特定課題セッションIII :社会福祉関係職の養成、およびその研究内容と方法における課題と展望
                       南 彩子

社会福祉教育における教育評価の方法と課題

○ 天理大学  南 彩子 (会員番号1178)
キーワード: 《到達度評価》 《達成課題》 《評価基準(ルーブリック)》

1.研 究 目 的

中教審による「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(2008年12月)では,グローバル化する知識基盤社会にあって,高等教育はユニバーサル段階となり,教育の質保証として「学士力」の提示や到達目標の設定,また多面的な評価の仕組みの導入と活用を検討し,出口管理を徹底していくことが謳われている.「学生の教育効果に関する評価を精緻に構築していくことは,次世代につながる人材の育成といった点でも緊急の課題である」という指摘がある(沖・杉谷・山田・ほか2005:297)一方で,「大学での評価手法の開発にはほとんど手がつけられていないのが現状である」ともいわれてきた(沖・杉谷・山田・ほか2005:297).そこで,2010年度初年次演習教育において報告者が行ったルーブリックによる評価と効果測定法を提示しながら,教育評価の方法と課題について検討したい.

2.研究の視点および方法

学習成果の評価方法には,「他者評価」「相互評価」「自己評価」の3種類がある.なかでも,学習者による自己評価が行われた場合には,達成状況を自分自身で把握できるために,勉学への意識が高まり意欲を喚起することができる.自己の学習達成状況を知って納得したとき,自律的な学習者となれる.これから求められる学生像は「主体的・自律的な学習者」であろう.その実現のために求められることは,これまで教師の視点で記述されていた教育目標を,学習者の視点から見直しをして学習目標として記述し直すことである(西岡2004:164).さらに,ディプロマポリシーを明確にするうえから,到達点を明確にし,到達度評価を取り入れることである.到達度評価論では,教育実践の開始時に「診断的評価」,途中で「形成的評価」,終わりに「総括的評価」が行われる(西岡2004:172-3).
  また,評価の観点として「認知的領域」「情意的領域」「精神運動的領域」が沖(2005)によって示されているが,試験やレポート等で評価できる「認知的領域」を除けば,評価の方法が曖昧で不明瞭である.そこで,一つの手法としてルーブ リックを用いることが提唱されてきた(山崎・瀬端2003;沖2005;寺嶋・林12008;小泉2008ほか).ルーブリックは、到達目標に到達するまでに必要な一つひとつの課題を、段階的に示した評価指標である。これを用いることで,学生に対しては明確な学習目標が,教員に対しては明確な教育目標が与えられる.ルーブリック評価の最終目的は,学習(教育)内容を自ら内省することで,学習(教育)内容を改善することであり,地道な継続的努力が求められる.
  報告者が行った評価の方法とプロセスは,つぎのとおりである.①授業初回に「到達目標」4項目とその下位尺度としての「達成課題」(計22),さらにルーブリック(評価基準)を提示する.②評価の方法と意味・意義・目的について十分説明する.③授業開始前・中間・終了時の3回にわたって診断的評価・形成的評価・総括的評価を実施.④評価結果を数量化し統計的検定を行う.達成課題ごとの点数の変化をグラフ化し,学習者自身が効果を認識できるようにし,教師と共有する(評価表の構造と各項目の内容は当日提示する).
ルーブリックの構成例

3.倫理的配慮

記入にあたり,目的と趣旨を説明し,結果については学習者名を特定できないように配慮のうえ,全体傾向を公表する場合があることについても説明して,実施.

4.研 究 結 果

こうした評価方法を実施することによる効果と課題は,つぎの通りである.
①学習者自身が,評価のプロセスを通して,目標への到達度や変化を認識・内省できる.評価では,そのプロセスにおいて必ずやリフレクティブ(内省的)な時間を通過する.
②教育者側の効果として,結果の視覚化により効果や課題を学習者とともに確認できる.
③課題としては,効果測定指標の尺度化は,限定的条件の下でのものであり,同時に統計的検定も限定的条件でのもので あることを認識しておくことが必要であろう.
④評価結果を数量化して,ノンパラメトリック検定によって,効果が測定できる.ただし,少数の調査対象には偏りがある ことに加えて,外生変数のコントロールの問題をクリアしていない.このことは教育における効果測定というもののもつ 限界性を示唆する.
⑤教育実践の尺度化自体,不確かさを含み,ある意味で数量化に馴染みにくいといえる.
⑥教育評価の現実を精確に反映するために,定性叙述的評価を併用することも必要である.
 以上のような課題と,その限界を乗越える努力や工夫について検討したい.

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp