特定課題セッションV :障害をもつ子どものケアと家族役割  辻本 すみ子

障がい児を養育する母親の健康問題に関する検討

○ 桜美林大学健康心理・福祉研究所  辻本 すみ子 (会員番号7881)
キーワード: 《障がい児を養育する母親》 《ストレス》 《不合理な信念》

1.研 究 目 的

核家族・少子化の傾向が加速している現在,社会資源としてのサービスを利用しながら,家族の各成員の自己実現も可能にする育児支援が求められている.特に,障がい児を構成員として持つ家族には,1)障がい児を育てる24時間・365日の肉体的負担2)「障がい児を生んでしまった」という罪の意識に由来する心理的負担3)障がい児を育てる際の特別な経費による経済的な負担の「3重の負担」があると言われている.また,日本には,社会規範として母親に固定的な役割が求められ,児の障害の原因を自分に帰属させ,過度な罪悪感を持つという(石野,2007).母親の健康問題を検討する際に,これを育児に関する特有の不合理な信念(Ellis,1975.以下ビリーフ)と捉えて,ストレスとの関連を検討する必要がある.さらに,児の障害種別による母親の健康問題にも着目する.

2.研究の視点および方法

被調査者:1歳から18歳までの障がい児の母親.調査時期:2009年5~7月 手続き:A市内のB特別支援学校PTA会員,C地域療育センター・D特定非営利活動法人(NPO)・F社会福祉法人利用者の保護者894名に調査用紙を配布.自記式. 無記名.郵送回収.調査内容:(1)個人属性:年齢,就労状況,住所,配偶者の有無,同居家族の人数(2)子どもの属性:年齢,性別,きょうだい数,障がいに気づいた年齢,気づいた人,障害種別,現在の所属の有無とその機関(3)環 境要因:経済状態,社会資源サービス利用状況 (4)職業性ストレス簡易調査票・ストレス反応(OSRS;下光,2000): 「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」計29項目,4件法(5) 障がい児の母親の心理社会的健康度尺度(MPSH):「特有の親役割による心理的負担感]「同肯定的変容(逆転項目)」「療育への模索]「特有の将 来不安」20項目 ,4件法.中塚(1985)を参考に,当事者及び専門職にグループインタビューを行い,項目を選定した .先の研究により,項目の追加の必要性はあるが,一定の信頼性・妥当性を得ている. (6) 日本版不合理な信念(JIBT -20;森ら,1994):「自己期待」「依存」「倫理的非難」「問題回避」「無力感」計20項目,5件法. (7) 障がい児の 母親の不合理な信念 (MIBS):「母親役割固定感」「母親役割不全感」10項目,5件法.当事者及び専門職にグループインタ ビューを行い,項目を選定した. (8)配偶者との関係性(ARS;高橋,2002),配偶者満足度 (9)自由記述.

3.倫理的配慮

調査用紙には,無記名,データの使用は研究目的に限定,個人情報の匿名処理,参加は自由意志等の依頼文を付け ,各機関の責任者に配布の依頼をした.調査用紙の返信により協力受諾とした.なお,本研究は桜美林大学研究倫理委員会により承認済みである.

4.研 究 結 果

調査用紙は, 338人から回答があり,回収率は37.8%であった.母親の年齢は,平均41.1(±5.8)歳,子どもの年齢は,平均9.7(±4.7)歳であった.ストレスの関連要因の検討を行なうため,「母親の属性」,「児の特性」 ,「障害覚知:診断後の年数」,「経済状態」,「サービス利用状況」,「配偶者関係・満足度」,JIBT下位尺度及び 全体,MIBS(「母親役割固定感」,「母親役割不全感」)を独立変数,OSRSとMPSHを従属変数とし,統計学的分析を行ない,相関関係のあった変数を強制投入し重回帰分析を行なった.図1に,従属変数をストレス反応全体とした時 ,有意な決定係数(R2 =.40, F(15,238)=10.60, p<.001)が得られたストレス関連要因の標準偏回帰係数βを示した.

β:標準偏回帰係数

正の関連があったのは,ビリーフの「無力感」「母親役割不全感」「母親役割固定感」,「民間サービス利用」, 「母親年齢」であり,負の関連が,「経済状態」「配偶者満足度」「依存」「きょうだい数」であった. MPSHでは, 正の関連は,「無力感」「母親役割不全感」「母親役割固定感」「母親年齢」「問題回避」「民間サービス利用」であり ,負の関連は,「配偶者満足度」「障害覚知」「きょうだい数」であった.

 

障害種別によるストレス反応の比較では,一元配置の分散分析を行ない,ストレス反応「全体」「疲労感」「抑うつ 感」で有意であったので,Tukey のHSD法(5%水準)による多重比較を行なった.知的障がいと自閉症の重複障がい 児の母親は,知的障がいのみの母親よりストレスが高かった.分散分析結果を表1に示した.

表1.ストレス反応の障がい種別による比較

従属変数をMPSHにした場合,「特有の負担感」では,ストレス反応と同様に,知的障がいと自閉症の重複障がい児 の母親は,知的障がいのみの母親よりストレスが高かった.「療育への模索」では,発達障がい児の母親のストレスが, また,「特有の不安感」では,発達障害と自閉症の重複障がい児の母親のストレスがそれ以外の障害の母親より高かっ た.今後の課題は,ストレス環境要因を含めたアセスメントを継続すること,障害種別により異なる心理的負担に配 慮した支援の検討,並びに障がい児の母親に特有のビリーフの構成概念の適切な表現や方向性についての質的研究で ある.

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp