日本の労働市場に見た働く女性と企業業績との関係
-ダイバーシティ・マネジメントを基軸にして-
○ (株)日本福祉経営・群馬社会福祉大学大学院 最上 寛史(会員番号7571)
群馬社会福祉大学大学院 西川 克己(会員番号1802)
キーワード: 《ダイバーシティ》 《マネジメント、ジェンダー》 《WLB》
2000年代に入り、ダイバーシティ、女性活躍、WLBは、よく使われる言葉である。従来の日本で当たり前であった、
男性中心の職場、画一的な働き方を見直し、多様な人材が活躍できる環境を作ろうという意識が、かつてなく高まっている。
しかし、多くの企業で女性活躍に関する取り組みは、順調と言えるだろうか。取り組む理由がわからない、これからの取り組み方や
現場の協力を得る方法がわからない、効果的な成果が見られないなどの声が聞かれる。
そうした声が聞かれる中、本研究での
二つの問題意識が生まれた。一つ目は、「ダイバーシティに取り組む」こと自体が目的化していることである。多くの企業では、
「なぜ、何のためにダイバーシティに取り組むのか」が十分に明確化されないまま、取り組みが始まっている。二つ目は、多くの企業で
活動が組織を変えるにはほど遠く、「行き詰まり」の傾向を見せている。女性の活躍を妨げる原因の解消をねらい、女性のライフイベントに
関する諸制度の整備や管理職に対するワークショップの開催、社内広告用の冊子やポスターの作成など、さまざまな施策が行われている。
そして、活動自体の認識も高まってきているにもかかわらず、現場の管理職や女性の行動が変わるスピードは遅く、効果が薄い。
このままでは、ダイバーシティ推進活動が数年で忘れられる活動になってしまう恐れがある。しかし、日本の労働市場が直面する
少子高齢化などの環境変化を考えれば、ダイバーシティ推進活動は不可避の取り組みだと考えられる。
本研究では、男女の積極的な
均等化に取り組んでいる企業に着目し、均等度が高いのはどのような企業か、企業において均等度が高いと業績はいいかを研究する。
また、差別している企業と均等化を進めている企業の業績から、差別の合理性、非合理性を明らかにする。
日本の女性労働問題は、戦前において身分的差別からの開放と劣悪な労働条件からの保護が主要な課題であった。戦後においても、
当面の間は、「弱者」としての保護と封建的な労務管理からの救済に関心が払われていた。1970年代以後、女性の職場進出、職場環境の
変化、生活水準の向上、家事労働の軽減、女性の教育水準の向上が認識し始められ、国際的な動向とあいまって、ようやく日本でも
男女雇用平等の議論がスタートされた。
アメリカの植民地時代の女性の多くは、家庭内での生産活動に従事していた。その大多数を
占める農村の女性たちは、家事以外に農作業を行っていた。また、北部の女性たちにとっては、糸を紡ぎ、機を織ることが重要な仕事であった。
家族の健康を司る保健婦的役割も女性が担っていた。一方、法的には女性は何ら権利を持てず、既婚女性は法的に夫と一体化し、
死者同然となるとされており、彼女たちには財産権、子供の養育権はおろか、物品を売買し、契約書にサインする権利も与えていなかった。
結婚前には自分のものであったものまでもが夫の財産となり、女の側から離婚を申し立てることなどできなかった。
また、アメリカでは、
ダイバーシティの研究の発展は三つの段階が考えられる。第一段階は、1960年代の公民権運動・女性運動、第二段階は、多様性を
否定してきた組織が、多様性を受け入れる段階、多様性に対応することがコストだと考えられた時期。第三段階は、多様性を消極的に考えるのではなく、
組織が多様性を受け入れることがプラスだと考えられるようになった時期である。
本研究では、2006年6月28日から7月21日の間に、
労働政策研究・研修機構によって実施された「仕事と家庭の両立支援に関わる調査」をデータベースに使用し、男女均等処遇が企業業績に及ぼす影響について、明らかにする。
本研究は、「日本社会福祉学会研究倫理指針」・第2・指針内容・A[引用]条項に基づいて行った。 www.jil.go.jp/institute/research/2007/documents/037.pdf上の労働政策研究・研修機構「仕事と家庭の両立支援に関わる調査」のデータを使用した。
4.研 究 結 果均等度と企業業績の関係は、企業業績をどの変数でみるかで結果が大きく異なる。均等度は経常利益に関連する企業業績を上昇させるが、
売上高を低下させる傾向がある。これは、女性の活躍と企業の経営目的が相関している可能性を示唆している。つまり、経常利益を重視する
企業では女性が活躍し、売り上げやその成長を重視する企業では女性の活躍が見られないという可能性である。
日本では、家事・育児労働の
ほとんどを女性が担ってきた。男女を平等に扱うだけでは女性は活躍できない。日本の企業は、人的資源管理を家事・育児から解放された
男性労働者を中心として行ってきた。女性の場合、家事・育児にも責任を持っているため、男性とは違った人的資源管理方法を取らなければ、
女性が活躍できる職場環境は生まれない、WLB施策を低い費用で実施するノウハウを持っている企業では、女性の離職確率が低く、
利潤も大きいと考えられる。