自分自身の葬儀に備える側面)があることが明らかとなった。

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