成年後見制度活用の実態にみる利用促進のための要素
-栃木県における調査から-
○ 東北文化学園大学 齊藤 隆之 (会員番号5657)
国際医療福祉大学 若倉 健 (会員番号4799)
清瀬市子どもの発達支援交流センター 山﨑 順子 (会員番号1921)
キーワード: 《成年後見制度》
成年後見制度は平成12年度より、判断能力が必ずしも十分ではない方の意思や自己決定の尊重等に際し、個別状況に応じることが可能な、柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度として施行された。それは、当事者の権利と財産を守りつつ支援する制度であると同時に、適切な社会システムにつなげる支援として活用すべき制度である。今後、認知性高齢者の数は、2015年には250万人にまで増大するという予測が成されていると同時に、障害者自立支援法の下、平成23年度までに、1.9万人の障害者が地域生活へ移行し、3.7万人に上る精神障害者が病院から地域へと移行するものと見込まれている。そのため、制度へのニーズは増加すると共に、成年後見制度の果たすべき役割は益々大きくなると考えられる。
本研究では、栃木県内の制度活用の実態を明らかにし、それを必要とする人が制度を適切かつ的確に活用できるよう、成年後見制度の利用促進に向けて何が必要か、検討することを目的とする。
<視点>
本研究では、福祉的側面から成年後見制度についてどのように捉えていくべきか。という視点に立ち、その利用上の問題点と課題、利用促進に必要な要素を明らかにする。具体的には、以下の方法による調査を実施した。その結果については「基本属性」「成年後見制度の利用状況」「成年後見制度の研修」「成年後見制度の利用促進」の4つの視点での集計及び考察を行った。
<調査方法>
調査方法:郵送によるアンケート調査
調査項目
(大項目):(1)回答者の基本属性 (2)成年後見制度に対する理解度(3)今後の制度活用促進に向けた要望
調査対象:以下の施設・機関で相談支援業務に携わっている方(1019箇所)
①地域包括支援センター ②障害者相談支援センター
③特別養護老人ホーム
④老人保健施設 ⑤知的障害者更生施設 ⑥知的障害者授産施設(通所)(入所)
⑦社会福祉協議会(あすてらす*)⑧社会福祉協議会(あすてらす以外)
⑨介護保健事業・居宅介護事業者 ⑩地域活動支援センターⅠ型
⑪地域活動支援センターⅡ型 ⑫障害福祉サービス事業所(就労移行支援A)
⑬障害福祉サービス事業所(就労移行支援B)
*栃木県では、「日常生活自立支援事業」を「あすてらす」という名称で実施している。
回収率:有効回答数は、638箇所、回収率は62.6%である。
考察の結果「利用上の問題と課題」「利用を促進するには何が必要か」「利用促進に向けて」 の3つの段階に課題が集約された。「利用上の問題と課題」では①相談援助者②制度③利用者④申し立て 「利用を促進するには何が必要か」では①専門職の養成や地域住民への啓発②後見人の養成③制度の改正④支援システムの整備 「利用促進に向けて」では①成年後見制度の利用に関する事例検討による支援上の課題の明確化②成年後見制度利用システムの整備(人・モノ)とそれぞれについて、複数の課題が内在することが明らかとなった。これらを基にし、成年後見制度の利用促進に向けた要素が導き出された。
<必要とする要素>
調査の結果、成年後見制度自体の制度的課題は内在するものの、それ以前に専門職者が制度を熟知しておらず、それを踏まえた制度利用促進への要素が明らかとなった。例えば、「相談支援に関わる者への情報提供や普及の啓発」「制度活用の判断への助言」「地域連絡会議の開催」「後見人へのサポート」等である。これらの要素を満たすため、以下のような方法が必要と考えられる。
(1)福祉後見制度(保健福祉)圏域支援センターの設置
成年後見制度の円滑かつ的確な活用のため、関係専門職者及び機関をバックアップすることを目的としたサポート機関として、県(もしくは、県社会福祉協議会へ委託)の基幹となる機関に事務局を置く「福祉後見制度県域支援センター」を設置する。事務局は、福祉の専門家や法律の専門家等の事業アドバイザーと連携し、業務に当たる。
(2)成年後見制度アドバイザーの配置
保健福祉圏域ごとに、「成年後見制度アドバイザー」を配置する。所属は福祉後見制度圏域支援センターとし、成年後見制度に関わる一時窓口として、業務に当たる。
(3)市(日常生活県域)レベルでの社会福祉協議会等の地域ネットワークの活用
高齢者、障害者等、各分野における既存の相談支援機関である地域包括支援センター、障害者相談支援センター、市町村社会福祉協議会等を基幹とし、民生委員や地域住民も含めた成年後見制度を包含した地域ネットを構築する。一方で、地域で生活するためには近隣での支え合いが必要なことは明白であり、地区社会福祉協議会で行われている小地域活動との連携は不可欠である。
<今後の課題>
成年後見制度の利用促進には、制度の利用が適当な事例の発見が不可欠である。そのためには、住民相互による見守りや支え合いを意図した、地域住民の参加による、地域で支えあう仕組みを構築することが必要である。