自由研究発表地域福祉3  菱沼 幹男

コミュニティソーシャルワーク・スキルの現状と担当圏域規模の相関性
-500自治体を対象とした全国調査の結果から-

文京学院大学  菱沼 幹男 (会員番号3909)
キーワード: 《コミュニティソーシャルワーク》 《スキル》 《圏域》

1.研 究 目 的

今日、介護保険制度をはじめ様々な公的サービスが整備される中、制度の狭間にある課題は依然として存在し、それらに対応するべくフォーマルなケアやインフォーマルなサポートを結びつけながら、ソーシャルサポートネットワークを形成して地域生活を支えていくことが求められている。そしてまた地域生活の支援にあたっては、個人の身体的精神的側面だけでなく暮らしている環境にも目を向けて双方へのアプローチを統合的に展開することも求められている。これらは新たな地域福祉実践の枠組みとして近年示されているコミュニティソーシャルワークにおいて重要な視点となっているものの未だ具体的な方法の体系的整理には至っていない。
 そのため本研究ではコミュニティソーシャルワーク実践に関するスキルの現状を把握し今後の専門職養成やシステム構築に資することを目的として全国500 自治体の福祉専門職を対象にした調査を実施した。

2.研究の視点および方法

全国調査の実施にあたって、調査票はNPO法人日本地域福祉研究所による「コミュニティソーシャルワーク実践者養成研修」修了者を対象にした調査結果等を基に独自に設計した。その際、コミュニティソーシャルワーク実践には専門職の属人的要因の他に、担当地域の人口規模など環境的要因も影響があるかどうかを検証することも意図した。なお、本調査ではコミュニティソーシャルワークという言葉は使用せず、地域生活支援に置き換えた。これは回答者によってコミュニティソーシャルワークの理解度が異なることが想定されるためである。分析はSPSS Statistics 17.0を使用した。調査の概要は以下の通りである。
 ■調査対象地域
 全国の市区町村から人口規模による層化無作為抽出によって選定した500 自治体
 ■調査対象機関及び対象者
 ・地域包括支援センター社会福祉士1 名、主任介護支援専門員1 名
 ・子育て支援センター個別相談支援に関わっている者2 名
 ・指定相談支援事業所個別相談支援に関わっている者2 名
 ・社会福祉協議会地域福祉関係部署で個別相談支援に関わっている者2 名
 ※回答者の代表性を担保するため、各機関で該当者複数の場合は経験年数が長い順という条件を付した。
 ■調査方法
 アンケートを自記式郵送調査法にて実施した。配布方法は、地域包括支援センター、子育て支援センター、指定相談支援事業所については行政地域福祉課に一括送付し配布を依 頼した。その際、該当機関が複数の場合には機関名称が五十音順で早い順という条件を付した。社会福祉協議会については直接郵送した。返送は各機関より直接郵送して頂いた。
 ■調査期間 平成20 年7 月~ 8 月
 ■回収率  有効回答33.9%(1355 名/4000 名)
 ※調査項目の基本属性で、性別、年齢、総勤務年数、勤務機関が無回答のものは無効とした。
 ■調査項目
  Ⅰ.基本属性    Ⅱ.地域生活支援に関するスキル(技法)の実態
  Ⅲ.他機関との連携 Ⅳ.地域生活支援の業務に支障をきたす要因

3.倫理的配慮

調査票は無記名回答とし、かつ調査項目で個人が特定される内容は除外した。

4.研 究 結 果

(1)コミュニティソーシャルワーク・スキルの実態
 スキルの実態を把握するため、コミュニティソーシャルワークに関するスキルとして抽出した30項目に対して自分自身がどの程度実践できているかを4件法(1.できていない 2.あまりできていない 3.ややできている 4.かなりできている)で質問し、得点化して実践度を算出した(自己実践度)。これを主因子法Varimax回転による因子分析を行った結果、十分な因子負荷量を示さなかった2項目及び複数因子に0.35以上の因子負荷量を示した2項目を分析から除外し、再度主因子法Varimax回転による因子分析を行った結果、6因子が抽出された。第Ⅰ因子は「個別アセスメント」、第Ⅱ因子は「地域住民との連携」、第Ⅲ因子は「地域アセスメント」、第Ⅳ因子は「サービス開発」、第Ⅴ因子は「人材養成」、第Ⅵ因子は「専門職間連携」と命名した。回転前の6因子で26項目の全分散を説明する割合は60.35%であった。
 この自己実践尺度の6つの下位尺度に相当する項目の平均値を算出、それぞれ下位尺度得点は「個別アセスメント」(平均2.68、SD 0.54、α=.87)、「地域住民との連携」(平均2.31、SD 0.66、α=.77)、「地域アセスメント」(平均1.89、SD 0.54、α=.76)、「サービス開発」(平均2.29、SD 0.71、α=.80)、「人材養成」(平均2.30、SD 0.67、α=.67)、「専門職間連携」(平均2.67、SD 0.63 α=.68)であった。
 さらに勤務機関による自己実践度の差の検討を行うため、勤務機関別に地域生活支援スキル自己実践尺度の各下位尺度平均値及びSDを算出した(Table 1)。この結果から、全ての機関で「地域アセスメント」と「人材養成」に関する実践の弱さが感じられており、特に「地域アセスメント」については全ての機関で平均値2.0未満となっており、実践の弱さが大きく感じられていた。一方で「個別アセスメント」は全ての機関において他の下位尺度に比べて実践の強さが感じられていた。また、「地域住民との連携」では社会福祉協議会のみ、「サービス開発」では子育て支援センターのみに実践の強さが感じられていた。逆に「専門職間連携」では4機関の中で唯一社会福祉協議会に実践の弱さが感じられていた。

 Table 1 地域生活支援スキル自己実践下位尺度の勤務機関別平均値およびSD

 (2)担当圏域規模とコミュニティソーシャルワーク実践の相関性
 次に専門職が担当する地域の人口規模はどの程度が適正があるのかを分析するため、担当している地域の人口規模と地域生活支援業務に支障をきたす要因のクロス集計を行った。その結果、「家族以外のインフォーマルな人々との連携・協力体制ができていない」「担当する地域が広すぎて地域の状況が分からない」についてが、担当地区人口2万人を境に人口の多い群が支障要因として強く捉えていた。一方、担当地区人口規模が少ないほど強く支障要因として捉えられていたものは、「担当ケースの社会的支援ネットワークをどう作ればよいか分からない」「社会的支援ネットワークを形成する十分な時間がない」であり、担当地区人口4万人を境にしていた。
 こうしたことから、地域住民との連携や地域アセスメントを充実させていくためには、人口2万人程度の地域に専門職を配置していくことが有効であると言えるが、一方ではそれぞれの専門職のスキルの狭まりや孤立を招くこともあるため、地区担当者に対するスーパービジョン体制や他機関との連携体制を整えておくことが必要であると言える。
 ※本研究は平成19~20年度科学研究費補助金基盤研究(B)課題番号19330133による研究成果の一部である。
 ※回答者の基本属性や分析結果の詳細なデータは当日資料として配付します。

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