特定課題セッションIII :社会福祉関係職の養成、およびその研究内容と方法における課題と展望
                       志水 幸

社会福祉専門職養成教育における教養教育の意義
 -福祉系4年制大学における教育課程を中心に-

○ 北海道医療大学  志水 幸 (会員番号1727)
キーワード: 《社会福祉教育》 《専門職養成》 《教養教育》

1.研 究 目 的

社会福祉専門職の養成課程は、実に多様である。一例として、社会福祉専門職の中核である社会福祉士の養成課程を 概括すれば、福祉系4年制大学を含む4つの課程が想定されている。その意味で、福祉系4年制大学は、社会福祉学教育 ・研究の場であると同時に、社会福祉専門職養成教育・研究の場でもある。
 翻って、福祉系4年制大学における専門職養成と、他の養成課程との違いは何であろうか。それは、指定科目をミニマム ・スタンダードとし、その上に大学ごとに特色あるカリキュラム編成のもとで専門職養成を行うことであろう。仮に、 大学設置基準に準拠し、当該大学の卒業要件を124単位とした場合、社会福祉士のみの養成であれば指定科目外の単位 は61単位ということになる。その中に、多様な福祉系科目を配置することも魅力的ではあるが、大学本来の意義に鑑み 教養教育の意義を疎かにすることはできない。
 そこで、本研究では、市民的教養と社会の要請に応えうる実践力を兼ね備えた専門職養成に資するべく、社会福祉 専門職養成教育における教養教育の意義について検討する。

2.研究の視点および方法

教養教育とは、日本学術会議の日本の展望委員会(知の創造分科会)による提言「21世紀の教養と教養教育」 (2010年4月5日公表)によれば、①教養教育の中核としての「共通基礎教養」、②一般教育と専門教育の接点における 「専門基礎教養」、③教養教育の一翼を担う「専門教養教育」として整理される。
 本研究では、この枠組みを援用し、これまでの専門職養成教育や社会福祉学定立に係る議論において、いわゆる "教養"がどのように位置づけられていたのかを整理し、その今日的意義に迫りたい。その意味で、本研究は文献研究 手法を採用した社会福祉教育史研究である。

3.倫理的配慮

本研究は、多数の一次史料等を収録した文献・資料を素材とする文献研究手法による歴史研究である。したがって、 文献・資料等の引用にあたっては、日本社会福祉学会研究倫理指針を遵守するものである。
4.研 究 結 果
【教養の範型および現実的要請】筒井清忠によれば、教養の範型は、①専門に対する基礎としての教養、②幅広い知識 としての教養、③文化の習慣による人格の完成という意味での教養に整理される。しかし、その現実的要請は、①ユニ バーサル化への対応としてのリメディアル教育、②既存のディシプリンに対応しないコンピテンス重視のスキル教育・ キャリア形成、③専門導入教育の一環としての基礎学、④人間形成としてのリベラル・アーツとして整理することが できる。
【専門職養成における教養系科目】社会福祉士・精神保健福祉士養成における「心理学理論と心理的支援」「社会理論 と社会システム」等は、基礎学としての位置づけとなる。他方、介護福祉士養成における「人間と社会に関する選択 科目」は、リベラル・アーツ的要素をも含むものであるが、多分にスキル教育的色彩が強い。他方、国際動向に視点 を転じれば、国連による1950年調査報告では、履修の前提条件として社会学、心理学等を採用している国が多いこと を指摘している。同様に、IFSWの定義(2000年)でも、人間の行動と社会システムに関する理論が重視されている。 これらも、基礎学としての位置づけである。
【社会福祉教育における教養の位置づけ】戦前の三好豊太郎の議論によれば、普通人としての人格教育と特殊教育が 重視されていた。他方、戦後の文部省による「社会事業学部設立基準に関する決定事項」(1947年11月21日)によれ ば、一般的教養と透徹した洞察力が重視されていた。これらは、人間形成に係る視点の重視である。
【社会福祉学定立に係る議論】社会福祉学は、嶋田啓一郎によれば、生物学、心理学、社会学、文化人類学等を基礎 とする応用科学として定立する。京極高宣によれば、社会諸科学を基礎とする学際科学として定立する。これらは、 基礎学としての位置づけである。
【総括と今後の課題】以上から、社会福祉専門職養成教育における教養教育の意義は、①基礎学と②人間形成に収斂 される。先述の日本学術会議の提言に従えば、基礎学としての位置づけは「専門基礎教養」(教養と専門の連携)で あり、教育項目の精査が課題となる。人間形成は「共通基礎教養」(教養の独自性)であり、その核の抽出が課題と なる。他方、先行議論からは抽出されなかった「専門教養教育」(教養・専門に共通する課題)は、スキルやコンピ テンス養成に係る効果的な教育方法の選択(教授法)が課題となる。今後、教育課程の編成や教育方法の開発にあた っては、この点に係る特段の配慮が必要である。

〈文献〉
筒井清忠:日本型「教養」の運命‐歴史社会学的考察.岩波文庫,2009年.
三好豊太郎:社会事業教育の意義と内容と分野.中央社会事業協会社会事業研究所:社会福祉事業研究18〔10〕.1935年.(所収)
United Nations:Training for Social Work [An International Survey 1950]
嶋田啓一郎:社会福祉体系論‐力動的統合理論への途.ミネルヴァ書房,1980年.
京極高宣:社会福祉学とは何か‐新・社会福祉原論.全国社会福祉協議会,1995年.

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