自由研究発表女性・ジェンダー1  中澤 香織

貧困・低所得シングルマザーの性別役割意識

北海道大学大学院 中澤 香織(会員番号7144)
キーワード: 《貧困低所得》 《シングルマザー》 《ジェンダー》

1.研 究 目 的

社会福祉はこれまで家族の機能に依拠してきた。子育て、介護等は家族の責任で行うものとされ、その役割は女性に振り分けられてきた。 そうした性別による役割分業が、女性にとってさまざまな問題を発生させてきたことから、社会福祉をジェンダー視点から問いなおすという 問題提起がなされている。
  社会福祉と女性が関わる課題には、高齢者介護、ドメスティック・バイオレンス、ひとり親家庭の問題などがあげられるが、 ことにシングルマザーの抱える問題は、非正規就業・低賃金といった労働市場における女性の不利など、最もジェンダー問題が顕在化したものとなっている。
  ところが、そうした生活問題の解決を図る一つの手段である社会福祉は、個別に対応することにより社会の構造を維持させている側面を持ってきた。女性問題としては、 性別役割分業を前提とした社会構造において生じた女性の生活困難に対して、性別役割を前提とした制度で対応し、さらなる問題を生み出してきた。
   しかし、性別による不平等が、女性の抱える生活問題に結びついていることは明らかになっても、なおも固定的な性別役割を肯定的に捉える女性たちの存在がある。 実践の場において、より困難を抱えがちである相対的に低い階層の女性が、性別役割を支持する傾向にあることが報告されている。なぜ困難を抱えがちな女性が自らの生活に 不利を招くような性別役割を支持するのだろうか。その背景に生活はどのように関わっているのだろうか。本研究では、より困難な状況にある女性の生活から、具体的な 生活状況と性別役割意識の関わりを検討する。

2.研究の視点および方法

より困難にある女性たちが、性別役割意識を維持・強化していく、あるいははねのける過程を、ライフコース上の各ステージにおける彼女たちの選択を通して検証していく。 具体的には、進路、就業、結婚・出産、さらに離婚に関わる具体的な生活状況をたどり、ライフコース上の選択に関わる状況を見ていく。
  調査は母子生活支援施設を 利用しているシングルマザーを対象とし、Y県Z母子生活支援施設の利用者26名中承諾を得られた24名と、対照群として地域のシングルマザー3名にインタビューを行なった。

3.倫理的配慮

調査対象者への協力依頼の際に、調査の目的と情報の取り扱い、調査対象者の権利について口頭で説明を行なった。 本発表にあたっては、対象者が特定されないようプライバシーの保護に配慮した。

4.研 究 結 果

調査対象者は低学歴の傾向があり、就業は無職・パートが多く、年収はほとんどが200万円未満であった。健康状態では、本人か子どもが障害や慢性疾患を抱えている者が 半数近くいた。現在そのような困難な状況にあるシングルマザーであるが、生育家族もまた、生活保護を受給、父親が無職または不安定就業、ひとり親家族など、 困難を抱えていたと語る者が多かった。そうした不安定な家族状況は、その後のライフコースに影響を与えていた。進路選択、結婚・出産、離婚、それらと重なり合いながら 行われる就業選択など、彼女たちにはどのステージにおいてもさまざまな資源の不足という不利な状況があり、さらに一つの選択が次の不利へとつながっていた。
   義務教育修了時には、それまでの生育過程における不利から学業への関心が低いことと、親の経済力不足から高校進学が困難であった。低学歴は正規就業を困難にし、 先の見えない生活のなかで安定を求め結婚願望を持つことになる。そして結婚を急いだ例のなかには配偶者も同様に不利な生育歴を持っていたため結婚当初から生活問題を 抱えた者が多く、その上周囲から援助も得られなく結婚生活が破綻に向かっていった。
  調査においては代表的な性別役割意識を聞き取ったが、その意識は学歴・就業状況 などとの間に相関が見られた。現在は福祉施設の利用者という共通点を持ちながら、学歴・職業・収入や、親・親族からの支援の有無、近隣との関係などが比較的良好なものは 性別役割を否定する傾向にあり、それは対照群の意識と近かった。対象者の差異に注目していくと、より困難にある者の性別役割意識にはこれまでの生活による影響が見られた。
   彼女たちは人生の早い段階からさまざまな不利のなかに置かれ、各ステージにおいて直面している問題への対処が優先となり、将来を見通した行動は望めなかった。 自ら決定する機会を奪われ、選択肢さえも想像することができない状況で、固定的な性別役割に疑問を持つことができなかったのである。 家族やジェンダーのあり方が問い直され、女性のライフコースが多様化している現在において、貧困・低所得にある女性たちはさまざまな機会を剥奪されたことにより、 自らの可能性を信じることを阻まれ、積極的な未来像を描くことが困難となっていた。
  以上のような貧困・低所得にある女性の性別役割意識と困難な生活の関わりから、 ライフコースにおける選択の保障の必要性が示唆された。

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