自由研究発表地域福祉2  丹羽 啓子

離島地域における高齢者の地域生活支援の課題
-高齢者をとりまくサポートネットワークの把握をもとに-

○ 日本福祉大学  丹羽 啓子(会員番号2552)
日本福祉大学  木戸 利秋 (会員番号0743)
キーワード: 《離島地域》 《高齢者への地域生活支援》 《サポートネットワーク》

1.研 究 目 的

日本では他の海外諸国に類をみない速さで高齢化が進んでいるが,中でも離島地域では高齢化が著しく進んでいる.そのため、離島地域で高齢者が住み続けていくためにどのような生活支援の仕組みをつくっていくかは重要課題の一つとなっている.また,こうした地域においては,基幹産業の不在,人口の流出,行財政基盤の低下などの問題も抱えており,地域再生や地域の活性化も地域の課題として存在している.本研究の対象地域である佐渡市もそうした問題を抱える地域の一つであり,2005(平成17)年の高齢化率は34.9%,人口は67,386人であり,人口のピークであった1950(昭和25)年時の53.6%程度まで減少している.
  このように,複合的な問題が地域の中に存在している離島地域であるが,そこで居住する人々は,様々な関係性の中で生活を営んでいる.例えば,同居家族以外の親族や隣近所とのつながり,商店街や病院・施設,地域行事などを通じて様々な関係を築いており,そうした多様な関係性を築いていけるという点は,離島地域がもつ地域の「強み」でもあるといえる.
  こうした離島地域における高齢者のネットワークに関連する研究として,田畑・小窪・ 高橋(2000),長濱・水谷(2001),水谷(2003),越田(2005)などがある.これらのうち, 越田は,鹿児島県瀬戸内町の高齢者の生活実態に関する調査研究をふまえ,離島高齢者の 生活像として,以下のような点を指摘している(越田(2005),27p).
①経済的には豊かとはいえないが,働くことをはじめ可能な限り人に頼らず生活したいといった高い自立心があり,「生活ネットワーク」として別居する家族,地域・近隣,地域(集落)内社会資源等があげられる.
②緊急時や困りごとが発生したときは,家族のネットワークをサポート・ネットワークとして活用するが,多くは地域や近隣のネットワークの相互扶助関係の中で生活を維持継続しており,近隣らのネットワークに精神的満足がある.
  以上のような先行研究の結果をふまえ,本研究では,離島地域における高齢者のサポートネットワークの実際について明らかにし,高齢者がもっている地域の中での様々な関係性に着目した地域生活支援を展開していくうえでの課題について整理する.

2.研究の視点および方法

本研究は,「相川くらしと福祉のネットワーク」(2008年2月から佐渡市の旧相川町地域で地域活動を行ってきた住民組織であり,同年12月に正式に結成された.以下,相川ネットとする)が行った当該地域に居住する高齢者への聴き取り調査(2008年9月6日・7日と,2009年2月21日・22日に実施)の結果を中心として,離島地域に住む高齢者がどのようなサポートネットワークを形成しているかを明らかにする.調査対象地域は,旧相川町内の2地区(A地区(調査対象者16人),C地区(調査対象者22人))である.なお,調査の詳細については,発表時に資料を提示する.

3.倫理的配慮

聴き取り調査の実施に関しては,調査対象者の匿名性を守るよう,相川ネット事務局と協議しながら調査項目の作成などを行った.

4.研 究 結 果

旧相川町地域で行った高齢者生活実態調査では,当該地域における高齢者のサポートネットワークの特徴として,以下の点が明らかになった.
① 親族とのつながり A地区・C地区とも,近隣に住む兄弟姉妹や市内在住の親族とも定期的に交流の機会をもっている.市外の親族との交流頻度については,年に数回程度という回答が多い.
② 隣近所とのつながり A地区では比較的隣近所との付き合いが密であるが,C地区では隣近所との付き合いが 希薄になってきていると感じている回答がA地区よりも多くなっている.
③ 社会サービスとのつながり A地区・C地区とも,社会サービスの利用については介護予防教室への参加などに限られており,将来的にもサービスを利用するという選択ではなく,「近隣と助け合っていきたい」「市外の親族と暮らす」という回答がみられた.
  調査を通じて明らかになった地域生活に関する高齢者の想いは,先に述べた越田の指摘 にもあったように(越田;前掲書),インフォーマルなサポートネットワークへの期待のほ うが大きいといえる.その一方で,人口流出などによる近隣関係の変化により,近隣住民 による日常的な相互扶助の仕組みを継続させていくことの難しさも住民自身が感じている.
  こうした地域特性をもつ地域においては,近隣を中心としたインフォーマルなサポートネットワークの充実・強化とあわせて,そうしたサポートネットワークに対して行政や福祉サービス事業者などが支援していくことが求められる.そのためにも,行政や福祉サービス事業者,その他地域に係る様々な機関により構成されるフォーマルなサポートネットワークづくりが必要となる.同一の地域の中で各種の住民サービスを展開している組織同士が連携し,互いの情報を交換し共有しあっていくことを通じて,新たな地域生活支援の仕組みが形成されていくと考える.

  なお,本研究は平成20年度~平成22年度科学研究費補助金助成による「社会的排除のリスク予防の政策プログラム研究」(番号:20243031,代表:木戸利秋)の成果の一部である.

〔参考文献〕
・越田明子(2005)「「離島の離島」高齢者の生活ネットワークに関する一考察―鹿児島県瀬戸内町を事例として」『鹿児島国際大学福祉社会学部論集』,21-34
・水谷史男(2003)「過疎地域の高齢者問題の分析視角―離島と山間村落の狭間で」『研究所年報』33,明治学院大学社会学部付属研究所,53-68
・長濱一夫・水谷史男(2001)「離島社会と高齢者生活の現状」『同朋大学論叢』84,23-43
・笹谷春美(2003)「日本の高齢者のソーシャル・ネットワークとサポート・ネットワーク-文献的考察」『北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)』54(1),61-76
・田畑洋一・小窪輝吉・高橋信行(2000)「離島における高齢者の生活と意識―瀬戸内町の高齢者実態調査から」『地域総合研究』28(1),鹿児島国際大学地域総合研究所,65-97

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