環境政策と福祉政策の融合を求めて
~私の行政経験と社会的実践活動を踏まえて~
炭谷 茂(恩賜財団済生会理事長、学習院大学特別客員教授)
1 環境福祉学に辿り着くまで
環境福祉学は、私の行政の経験の中から必要性を感じ、研究を深めてきた。かっては環境と福祉は、密接な関係があった。社会福祉に従事する人
は、社会や人々の生活に困難を与える課題を除外することなく、すべて福祉ニーズと捉え、対処してきたからである。昭和30年代、40年代の社会福祉
のテキストは、公害、廃棄物、自然環境等の問題に相当のスペースを割いている。
私が、旧厚生省に就職した昭和44年ころはまさにそのような時代であった。水俣病等の四大公害に対処する厚生省職員の思考には福祉的感覚での
アプローチがあった。しかし、昭和48年に厚生省から環境行政が環境庁に移行するに伴い、厚生省の職員は、環境行政への関心を失い、環境省の職員
は、福祉行政には関心を示さず、今日に至っている。
平成13年1月環境省の発足とともに環境省に異動した私は、それまで担当していた福祉行政の視点から環境行政を考えることがしばしばあった。する
と環境行政と福祉行政は、大変関係が深く、両者を一緒に考えないと環境も福祉も向上しないことに気付き、平成16年に同じ考えを有する人たちととも
に環境福祉学会を結成し、今日に至っている。
2 環境と福祉の関係
環境と福祉は、相互に影響を与える。
第1に、環境は福祉に影響を与える。住宅環境は、そこに居住する者に大きな影響を与える。例えば高層住宅に居住する児童の心身の成長に影響を
及ぼす。また、森林療法、温泉療法などは、環境を福祉に活用する事例である。
第2に、福祉が環境を与える。欧米で近年盛んになったコミティガーデン運動は、その好例である。
第3に、双方向の影響もある。途上国の環境悪化と貧困の悪循環である。
3 環境と福祉を融合的に考える重要性
もっと重要なことは、両者を融合的に考えることである。例えばユニバーサル・エコデザインの発想である。環境福祉商品・サービスも重要な機能
を発揮する。また、リサイクル等環境の仕事は、障害者、高齢者、ニート等に働く場を創設する。
さらにこれからのまちづくりは、環境と福祉をともに発展させる手法でなければならない。コンパクトシティ構想は、この発想である。
20世紀の福祉国家は、環境への配慮に欠けていた。21世紀は、環境と福祉がともに向上する環境福祉国家を目指さなければならないと確信している。