自由研究発表地域福祉2  都築 光一

地方における地域福祉課題の動向について
=平成17年・20年の民生委員調査結果から=

○ 岩手県立大学  都築 光一 (会員番号0119)
岩手県立大学大学院  吉田 渡 (会員番号7087)
北星学園大学  杉岡 直人 (会員番号0034)
キーワード: 《民生委員》 《圏域》 《地域福祉課題》

1.研 究 目 的

大型の市町村合併が相次ぎ、東北においても平成の大合併によって市町村数が166減少し、2008年度末で231市町村となっている。しかしこの間、人口動態としては、社会減少率の高い都道府県の上位10都道府県の中に、宮城県を除く東北5県が含まれており(『平成20年住民基本台帳人口要覧』国土地理協会、平成20年8月)我が国における社会減少率の高い地域を代表しているようにも見ることができる。
 この結果、圏域の広い地方公共団体が誕生し、行政の窓口が地域住民から遠くなったとも言えよう。また社会福祉の領域では、行政と住民の間に立ってそのパイプ役を期待される民生委員は、世帯数が基準とされていることもあり、市町村合併が進んだことによって定数が減少し、業務の負担が結果として増えている現状にあるといえる。
 民生委員は、地域住民と生活をともにしつつ、日常的にその生活上の相談を受ける立場にあり、専門職以上に多くの生活上の課題を観察し把握している存在であると見ることができる。そのため、市町村合併前後の地域住民の生活上の課題の変化や地域福祉推進上の課題の変化について、日常的な民生委員活動を通じて把握しているのではないかと考えた。そこでその変化した地域福祉課題から、県別に今後の地域福祉推進の方向性を導き出すことを研究の目的とし、以下の調査目的を設定した。
 1)県別の変化の状況を明らかにする。 2)達成可能な地域福祉推進のための課題と、活動の方向性を明確にする。 3)民生委員の担当地域、市町村圏域、広域圏域別の、今後の福祉のまちづくりの課題と解決の方向性を示す。

2.研究の視点および方法

地域福祉の課題について、県別、広域圏域別、市町村別のマクロな把握の方法と、民生委員の担当地域という比較的ミクロな圏域に関して、民生委員であるからこそ圏域別に地域福祉の課題を明確に回答が可能であると思われる。またこれに替わる調査対象者は他に求めることは不可能と思われる。さらに、平成の大合併前後における地域福祉の課題の変化についても、市町村や県の枠を超えて、広く同質のサンプルを得ることのできる調査対象者群といえる。
 こうした民生委員を調査対象とし、平成の大合併の前後にわたって調査を実施し、その得られたパネルデータの比較によって、研究目的を果たそうとするものである。
 1) 対象者: 調査対象者は、第一回目が平成16年12月1日において委嘱された民生委員(18,189人)第二回目は平成19年12月1日付けにおいて委嘱された民生委員(20,145人)とする。
 2) 対象区域: 調査対象区域は、第一回目が青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県の全域で、第二回目が青森県、岩手県、宮城県および仙台市、秋田県、山形県、北海道札幌市とする。
 3) 調査時期: 調査時期は、第一回目が平成17年7月~9月とし、第二回目が平成20年6月~11月とする。
 4) 調査方法: 調査方法は、質問紙による配票留め置き法とする。
 5)調査票の配布・回収:調査票の配布および回収は、各県の民生委員協議会を通じて行う。
 6)調査事項:調査の項目は、以下のとおりである。
 

3.倫理的配慮

調査を実施するにあたって、日本社会福祉学会研究倫理指針に則り、各協力団体に事前に十分な説明を行い、調査実施にあたって協力者の匿名性が保たれること、調査研究目的に使用すること、調査結果を報告することなどを誓約し、協力機関と文書を取り交わして実施したものである。

4.研 究 結 果

調査結果は、第一回目が18189人中16076人の回答で、回収率は88.4%、第二回目は20145人中17317人で回収率は86%であった。このうち二回ともに協力を得たのは、青森県、岩手県、秋田県、山形県の4県であった。ここでは4県分の比較分析結果として、主として以下の7点を報告する。
 まず、回答のあった民生委員の構成としては、新人の民生委員の占める比率が高くなってきており、特に山形県はこの二回で全民生委員の約60%が2期以内の民生委員である。
 第二に、全体として地域内での交流の機会を求める声が大きく、このため世代間交流やボランティア活動の充実を求める声が高まっている。
 第三に民生委員活動の課題として、重い負担感を感じているのは、家族親族の人間関係の相談で、その比重が高まっていることがあげられる。これは直接対応する専門職に、すぐに結びつかないからである(注1)。
 第四に高齢期に入ってから必要な生活資源として、移動巡回販売車の需要が高まっている。これは、買い物に出かけることが、様々な理由で困難な状況にある高齢者が増加しているためであることや、公共交通機関が失われているためである(注2)。
 第五に民生委員の担当区域では、地域のまとめ役、見守りを兼ねた対話訪問、冬の生活の支援などの必要性が高まっている。これらは、民生委員に相談があったあとの対応が、速やかに地域の力で解決できる必要性があるからである(注3)。
 第六に市町村域では地域活動の専門家の養成が大きな課題となっているほか、福祉資源として福祉施設やデイサービスの必要性が急速に高まっている。
 第七に広域圏での課題としては、福祉サービススタッフの専門性の向上であった。
 全体として三年前に比べて、負担の重い相談の家族親族の人間関係や医療費生活費の相談、一人暮らし高齢者の支援などは、顕著になってきている。さらに深刻なのは、入所施設の必要性の意見が高くなっている点である。そのためにも、対話型の見守り活動の充実や地域福祉活動の専門家の養成が求められてきていると考えられる。
 脚注
 注1:M県T市における民生委員協議会の役員との懇談会やM県O市、I県M市およびO市などの民生委員の役員からも同様な意見が寄せられた。
 注2:M県O市の地域福祉活動計画策定のための福祉関係団体意見書において、調査結果に対して多くの団体から寄せられた意見であった。
 注3:I県Q市やY県M市などの民生委員協議会の会長から寄せられた意見である。

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