地方都市独居高齢者の地域住民とのサポート授受過程<
-A市B地区独居高齢者聞き取り調査から-
○ 札幌市厚別区介護予防センターもみじ台
社会福祉士・介護支援専門員 林 孝之 (会員番号7576)
キーワード:《独居高齢者》 《ソーシャルサポートの提供》 《ソーシャルサポートの受領》
1.研 究 目 的
○都市部独居高齢者は身近な地域住民によるソーシャルサポートの受領が期待される.しかし独居高齢者がそれらの受領を拒否する事例も多い.高齢者のソーシャルサポートの受領は,性別,年齢,心身・家族状況,地域性等の他,近年,高齢者自身のサポート提供との関連も指摘されている.
○本研究は先行研究にあまり見られない,独居高齢者がソーシャルサポートの提供に至る過程,提供から受領に至る過程について明らかにする.本研究の知見は,独居高齢者の近隣支援拡充や,地域における支え合い(共助)推進に貢献するものと思われる.
2.研究の視点および方法
○ソーシャルサポートを「社会関係から得られる援助」と定義.ソーシャルサポート授受の相手は近隣住民に焦点をあてた.その構成は提供と受領の2方向,種類は当事者にとって肯定的な「情緒的サポート(相談相手や声かけなど情緒に働きかける支援)」,「手段的サポート(具体的支援や物品,情報提供)」とし,授受に至った過程に注目した.
○対象は地方都市A市における昭和40年代に開発されたニュータウンB地区において,同じ町内に居住し,筆者の運営する地域介護予防教室に通う,要介護認定を受けていない独居高齢者.介護保険サービスを受けていない非認定者の近隣支援構築が急務であること,同じ生活圏域の対象を得ること,筆者が容易に接触できることが事例選定理由である.
○調査及び分析方法は、上記対象より選定した2名に対し半構造化面接による聞き取り調査を実施.調査期間は2009年6月8日~15日.面接時間は2名とも約1時間.質問内容は年齢,性別等の属性,「周りの人にしている手助け・気づかい」,「周りの人から受けている手助け・気づかい」について,それぞれに至る過程とその相手について回答を求めた.そして面接内容を録音し対象者の発言を逐語化,本研究の視点に沿って分類し表1にまとめた.
3.倫理的配慮
調査を始める前に対象者に対し質問の内容,および個人情報を匿名化した上で学会報告や地域実践構築資料への使用,面接内容を録音すること,データは研究者のみが管理すること,分析終了後音声,逐語録は破棄することについて書面にて説明し同意を得たうえで実施した.また,本研究で示す事例は結果に影響がない範囲で一部改変し,個人の特定を防いだ.
4.研 究 結 果
本調査は2009年8月迄の期間で10名の面接を予定している.本抄録においては6月15日時点での中間まとめを掲載し,すべての面接調査結果は学会発表時に示す.また、本調査結果は特定地域における限定的なデータをもとにした知見であることも付け加えておく。
○両者とも「配偶者や親族の死去による社会関係の縮小」→「近隣住民以外からの肯定的なサポートの受領」→「近隣住民へのサポート提供」という過程で近隣住民へのソーシャルサポートの提供に至った.そして,「近隣住民以外からの肯定的なサポートの受領」の機会として,A氏はボランティア活動による受領,B氏は介護予防教室への参加と違いが見られるが,社会参加による新たな社会関係の形成という点では共通していた.
○一方,近隣住民へのソーシャルサポート提供から近隣住民からの受領については「近隣住民へのサポートの提供」→「概ね相対的に近隣住民から情緒的なサポートを受領」という過程が見られ,近隣へのサポート提供がすべてサポートの受領に結びつくとはいえないこと,結びつかなくてもサポートの提供者は満足を感じていることが明らかになった.
表1 A市B地区独居高齢者面接調査結果(中間まとめ)
情)…情緒的サポート,手)…手段的サポート