特定課題セッションV :障害をもつ子どものケアと家族役割  米倉 裕希子

障害のある子どもの家族の感情表出研究から考える家族支援のあり方
 -児童デイサービス利用児とその家族のEE-

○ 関西福祉大学  米倉 裕希子 (会員番号5676)
みのクリニック  三野 善央 (会員番号7299)
キーワード: 《障害児》 《家族支援》 《感情表出》

1.研 究 目 的

従来の障害のある子どもの家族研究は、家族の障害受容に焦点をあてたものが中心だったが、「受容」の 定義が曖昧な上、主観で判断されるなど課題も多く残されていた。そこで、統合失調症患者の家族研究から 始められた感情表出(Expressed Emotion, 以下EE)研究に着目し、地域で生活する障害のある子どもとその 家族に応用し研究を行なってきた。
 統合失調症患者の家族のEE研究の主な知見は、高EE家族とともに生活する統合失調症患者の再発率は、低 EE家族と比較して高いというものであり、このような知見は、世界各国で追試研究が行われ多くの国で確認 されており、わが国でも同様の知見が得られている。EEの一般的な評価方法は、家族に約1時間半の半構造化 面接を行い、その面接内容をもとに一定の基準で家族を高EEもしくは低EEに評価する。評価基準には、「批判 的コメント」「敵意」「情緒的巻き込まれすぎ」「暖かみ」「肯定的言辞」などの5つの尺度があるが、現在 では5分間の面接や質問紙など簡便なEE評価についても信頼性と妥当性が確認されている。また、統合失調症 以外の精神疾患や慢性的な病気に応用され発展しており、障害のある子どもの家族へ応用した研究も増えて きている。
 これまでの障害のある子どもの家族のEE研究では、①障害のない子どもの親に比べて高い、②障害の種別 によってEEが違う可能性がある、③障害の重篤度によるEEの違いは明らかではないが、子どもの「問題行動」 の程度によるEEの違いの可能性はある、③EEが障害の予後を予測するかどうかはさらに追試研究が必要である 、といったことがわかっている。統合失調症患者の家族のEE研究では、その知見をもとに、家族への心理社会 的介入である家族心理教育が統合失調症の再発率を下げることがわかっており、同様に障害のある子どもの家 族への心理教育においては、家族のEEを下げる効果が明らかになっている。以上のような知見をもとに、児童 デイサービスを利用し地域で生活する障害のある子どもの家族を対象に行ってきたEE研究を振り返り、今後の 家族支援の在り方について考察する。

2.研究の視点および方法

(1)対象者は、A市にあるB、C、D児童デイサービス事業所(以下、児童デイ)を利用する学齢期の障害 のある子どもとその家族で、BとDは同法人が経営している。(2)EEの評価方法は、対象者につい語る5分間 のモノローグで評価する①Five Minutes Speech Sample(以下FMSS)と質問紙評価である②Family Attitude Scale(以下FAS)を用いた。家族のQOL評価としてすでに標準化された②SF-36v2を用いた。子どもの行動評価 として③Child Behavior Checklist(以下CBCL)を用いた。(3)研究デザインはB、Cでの横断研究および コホート研究、B、Dでの介入研究である。

3.倫理的配慮

日本女子大学大学院北西研究室よりA市B療育センターあてに研究協力機関としての依頼を書面にて行い、 A市B療育センターの倫理委員会の機能を持つ運営会議にて正式な承認を得た。その後、対象者には研究の 目的と個人情報の守秘性等を説明し、公表について書面にて承諾を得、倫理的配慮を期している。

4.研 究 結 果

中核カテゴリーは、自己像や自己概念などという自己そのものと、自己と他者との関係というふたつを 包含して、≪自己のポジショニング≫とした。
 障害のある子ども、もしくはその疑いのある子どもの出現は、母親に≪自己のポジショニング≫を否がお うなく、迫るできごとである。母親の≪自己のポジショニング≫とは、これまで漠然ともっていた自己の イメージと、他者との関係の中で自分自身をどのように位置づけるかという、自己と関係の双方に揺らぎ をもたらす物語である。これまでの「障害のこどもをもつ親の障害受容論」で言われてきた「価値の転換」 などという次元ではなく、自己そのものの変革を迫られる出来事である。自己と関係を変容させてゆくプ ロセスは、「子どもの障害特性にまつわる事象」と「他者との関係」という2つの要因に強く関与されて ゆく。
 「子どもに障害特性にまつわる事象」には、障害特性そのものが規定する【医師の告知や説明の内容】、 【こどもの病の特性】、【わが子を障害と認識する時期】の3つが抽出された。「他者との関係」の他者 には、<わが子>、<夫・原家族>、<友人、近隣>、<障害児の母親>といった、いくつかのディメン ションがある。母親は、「他者との関係」において、【懐疑】、【傷つき】、【受容―拒否】、【安心】、 【断絶】、【共有】、【違和感】、【分かち合い】、【居場所】という意味づけを行いながら、≪自己の ポジショニング≫を変化させてゆく。
 ≪自己のポジショニング≫の変容プロセスには、「子どもの障害特性にまつわる事象」と「他者との関係」 の組み合わせの違いによって、4つの異なるパターンが見出された。4つのパターン、どれも≪自己のポジ ショニング≫の揺らぎであるが、異なる4つの様相があり、『再生』、『逃避』、『獲得』、『境界』で あった。この4つは、まず、大きくふたつのストーリーに分かれる。そのふたつの違いは、母親にとって <自己全体の崩れ>という『自己全体との対峙』が中心か、<わが子を守る>という『母親という部分の 自己の揺らぎ』が中心のテーマになるかであった。

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