自由研究発表地域福祉3  大夛賀 政昭

自治体における地域支援事業の取り組み状況の経年的変化

○ 立教大学大学院   大夛賀 政昭(会員番号6668)
国立保健医療科学院  筒井 孝子(会員番号1486)
静岡県立大学  東野 定律(会員番号4467)
立教大学  高橋 紘士(会員番号0434)
キーワード: 《地域支援事業》 《介護予防事業》 《地域包括支援センター》

1.研 究 目 的

平成18年度の介護保険制度改正においては、介護予防を推進する視点が打ち出され、高齢者が地域において自立した生活を継続できるよう区市町村が介護予防事業、包括的支援事業といった地域支援事業を実施することとなった。しかしながら、地域の実情や区市町村の政策方針の違いによって、その取り組みは、多様な形態で行われ、多くの課題も抱えている。本来、地域包括支援センターは、地域支援事業の中核として日常生活圏域単位に設置され、地域ケアのトータルマネジメントについての役割を担うこととなっているが、充実した活動を展開できている地域包括支援センターも少なからずみられる一方で、多くの地域包括支援センターでは介護予防の業務に忙殺され、本来、想定されていた機能を十分発揮できていないという批判もある。
  そこで本研究においては、自治体における地域支援事業の取り組み状況を把握し、制度が始まった平成年度当初との経年的変化を比較し、事業の実施状況と課題を明らかにすることを目的とした。

2.研究の視点および方法

平成20年3月に全国自治体を対象に(1,804市区町村)、オンラインシステムを用いてアンケートを配布回収した。調査項目は、自治体の介護保険制度に関する基本データ(要介護認定率、特定高齢者の割合、介護保険料の基準額)、介護予防事業の取り組み状況、包括支援事業の取り組み状況(地域包括支援センター設置数、運営費、人員配置)等を収集した。また、経年的変化については、平成18年3月に同様の内容について全国自治体を対象に行った調査結果のデータベースを用い、比較を行った。

3.倫理的配慮

研究に関しての調査の実施については、国立保健医療科学院に設置される倫理審査委員会の認証を得た(NIPH-TRN#09001)。

4.研 究 結 果

1)調査対象となった自治体の属性
  今回のアンケートの回収率は57.0%で、1,028自治体より回答が得られた。これら自治体の内訳を県別にみると、全国における自治体の内訳とほぼ同様の傾向であり、分析対象自治体における県別の偏りは見られなかった。また、分析対象となった自治体の高齢者人口に占める要介護認定者数の割合、特定高齢者対策対象者数は、平成20・21年度いずれも、国が示した標準的な割合と同水準であった。
2)介護予防事業の実施状況
  平成20年度の介護予防事業の実施内容をみると、「運動系(筋力トレーニング)」が最も多く(93.2%)、次いで「口腔ケア」(79.3%)、「栄養改善」(65.0%)であった。この結果は、平成18年度調査結果と比較すると、「運動系」、「口腔ケア」、「栄養改善」については、半数以上の市町村で予定通りの整備が進んでいることがわかった。
3)地域包括支援センターの設置数及び人員配置
  地域包括支援センターの自治体における平均設置数は、平成21年度では、直営1.7箇所、委託4.7箇所であったが、平成18年度時点では、直営0.7箇所、委託1.6箇所となっており、その数は、直営は2.3倍、委託2.8倍になり、委託が多くなっていた。
  また、本調査結果におけるセンターあたりの人員配置は、平成18年度調査と比較すると、ほとんどの職種について予定数以上配置となっていた。さらに、職種別にみると、社会福祉士や主任介護支援専門員の配置(常勤)については、それぞれ1センターあたり平均1.31人、1.24人と、配置基準をわずかに上回る程度であったが、保健師は平均1.64人と他職種より若干多く配置されていた。
4)地位包括支援センターの実施事業の内容及び実施・運営上の課題
  平成20年度の地域包括支援センターの基本とされる機能の実施事業内容をみると、「総合相談」(98.2%)、「介護予防ケアマネジメント」(96.0%)「包括的・継続的ケアマネジメント支援」(90.6%)、「高齢者の権利擁護」(87.7%)については、ほとんどのセンターで取り組まれているが、「共通的支援基盤の構築」の実施率は60.8%と、他の事業と比べて低くなっていた。また、実施・運営の課題としては、「業務量が多い」が最も多く(71.2%)、次いで「特定高齢者の把握」(43.9%)、「住民への周知不足」(43.7%)であった。
5)結果のまとめおよび考察
  本調査結果による地域包括支援センター設置数および人員配置は、制度開始時と比較すると充実されてきた状況が示されていた。介護予防事業の実施状況は、「運動系」、「口腔ケア」、「栄養改善」については整備が進んでいた。また、包括的支援事業を行う地域包括支援センターにおいては、「共通的支援基盤の構築」の実施率が低かった。運営上の課題としては、「業務量の多さ」や「住民への周知不足」等があげられ、これらに資するような取り組みを考案していくことが重要であることが示唆された。
  ※本研究は、平成20年老人保健健康増進等事業(未来志向研究プロジェクト)「地域包括支援センターの評価に関する研究(主任研究者:高橋紘士)」の研究成果の一部である。

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